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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
第十一章 虚構の正義
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128話 未遂

「やあ、よく来たね」


 40代半ばの優しげな男性が、柔和な笑顔でふたりを出迎える。男性からは騎士団トップ、元帥という階級を感じさせない親しみやすさがあった。


「お忙しいところを申し訳ございません」


「いや、構わないよ」


 元帥はまるで友人が遊びに来たかのような態度だった。リオンを一瞥して、またも笑顔を浮かべる。


「なるほど。門前払いされているとわかると、大将を使ってまで私に会いにくるとは……少しは政治というものがわかってきたようだね」


 そう言って元帥はくつくつと笑う。


「可愛い我が子が成長されて何よりかと思いますが、どうやらお話があるそうですわ」


 クレアはそう言うとリオンに前に出るように目配せをする。


「ほお?」


「あの……ランドール元帥……」


 さすがのリオンも緊張しているようだ。


「大将であるクレアまで使って元帥執務室(ここ)まで来たんだ。何かあるなら言ってみなさい」


「はい……」


 頑なにリオンを避けていたのはどうやら演技だったらしい。元帥に会いたいならそれなりに()()()()と言いたかったようだ。


「せっかくの親子水入らずですし、お邪魔のようでしたら退散しましょうか?」


 クレアは少しからかうにように声をかける。


「いや、それには及ばない。それでリオン、私に何か言いたいことがあるのだろう? 何なりと言ってみなさい」


「は、はい……では――――」


 リオンは自分が閑職の部隊へ配属されたこと、今回の魔族襲撃の一件から、現在に至るまでの全てをリオンの推論で話していく。自分を都合のよい手駒にするために、部隊丸ごと見殺しにする非道な行いを自分の父親が命令したと。ジェノスは真剣な表情で話を聞く。対照的にリオンは徐々に感情的になり、最後は涙声になっていく。クレアに話したときはまだ感情を保てていたが、元凶である本人を前にすると、感情を抑えることができなくなっていた。


「話は以上かい?」


 ジェノスは涼しい顔でリオンを見た。一方のリオンは肩で息をしながら目を腫らしていた。


「え……ええ」


「正直驚いているよ。あのリオンがそんな考えに至るとは思わなかった。ひょっとしてクレア大将の入れ知恵かな?」 


 ジェノスがクレアを一瞥する。


「いいえ。私は何も話していませんわ」


「そうか、なら自分ひとりでその答えに辿り着いたわけか」


 ジェノスは考え込むような素振りをしながら下を向く。そして顔を上げて、リオンに向かって微笑む。


「成長したんだね。父親として素直に嬉しいよ」


 屈託のない笑顔を向ける父親に対して、リオンの顔からは表情が消える。


「否定……して下さらないのですか?」


 できることなら間違っていてほしかった。しかし――――


「否定? 何について否定すればいいのかな?」


 ジェノスは笑顔のまま話し続ける。


「部下を死なせたことを気にしているのかな? あれは気にしなくていい。お前の落ち度じゃない。あそこに出現する上級魔族は尉官率いる小隊でどうにかできるものじゃない。だからウォーレンとザトーを向かわせた」


 ジェノスはまるで知っていたかのように話す。


「アイギスがあそこに現れたのは想定外だったが、()()()()()()()()、君も無事に帰ってきた」


「な、何を言っている?」


 ジェノスの言葉に耳を疑うリオン。父親の言葉にガンガンと頭痛すら覚えた。


「部隊が全滅してお前もわかっただろう? 尉官が現場で粋がっても早死にするだけだ。お前はまだまだ学ばなくてはならないことが山程ある。火遊びはこの辺にして、これからは弁えなさい」


「本当に……そのためだけに部隊を全滅させたと?」


「そうだ。お前の頭を冷やすにはそれくらいは必要だったからね。あぁ損害は気にしなくてもいい。元々出来損ないを集めた部隊だ。大したマイナスはないからね」


 ジェノスはやはり笑いながら話す。リオンは目眩がした。目の前にいる男は、何十人という部下を殺したのだ。自分の娘の目を覚ます。ただそれだけのために。

 最初から仕組まれていた。大隊本部から自分が獲ってきたと思っていた仕事も、臆病者のアンドレ率いる小隊と組むことも、あの場に強力な上級魔族が現れたことも、殺されていく部下をただ眺めるだけの将官も、全てジェノスの差し金だった。

 彼にとってランドール小隊の団員達の命などリオンの教育に必要な経費に過ぎないのだ。


「心配しなくても、もう少し賢くなればもっと大きな精鋭部隊を持たせて――――」


「黙れ!!!!」


 リオンは理解した。全ての元凶はこの男だと。この男が組織を腐敗させ、部下の命を奪った諸悪の根源だと理解した。死んでいった部下達は人間だ。それぞれに家族が、友人がいる生身の人間だ。人を人とも思わない父親の卑劣な言動に、リオンの怒りは臨界点を越える。


「貴様が……貴様さえいなければ……」


 リオンは空中に展開した魔法陣に手を伸ばす。


「がぁっ!?」


 魔法陣から剣を召喚しようとした瞬間に、どこから現れたのか、クレアの部下である黒衣の騎士に取り押さえられる。地面に組み伏せられ、あっという間に拘束される。


「うっ……」


 そして一撃で昏睡させられる。


「やり過ぎたわね。リオン・ランドール。実の娘と言っても元帥に剣を向ければ極刑ものよ?」


「はっはっは。君のお陰で未遂だがね」 


 ジェノスはリオンに殺されかけたと言うのに笑顔のままだった。彼の中では娘が(じゃ)れてきたくらいの感覚のようだ。


「ランドール元帥、クレア大将。いかが致しましょう?」


 黒衣の騎士がリオンの処遇を尋ねる。


「地下牢にでも入れておきなさい。ただし他の人間に気づかれぬようになさい」


「はっ!」


 黒衣の騎士は魔法陣にリオンを閉じ込めてから、素早く姿を消した。


「申し訳ございません。私が連れてきましたのに……」


「いや、構わないよ。やれやれ、もう少し賢いものかと思っていたんだがねぇ」


 まるで聞き分けの悪い娘に対して愚痴を溢すようや口振りだった。

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