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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
第十一章 虚構の正義
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123話 アイギスと王国騎士団

「情報提供だと……?」


 リオンは立ち上がろうとしたが、まだ完全には回復しておらず、立ち上がることは叶わず、何とか上半身だけ起こして瓦礫に体に預ける。


「無理はよしたまえよ。まだ傷は癒えていない」


「心配は……無用だ……」


 リオンは気丈に振る舞うが喋るだけで息が上がった。それでもアイギスの人間に弱みは見せたくなかった。シャルロットはリオンのそんな事情などお構いなしで語り始める。


「君達、王国騎士団と比べてアイギスは遥かに歴史が浅い。だが現在の組織の規模は支部の人間を含めれば10倍は開きがあるだろう。騎士団が我々を目の敵にする気持ちはわかる」


「貴様……」


 シャルロットの遠慮のない言葉にリオンはひたいに青筋を浮かべる。


「高貴な君達は民間人から金を取ることもせず、命で奉仕しているにも関わらず、人々は何故かアイギスに高い金を払い領土防衛を依頼する。民間人に袖にされた騎士団の面子は丸潰れだ。騎士団がアイギスを憎む理由はこんなところだろう?」

 

 リオンは声を荒らげそうになるが、理性で踏みとどまる。ここで熱くなるのは、相手の言葉を肯定することと同義だ。

 リオンが挑発に乗らないことを確認するとシャルロットは話を進める。


「まあ今はそんなことはどうでもいい。我々は思想は違えど目的は同じだ」


「……」


「魔族の殲滅。そして人間界の平定だ」


 シャルロットの言葉は間違いではなかった。遥か昔は綺麗に棲み分けされていた、人間界、魔界、精霊界。だが、いつからは均衡は崩れ、魔界の民は人間界へ侵攻するようになった。そんな魔族に対抗するべく作られた組織が王国騎士団だ。そして後にアイギスを筆頭に数多くの対抗組織が作られていった。全ては「人間の平定の為」である。


「綺麗事を抜かすな。騎士団と貴様らとでは理念が違う」


 王国騎士団とアイギスの最たる違いは民間人から金を取っているかどうかだ。騎士団は国が運営している公的組織のため、魔族討伐、領土防衛といったことで民間人から金銭を取ることはない。「無償で人々の為に奉仕する」ことで気高い精神性が保たれる。騎士団にはそういった教えもある。ようは金でなく『正義』で動いていると。


「ふははは。()()()の君達と我々を一緒にされては困るなぁ……アイギスは国に属さない独立組織だ。無料(ただ)で助けていては食っていけないのだよ」


 真っ当な意見だった。国によって生活が保証されている騎士団と違い、何らかの形で収入がなければアイギスは立ち行かなくなる。それを領土を治め、領土防衛と引き換えに税金という形で金銭を徴収している。これが騎士団の人間から「民間」と揶揄される所以である。


「それに我々アイギスは金さえ払えば、どんなことがあろうともその領土と民を死守する。例え相手が神や悪魔であってもだ。()()()()している君達より健全だと思わないか?」


「選り好みだと!? 私達が守る人間を選んでいるとでも言うのか!?」


「如何にも。現に今回の襲撃を防げていないだろう? 上級魔族もいる魔族の集団に1小隊では少なすぎると思うが」


「我々にも事情がある……全ての人々を万全に守ることはできない……」


 巨大組織と言えど兵の数には限りがある。全ての人間を守ることはできやしない。


「お前達の言っていることは言葉尻をとらえてるだけに過ぎない!」


「なるほど。限られた戦力の中でベストを尽くした。君の主張はそういうことだね?」


「……何が言いたい?」


 リオンはシャルロットの本意がわからなかった。


「不思議に思ったことはないかね? 無償で魔族と戦ってくれる騎士団がいながら、何故人々はアイギスに高い金を払ってまで領土防衛を依頼するのか……」


「それは……」


 リオンは困惑した。民間組織のアイギスの台頭は人々がアイギスに仕事を依頼するからだ。しかし騎士団がありながら何故人々がアイギスを選ぶのか、その理由はリオンにはわからなかった。


「おやぁ〜簡単な問題だと思うのだが、わからないかな?」


「…………」


 リオンは本当にわからなかった。今回のように常に万全とは言えないが魔族が出没すれば騎士団が人々のために戦っている。より強固に領土を守りたい貴族は防衛費を捻出してアイギスや私兵を雇うことがある。だがそれは潤沢な資金を持つ者だけだ。多くは無償で動く騎士団に頼らざるを得ないはずだ。


「わからないのかね?」


 シャルロットの問いにリオンは呆けたままだった。


「答えは簡単だ。騎士団が全ての民を救っているわけではないからだよ」


「なんだと?」


「騎士団も我々アイギスと同じく、騎士団本部があるこの国を中心に広く点在している。だが、国費とは言え予算は有限だ。兵士の数を無限に増やすことはできない。故に手の回らない土地が必ず出てくる。そうすると騎士団としては優先順位をつけなければならない」


「……それは仕方のないことだ」


 先程と同じやり取りだ。限られた兵力では全てを万全に守ることは物理的に不可能だ。場合によっては取捨選択を迫られる場合もあるだろう。


「まあ確かに仕方ないことだろう。だが、土地によっては完全に見捨てられた町や集落も存在するのだよ」


「見捨てるだと……馬鹿なことを……」


「魔族の襲撃を受けるも何日経っても騎士団が助けが来ない。住人が全て殺され、地図から消えた町も少なくない」


 リオンの顔色が変わる。


「騎士団は当てにならない。ならば死ぬよりはと、高い金を払って護衛を雇う必要が出てくる。そうして我々アイギスにお呼びがかかるわけだ」


「嘘だ……」


「嘘かどうかは今のアイギスを見ればわかるだろう。我々はこの数年だけ見ても飛躍的に組織を拡大している。君達の仕事が如何に()()()()()()()を証明していると思わないか?」


 リオンは言葉を失くす。騎士団が全ての土地に手が回っていたとは思わない。しかし土地によっては見切りをつけている話は聞いたことがない。というよりそんなことは()()()()()

 そしてシャルロットはリオンにとって絶望的な事実を突きつけていく。


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