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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
第十章 王国騎士団少尉リオン・ランドール
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117話 リオンの実力

 模擬戦が始まり、リオンは次々と古参の団員を薙ぎ倒していく。


「どうした!? ひとりが無理なら複数でかかってこい!」


「舐めやがって! いくぞおめぇら!!」


 リオンの挑発に団員達は躍起になり向かっていく。そのほとんどが魔法でなく、単純な筋力に頼ったシンプルなものだった。剣術、魔法共に卓越した実力を有しているリオンにとっては、はっきり言って敵ではなかった。二人がかり、三人かがりで向かってくる団員達を見事に返り討ちにしていく。


「どうした!? まだまだかかってこい!」


「上等だよ!! うらぁぁ!!」


 団員達は相手が上官だということも忘れ、怒りに任せて力の限り突っ込んでいく。リオンはくるくると舞うような剣技で団員の攻撃をいなし、そして仕留めていく。1時間が経った頃――――


「ぜぇ……ぜぇ……どうした……もう……終わりか?」


 剣技や魔力では遥かに団員達を上回るリオンも都合数十人を相手にするのは体力の限界を超えたようだ。


「ま……まじかよ……」


「こっちは何人いると思ってんだよ……」


 団員達も限界のようで、しゃがみ込んで肩で息をしている。もうリオンに立ち向かう者はいないようだ。


「いいだろう……これで訓練を……終わりとする……」


 もう立ち向かってくる者がいないことを確認して、リオンは息も絶え絶え訓練終了を告げ、大の字に倒れる。


「ランドール少尉!」


 審判を務めていたマットが駆け寄る。


「済まない……しばらくこのままで……」


 模擬戦によるダメージはほとんどなかったが、単純にスタミナの限界だった。豪快に天を仰ぐリオンを見て団員達も思うところがあるようだった。


「あの女まじかよ……」


「どうやらお飾りじゃなさそうだな」


 直接刀を交えた団員達はリオンの実力を認めたようだった。その日からリオンは緩みきった団員達の尻を叩き、小隊を真っ当な方向へ導き始めた。

 それは任務だけでなく、私生活にも渡った。


「おい、なぜ部屋に酒瓶が転がっている?」


「いや……あ、これはですね……」


「飲むのは構わない。ただし広間で飲め。あと消灯時間を過ぎての飲酒は認めない」


「え? じゃあ広間で……消灯時間までならいいんですかい?」


「構わない。お前達にも息抜きは必要だろう?」


「…………」



 またある日は――――


「あの少尉……なにを?」


「見てわからんか? 掃除だ」


「そんな少尉自ら掃除なんか……」


「共用部なんだ。別に誰がやっても構わないだろう?」


「…………」



 リオンは緩みきった小隊を厳しく律しながらも、必要以上に締め付けることはせず小隊を統率していった。リオンのその姿を見て、やる気のなかった団員達も徐々に行動を改めていった。団員との対話が増え、小隊の騎士団内での立ち位置もわかっていく。

 リオンの小隊は所謂「閑職」だった。素行不良の者、任務で失敗した者、実力的についていけなかった者など、理由は様々だが(みな)元の部隊から()()()()()()()のだ。

 それでもこの閑職に配属されてすぐは、もう一度返り咲きを目指して努力する者も少なくないが、実務らしい仕事は与えられず補給任務や僻地での警備など、実戦とは程遠い職務に次第にやる気を失い、既に心折れた先人に感化され自らも墮落していく。上官として配属される下士官も貴族上がりの若者で、もはや自浄は不可能に近い惨状だった。

 では何故、上級貴族のリオンがこんな閑職に配属されたのか。理由はシンプル「危険が少ない」からだ。最前線で戦う精鋭部隊にはどうしても「死」の危険がついて回る。いくら実力があるからといっても精鋭部隊に送り「元帥の娘」を死なせるわけにはいかない。リオンを()()()昇進させるために他の将校達が忖度(そんたく)した結果、現在の小隊に配属されたのだ。


「なるほどな……悪習は未だに健在か」


 団員達と食卓を囲みながら、リオンは廃れたと思っていた騎士団の悪習が未だに残っていることに憤る。


「まあそんなわけで俺らもこんな感じになっちゃったわけなんすね……」


 赴任して一月が経つ頃にはすっかり団員と打ち解け、互いに忌憚のない意見を交わすようになっていた。


「お前達の境遇に同情はするが、だからといって任務を蔑ろにしていい理由にはならない」


「まあそうなんすけどね……」


「よくわかった。私も剣を握らない任務には飽き飽きしていたところだ。仕事を引っ張ってこよう」


 翌日リオンは小隊を管轄する大隊本部に顔を出す。


「え? 湾岸地区の警備ですか?」


「はい。コーク小隊は負傷者が相次ぎ、人員不足と伺っています。湾岸警備は是非、現在手の空いているランドール小隊にお任せいただきたい!」


 湾岸地区には最近魔族が出没する危険な地域だ。元帥の娘をそんなところに送り込み何かあれば自身の責任問題になる。担当の尉官はひどく渋るもリオンに押し切られるようにランドール小隊に警備を任せる。


「湾岸警備は危険な任務だ。油断すると死ぬぞ! これより対魔族を想定した訓練を行う!」


「おお!!」


 ランドール小隊はこのようにリオン自ら仕事を獲得していき実績を積んでいく。任務のランクがあがれば団員達の士気も高くなり訓練にも身が入っていった。

 だが、この活躍を快く思わない人間もいたようだ。



「合同警備ですか?」


「え、ええ……なんでも最近のランドール小隊の活躍を見て是非協力をお願いしたいと……」


「承知しました。お引き受け致します」


 初めての他小隊との合同任務だったがリオンは快諾した。しかしリオンは見誤っていた。元帥の娘そしてランドール家の娘という己の立場を。だが、彼女がそれに気づくのはしばらく先の話だった。

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