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その4

 

「今日は本当に良い天気ね……」

 そう呟いて運転席から見上げた空には終わりが無く、どこまでも延々とただ青く広がっている。


 いくら辿っていってもそこに果てなど見つかる筈もない。

 それでも百合はいつも探してしまう。

 それがどこか信じられなくて。


 永遠なんてものは自分には無かったから。


 自分だけじゃない、人には必ず限界がある

 期待すればするほどダメになった時のショックは大きい

 それならいっそ希望なんて持たないほうが楽


 若くして挫折を味わった百合は、いつしかそんな風に考え、知らずの内にそれを人にまで押し付けるようになっていた。


 だが、今日目にした静和の選手達は、百合の持論を真っ向から否定する形になった。


 特に、あの点差で最後の最後まで走り続けた姫野の姿がどうしても百合には許せなかった。


 今にして思えば、それは許せないというよりも姫野に対しての嫉妬だった。


 粗削りだが、誰よりも強い意志を持ってゴールに向かって行く……


 志半ばで砕け散った昔の自分とよく似ていたからだ。

 百合は気づかない内に過去の自分を姫野に重ねていた。

 そして、その闘志剥き出しのプレーに目を奪われ、試合終了のホイッスルが鳴るまで内心静和の奇跡を期待していたのだった。


 あの時の自分には起こらなかった奇跡を。


 失った時が戻ってくるのならどんなに良いだろう……

 私にはあの子達が羨ましい……


 百合は今日出会った少年達を通して、久々に自分と向き合っていた。


 こんな気持ちになれたのはいつ以来だっけ?

 もう一度確かめたい……か


 確かに私と違って彼等には可能性が残されている

 勝てないと言っても決して100%という訳じゃない……


 私の限界は人に決められた……

 私にはそれしか道が無かったから


 でも……彼等の限界を決めるのは私じゃない

 考えた事もなかったな……誰かに自分の夢を託すなんて


 否定された自分の価値を取り戻す……

 その為に最強に挑むなんて……


 滅茶苦茶面白いじゃない!!


 絶望に泣いたあの日からずっと忘れていた感情が甦ったようだった。

 沸き立つ想いに胸が高鳴り百合は思わず笑った。


 その笑顔は、記憶の奥底に閉じ込めていたあの写真の自分にも向けられていた。


 長い間縛り付けていた何かを許したように、心がスッと軽くなっていた。


「……しばらく忙しくなるわね」




「あの人凄い怖かったんだけど……斎藤君が何だか怒らすようなこと言うし」

 帰りのバスの中、海は全身の力が抜けたように隣に座る斎藤に言った。


「ん?ああ、姫野ね……アイツはああいうヤツなんだよ、いっつも怒ってる、でもちょっと面白かったろ?昔はそんなんじゃなかったんだけどな」

 斎藤は上州カラーの黄色いバックを取り出して、海の話題にはあまり興味の無いようにサラッと答えた。


「面白いわけないじゃん……え?昔から知ってるの?」

「小学校の頃同じチームだったんだ……アイツもウチのセレクションを受けたんだよ……ま、結果はご覧のとおりさ、俺が受かってアイツが落ちた……それからずっと俺を恨んでるみたいだけどね……」

「ゲ……最悪、それなのにあんな事言ったら怒るに決まってるじゃん」

 海が軽蔑の眼差しで斎藤を非難した。

 斎藤はまったく悪びれずにバックの中を覗き込んでいる。


「……アイツにはあれくらいで良いんだよ、あんなんでどーにかなる奴でもないし、逆にちょっとでも隙見せたらこっちがやられちまう……お前だって試合中何回もやられかけたろ?」

 斎藤がバックに顔を突っ込んだまま鼻で笑った。


「うん、だって圧力が半端なかったし……それにかなり足元上手かった、なのに……なんであの人セレクション落ちたんだろ?ウチにいても良さそうなのに」

「……そりゃ家に帰って島崎監督に聞くんだな、そんなことより……」

「……何?」


 ようやく斎藤が顔を上げた。

 宝物でも見つけたのか、目がキラキラと輝いて満面の笑みを浮かべている。

 そんな斎藤の様子に海はどこか嫌な予感を感じていた。


 この感じ……どこかで……

 まさか……このバック……


 斎藤はゆっくりバックの中に両手を入れた。


「ね、ねぇ……もしかしてそのバック……」

 海が身を乗り出して問いかけたが、斎藤の耳に念仏だった。


 斎藤がバックの中から手を出すと何やら四角い箱が出てきた。

 どうやら弁当箱のようだった。


 その弁当箱にはこう書かれている。


 Kai Shimazaki


「早くこのお弁当食べちゃおうよ!!」

「何で僕のバック勝手に開けてるんだよ!!!!」



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