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その4

 

「じゃあな先生、また来るよ……」



『杉田家之墓』



 姫野と石川の二人が、合わせた手を下ろしてその墓石を後にした。


 灼熱の太陽がギラギラとした日差しを放つ中、迷路のように入り組んだ墓地を一歩一歩踏みしめながら歩いていく。


 すれ違う人もなく、ただただ同じような光景が延々と連なっている。


 暑さ以外に実感できるものと言えば辺りから漂う線香や花の香りだけ、二人の間には特に会話もなく、ほんの少し夢現の空間に迷い込んだような気分になっていた。


「ん?……オイ、姫野あれ……」

 先を歩いていた石川が何かに気付いてその足を止め、背後の姫野に声を掛けた。


 姫野が降り注ぐ光に目を細めながら顔を上げると、遠くからゆっくり近づいてくる人影が一つ見えてきた。


 ヒョロヒョロっとした縦長の体型に、野暮ったい鳥の巣のようなパーマ頭のシルエット。


 近づいて確認するまでもない、それがあの斎藤春樹だという事はすぐに分かった。



「何だ、二人とも来てたのかよ……先越されたな」

 斎藤は二人の側まで歩み寄ってくると、残念そうに言った。


 そこにいつものようなふてぶてしさはまるで無く、寧ろ慈しみさえ感じさせるような面持ちだった。


「俺らなんて遅いほうだよ……春樹が最後じゃないかな?」

「ゲッ!!!!マジか……」

 石川が笑顔で言うと、斎藤はまたも気落ちしたように首をガクッとさせた。


「……お前んトコは全国決まってからずっと忙しいんだろ?

 ならビリになっても仕方ないんじゃねーのか?」

 姫野が斎藤の方を見もせずに、彼なりのフォローを入れてみせた。


「……一番じゃなくても良いけどビリっつーのはな……

 ほら……やっぱりカッコ悪いだろ?」


「ハハ、カッコ気にして墓参りするなよ……」


「フン……」



『……』



「それにしても……あれからもう3年か……」

 沈黙する二人から目を反らして、積み上がった雲を眺めながら斎藤がそう呟いた。


 姫野も石川も斎藤の言葉に何かしらの反応をみせるでもなく、やはり黙ったままだった。


 ただ、ゆっくりと噛み締めるようその記憶を辿り、決して短くはない3年という月日を顧みていた。


 微妙な距離感を保った三人の間を縫うように、一陣の風が優しく吹き抜けていく。


 辺りに植えられた木々の葉が静かにざわつき、斎藤の持っていた菊の花もその手の中でそっと揺れていた。



「……姫野……そう言えばお前、忘れてねーよな?

 スギケン先生とのあの約束……」

 斎藤がポリポリと後頭部を掻きながら、少しばかりとぼけたようなトーンで言った。


「……忘れるかよ、忘れるわけねーだろ……

 あの日……皆の前で言ったじゃねーか……

 俺が……先生の『夢』を叶えるってな……」



「……」


 姫野……

 やっぱりお前……

 あの約束がずっと重荷になってるんじゃ……


 石川は姫野のそのセリフから、決して明かされる事のない彼の胸の内が少しだけ見えたような気がした。


「忘れてないなら良いんだけどよ……

 でも……とてもじゃねーが今のままじゃ無理だぜ?

『Jリーガーになる』なんてな……」

 斎藤はそう言ってひっそり笑い、二人の横を悠々と通り過ぎていく。


「……テメーには関係ねーだろ」

 苛ついた口調で姫野が斎藤の背中を睨み付けた。


「いや、あるね……」

 少し行った所で斎藤は立ち止まり、二人の方を振り向いて言った。

 いつしか彼のその表情は、獲物を前に狙いを付ける狡猾な獣のようになっていた。



「何だと……!?」



「姫野、もう一度だけ言ってやる……

 お前じゃ無理だ、絶対に……

 だから俺が引き継いでやる……

 あの日、お前が誓った約束を……

 俺が先生の夢を叶えてやる!!!!」


 それぞれの思惑を抱え向かい合う三人を、音の壁で囲むように蝉達が一斉に鳴き出した。


 身も心もジリジリと焦がすような8月の中旬の事だった。




「颯太、結局リフティング何回出来るようになったの?」

「……最高20回」

「うーん、小川君はそういうの苦手そうだからな……」


 ある日の練習中の事だった。

 颯太は紘と大成の二人を前に、苦悩に満ちた表情でその坊主頭を抱え込んでいた。


「とにかく夏休み中に100回できねーと……

 このままだと……俺、きっとあの鬼コーチに殺される……」

「……まぁ今日もとりあえず頑張ろうよ」

「そうだよ!!小川君の運動神経なら出来る筈だよ!!

 ……多分」


「ハァー……そうだね、うん……やるか!!

 そうだ!!!!とにかくやるしかねえっ!!!!」

 颯太はそう言うと自分の頬を両手でひっぱたいて、その表情をキュッと引き締めた。


 スプリンクラーで巻いた水分も、ほんの一瞬で蒸発するような暑さだった。


 夏休みもあと僅か、静和中のグラウンドでは今日も変わる事なく少年少女達が汗を流し続けている。


 ある者は笑顔で、ある者は無我夢中で、そしてある者は葛藤を抱えながら。


 それでも流した汗の分だけ人は成長するのだ。

 歩いた分だけ確実に前には進んでいるのだ。


 その距離は人によって様々だろう。


 着けられたその差に打ちひしがれ、時には歩みを止めてしまう事もあるだろう。


 だが、暫くすれば彼等はもう一度顔を上げ再び前へと歩き出す。

 以前よりもずっと強くなって。


 とにかく前へ進むしかない事を、彼等は他の誰よりもよく知っているのだ。



「うおおおおお!!!!やったあああああ!!!!

 21回いったぞおおおおお!!!!」



『そこで落とすんじゃねーよ!!!!!!』



 とにかく前へ……





「何でうちなんだよ!!!!

 颯太の家の方が全然広いだろ!!!!」

 稲葉家の玄関前、仏頂面で扉を開いた紘に颯太、夏海、大成の三人が眩しい笑顔を見せつける。



「ま、いいじゃん、気にすんなよ、

 紘以外に誰もいねーんだろ?ほらみんな上がって」

「お、おい……勝手に……」


『おじゃましまーす!!!!』



「稲葉の家、初めてだな……」


「アタシもー」


「おい、紘何か飲み物ないの?キャルピスとか……」


「……」


 三人がズカズカと上がり込み、こじんまりとした稲葉家のリビングは一気に賑やかになった。


「あ、やばい、もう試合が始まる時間だよ!!稲葉!!テレビ付けて!!」

 壁時計を見て大成が急かすように言った。


「……」

 紘がぶっきらぼうにテレビのリモコンを操作する。


「おおっ!!!!

 いきなりシマザキカイが映ってるじゃねーか!!!!

 スター気取りかよ!!!!」

「島崎君てやっぱり画面映えするよねーほんとイケメンだなー」

「それにしても本当に今年の上州は強いな、まさかここまで勝ち上がるなんて……」


「……」

 テレビに背を向け一人台所でキャルピスを作っていた紘には、異様に盛り上がる三人の話し声しか聞こえてこない。


「うおぃっ!!!!

 せめてテレビのボリューム上げてくれ!!!!」


「アハハ、悪い悪い……」

 台所から叫ぶ紘に、軽く謝りながら颯太がテレビのボリュームを上げた。


「……ったく」

 ブツブツ呟きながら目の前のグラスにキャルピスを勢いよく注いでいく。


 グラスの中では氷がかん高い音を立ててクルクルと回り出す。



「……のは大会史上初の快挙で……」


 おっ……聞こえてきた


 ようやくアナウンサーの声が紘の耳に届くと、キャルピスを作るその手に自然と力が入った。



 とにかく頑張れ島崎君!!!!


 ……絶対に勝てよ!!!!




『……の強豪上州学園、最速の1年生エース島崎海を伴っていよいよ前大会の覇者甲南学園に挑みます!!!!

 さあ、全国中学生サッカー大会決勝……今キックオフです!!!!』




 ライトニング ~坊主頭の100m最速を目指す少年がひょんな事から始めたサッカーに目覚める物語~



 ~第1部 完~



ここまで読んで下さった方、大変ありがとうございます!!

ライトニングはとりあえず何とか無事に第1部の完結を迎える事ができました。

これもひとえに、こんなお馬鹿でハチャメチャな話でも手にとって読んで下さった皆様のおかげです。

さてこれから私は第2部の制作にとりかかるところです。

いつかの活動報告で言ったのですがこの物語の結末は既に決まっています。

どれだけ時間がかかろうが絶対にエタらせません。

ただ、ある程度ストックを作るのに時間が必要なので、第2部の投稿までには少しだけ時間が掛かりそうです。

読者様、どうぞよろしければブクマはそのままでお待ち下さい!!

そしてこの物語の感想、ご意見などあれば何でもご自由にどうぞ!!

また面白ければ評価の方もよろしくお願いいたします!!


目標一ヶ月以内に第2部再開目指します!!

ではそれまでさらばです!!!!


ご無沙汰しております。中々進捗が滞っておりますが第二部は確実に制作しております。見通しが甘すぎましたね(笑)

ある程度物語が進んだ段階で再び発表する形になると思いますのでもうしばらくお待ちくださいませ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白いのと同時に、主人公を見ていると気分が明るくなりました。
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