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その3

 

「ふーん……50mのタイムで足切りされたってわけね……」


「聞いた話だとそうらしいです」



 確かにスピードが速いわけじゃない……

 かと言って決して彼が遅いわけでもない

 やっぱり上州学園の敷居は高いわね


 それで小川君を目の敵にしてるのは分かったけれど

 それにしてもちょっと異常じゃないかしら……



「アナタ達、昨日も聞いたけれど……FWにとって一番重要なものって何か分かる?」

 不意に百合がピッチの姫野を見つめたまま江藤と石川に尋ねた。


「え?そりゃあやっぱスピードじゃないッスか?」

「そうそう、それかテクニックかな……やっぱ」



「……でしょうね」

 百合はやはりと言ったように、二人の方を見もせずそう呟く。



 スピード、テクニック、ほとんどの人間が彼等と同じようにそう答える。

 この二つは確かにFWにとって大きなアドバンテージになる。

 どの指導者もFWにはこの二つの要素を求めたがる。


 だが百合の考えは違っていた。

 それは実に当たり前で本当にシンプルなものだった。



 FWにとって一番重要なもの……


 それはたとえどんな状況であろうとシュートを打てる能力


 決して綺麗に相手を抜き去る事がFWの仕事じゃない……


 例えどんなにスピードやテクニックがあろうと最後にシュートが打てないFWなど怖くも何ともない……


 誰もが取り憑かれたようにこの力を渇望するけれど、

 最も大切な部分がブレてしまっては意味が無い


 セレクションに落とされたという過去の経験からだろうけれど……

 この様子だときっと彼の心には今も呪いのように重くのし掛かっている筈



『自分には才能が無い』という捻じ曲がった固定観念が



 どこか集中力を欠いた紘がフリーキックを大きく外し、2年生ボールで試合は再開していた。


「港!!」

 姫野が颯太を背にして港にボールを要求した。


 颯太は姫野に覆い被さるようにしてボールを奪おうとするが、脅威を感じているのはプレッシャーを掛けている筈の自分だった。


「うっ!!痛ッ、クソッ……」

 思わず颯太の口から細かい悲鳴が漏れる。

 姫野がボールを隠して体を動かす度、颯太の脇腹に何度も姫野の肘が突き刺さっていたのだ。


「うまいわね……」


「えっ!?姫野のキープですか?」


「見えないようにチャージするのがよ……

 テクニックと言えばテクニックだけど……ただ痛めつける事だけが目的になってる、1年生に教えて欲しかったのはこんなプレーじゃない……

 残念だわ」



「……」

 隣で百合と江藤のやり取りを黙って聞いていた石川の表情が徐々に曇っていく。



 姫野……


 もっと楽しそうにサッカーやってくれよ……

 昔みたいに……


『スギケン先生』がいた時みたいに……



 百合と石川の目には、颯太に向かって乱暴に肘を振り回す姫野のその様が、抜け出せない苦しみの中で救いも無く、ただひたすらもがいているだけのように見えていた。




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