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その3

 その年の冬の合宿の時だった。


 颯太は夜中にコッソリ合宿所を抜け出した。

 合宿所の外に出ると寒空の下、数人の仲間達が白い息を吐きながら颯太を待っていた。

 その中には当然夏海の姿もあった。


「行こう」

 颯太が言った。


 昼間に誰かが言っていたのをこっそり聞いた。


 この山の頂上から麓の町に向かって願い事を叫ぶんだって……でも夜の12時丁度じゃないとダメみたい


 ……叶うの?

 ……100%


 高い山の上にある合宿所だった。

 頂上までは外灯みたいなものはほとんど無く、月明かりだけが頼りだった。


 冬の澄んだ空気に星が目映く煌めいている。

 手を伸ばせば簡単に届きそうだった。


 しばらく歩いて頂上が見えてくると、颯太がそこから一気に駆け出した。


「あっ!!ずるい!!」

 夏海がすぐさま颯太を追いかける。

 二人に連られて他の仲間たちもその後を追った。


「すげぇ……!!」

 一番に頂上に着いた颯太は、その目に飛び込んで来た景色に思わず息を呑んだ。


「わー、すごーい……」

 夏海もすぐにやって来てそう言った。


 そこから麓に広がって見える町並は、頭上に瞬く夜空の星が降り注いだかのようにキラキラと輝いていた。


「颯太、後少しで12時だよ……」

 夏海が腕時計を見ながら言った。


「……私はあの日からずっと忘れてない……あの時まったく歯が立たなかった……もうあんな思いは二度としたくない」

 夏海が抱えた膝に顔を埋めながら言った。


「俺だってそうだ!!お前はまだ良いじゃんか……俺なんて走れもしなかった……」

「じゃあここでお願いしようよ、来年も絶対全国に行くって」

「……えっ!?まじで!?そっちなの!?そっち系のお願いなの!?」

「そっち系?……なんで?何言ってんの?」

「いや、別に……もっとなんかこう……ゴニョゴニョ」

「何ブツブツ言ってんの?気持ち悪ッ……よし!!決まりね!!じゃあ12時ちょうどに思いっきり叫ぶから、一緒に叫ぶんだよ」


「……はい」


「いい?絶対だよ!!絶対だからね!!約束!!みんなも絶対約束ね!!一人で叫んだら馬鹿みたいなんだから」

「お、おう!!お前こそ!!よし、思いっきりいくぞ!!」


「あっ!もう少しで時間……颯太、いくよ!!せーの」


 0時丁度、夜の山の頂から子供たちの思い思いの叫びが辺り一帯にこだましていた。


 この願いが必ず叶うようにと……


 その後しれっと合宿所に戻った颯太達は、待ち構えていた保護者達からキツいお灸をすえられた。


 そして時は過ぎていく……


 ……俺は、もう一度全国に行く!!



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