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その2


「ただいま!!」


百合は玄関を勢いよく開けると、靴を脱ぎ散らかしたまま二階の自分の部屋へと一目散に駆け上がって行った。


スイッチを手探りして部屋の明かりを付けると、フローリングの上に机とベッドだけが置かれた飾り気の無い空間が浮かび上がった。


壁際のベッドにバッグを軽く放って、直ぐ様机の上のパソコンにかぶりつく。


「百合ーーーー!!!!靴ーーーーー!!!!」

階段から母親の怒鳴り声が聞こえてきた。


「ごめん!!後で直すからちょっと待って!!」

嫁入り前の娘にあるまじき行為なのは百も承知だった。

たが今はそれどころではない。

今すぐ確認しなければならない事があるのだ。



もし……

もし、私の仮説が正しいとすれば……


島崎海、彼は私の理解を超えている……



パソコンが立ち上がると、百合はもう一度スマホで見ていた動画を検索した。



……

……

……


スロー再生するとよく分かる

やっぱりこの子は普通じゃない……


ほんの一瞬だけど……

ボールを持つことで姿勢が良くなってる……


信じられないけど、間違いない……

ボールに触れた瞬間、もう一度加速が始まってる


ドリブルしてる時がトップスピードだなんて……

こんな事が……



今まで積み重ねてきた常識が、音を立てて崩れ去っていく瞬間だった。


百合は思わず自分の髪の毛を鷲掴みにして画面に映る海に向かって呟いた。



「何て子なの……」





バチッ!!


颯太が腕に止まった蚊を叩いた。


「……」


ゆっくり手を離してみたが、そこにはペシャンコに潰れた蚊もいなければ、吸われた血の跡も何もない。


えも言えぬむず痒さと、叩いた時のヒリつく痛みだけが腕に残っていた。



「だー!!このっ!!」


颯太は両手をブンブン振り回して、顔のそばを飛んでいる蚊をはたき落とそうとした。


激しく振り回す両手は空しく空を切るばかりで、何の手応えも付いてこない。


蚊はそんな颯太を嘲笑うかのように、不快な音を立てながら上下左右を気ままに飛んで、自分の存在を鬱陶しい程アピールしてくる。


「ムキーッ!!!!」


「ちょっと!!!!」


すっかり蚊に翻弄された颯太が奇声を上げると、すかさず夏海から叱責の声が飛んだ。


「まったく……うん、もう少ししたら帰るから……うん」

夏海はスマホを肩と頬の間に挟み、濡れたスカートの裾をきつく絞りながら母親と話をしていた。


颯太は夏海の視界からコソコソ外れると、前よりずっと静かに腕を振り回して蚊を追い払った。


そんな二人をよそに、仲良くベンチに腰掛けた海と紘が先程から随分楽しげに何やら話し込んでいる。


「そうか、稲葉君は昨日の試合を見てたんだね……」

「うん、だからそう思ったんだけどな……やっぱ勘違いなのかな……」


「そうそう!!稲葉君の勘違いだよ、絶対!!!!」

いきなり会話に飛び込んできた颯太が力強く断言する。


「……それって勘違いじゃないと思うよ、稲葉君」

「へ!?どういう事!?」


「僕はね……ドリブルしてる時が一番速く走れるんだよ……ゴールに向かってる時がね……」

脈絡の無い颯太を無視するように、海がそう言いながら紘に笑ってみせた。



「ドリブルしてる方が速いなんて……んなアホな……負け惜しみだろ?」


「普通はそうだね……普通は」

颯太が馬鹿にしたように鼻で笑うと、海は何かを含ませてそう言った。


「……うちの監督に言われてね……前に一度ドリブルしながら50mのタイム測ってみたんだ……とてもドリブルなんて呼べる代物じゃなかったけどね」


「それで……タイムは?」

母親との電話を終えた夏海が興味津々に聞いた。



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