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その2

 

 ~放課後~



「なぁ、大場頼むよ……小川に陸上部入るように声掛けてくれよ……先輩から言われててさ……」

「無理だよ、無理、私から言ったって絶対無理だから、無理なもんは無理、むーーーーーり」

 夏海が教科書を鞄に入れながら、懇願する男子生徒に向かってハッキリNOと答えた。


 彼女がどんなに乱暴な言い方をしても、それが少しも下品に感じられないのは、うっかり触れられないような繊細さと、どこまでも澄みきった透明感を併せ持つその容姿のせいだろう。


「そんな……」

「てか自分で言えば良いじゃん、人に頼るなって事よ、じゃあまた明日ね、バイバーイ」

 夏海は手早く帰り支度を終えると、泣きっ面の生徒に笑顔でそう言い放って喧騒の残る教室を出て行った。


 校門で待ってるって言ってたな……


 下駄箱まで続く廊下は帰宅する生徒達で大いに賑わっている。

 夏海は人混みの間を縫うように、肩まである髪を上下に揺らしながら軽く走った。



「……本当に行くの?マジで?」

「何言ってんだよ稲葉君、当たり前だろ!!」

「まぁ……月曜は運動部休みだから……良いけど」

 語気の荒い颯太に紘がガックリと肩を落とした。


「オーイ、お待たせー」

 校舎の方から、紺色のチェックスカートを靡かせて夏海が走って来た。


 紘は夏海の姿が見えると、少しばかり表情が緩んだ。


 大場さん……かわいい……


「……お前ホントに付いてくるの?」

「なんで?部活も休みだし別に良いじゃん。それに今日は元々一緒に帰る約束してたでしょ」

 夏海が少し怒ったように言った。


「えっ!?二人ってやっぱりそうなの!?そういう関係なの!?」

 紘がそのやり取りに思わず口を挟んだ。


「いや、まぁ、実はその……昔から」

「違うから!!!!やめてよこんなイガグリ!!!!」

「イガっ!!!!」

 颯太が赤くなってモジモジしながら答えようすると、夏海は颯太の顔面を手で押さえ付けて絶叫した。


「ハハハ……そうなんだ……」

 紘のそれは明らかに苦笑いだった。


 大場さん結構キツいな……


「稲葉君だっけ?あたし達ホントに何でもないからね、ただの腐れ縁よ、腐れ縁、よし!!じゃあ上州学園に行こう!!」

「イガ……」

 ショボくれたままの颯太を無視して、気を取り直したように夏海が言った。


 上州学園に行くには距離的に電車に乗る必要があった。

 ローカル鉄道のゆったりとした対面型の座席に颯太と紘が横並びで腰掛け、二人の向かいでは夏海が慌ただしくスマホに指を走らせている。


「ええっ!?それって床屋の間違いなの!?」

「中学になったら伸ばすって決めてたのに……おじさんがいつものクセでさ……五厘だよ、住職か!!ってね……写真も見せたんだぜ、ハハ……笑ってくれよ」

「そんな、笑うだなんて、そうなんだ……そんな過去が……辛かったね」

 心地好く流れる電車に揺られながら、二人は朝の出来事がまるで嘘のようにすっかり打ち解けていた。


「ふーん、やっぱりアイツ本当に日本一だったんだね……

 でも小川君てどうして陸上部に入らないの?

 あんなに足速いのに……もったいないじゃん」

「それはさ……」

「馬鹿よ、馬鹿、ただ意地張ってるだけよ」

 夏海がスマホを覗いたまま話に割り込む。


「へんっ!!お前に俺の気持ちなんか分かってたまるか!!全国3位だもんな!!大したもんだよ、立派立派!!あー立派……ハァ……ほんと……

 いや……マジで……凄いよ……うん……」

「えっ!!そうなの!?……大場さん凄い!!!!」

 颯太が何の恥ずかしげもなく僻み根性丸出しで誉めると、紘は目を丸くして驚いていた。


「いやいや……凄くないよ、ほんと……中学入ったら速い子なんてもっといっぱいいたし、そんな事分かってたんだけどね……うん」

 そう言って夏海はどこか寂しげに笑った。


 あれ……?

 俺何か変な事言っちゃったかな?


「と……とにかく、俺はシマザキカイに勝つまでは陸上部には入らない事にしたんだよ!!」

「ふーん、そうか……って何で!?全然意味が分からないんだけど、何でそんな考えになるの?」

「……まぁ、それが正常よね」


「じゃあ稲葉君、聞くけどさ……自分より速い奴がいるって知ってるのに、そいつがいない大会で優勝して……もし君なら本当に嬉しいか?」


「!!!!」


「それは本当の優勝なのか!!!?その時君は心から笑えるのか!!!?」


 紘は颯太の言葉に震えが来た。

 心を掴まれるとはまさにこの事だと思った。


 何だコイツ……!?

 コイツ……


 すげぇカッコいい!!!!


「分かる!!分かるよ、小川君!!その気持ち!!」

「おおっ!!稲葉君、そうか、やっぱ分かってくれるよね!!」

「……」

 一気に盛り上がる二人に、夏海が冷めた眼差しを浴びせている。


 電車は町の中央を切り裂くようにして外れの山の方へと向かい、刻々と三人を目的地に運んでいた。



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