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天は厄災の旋律(しらべ)  作者: ながる
第四章 古代遺跡の遺物

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70 戦利品の付加価値

 階段は中二階の金網の足場から上へと続いていた。さらに地階へ行くには、通路が閉まっていたという東側の階段を使うしかないのだろう。

 どこまで続くのか、地下深くにはあの壁画に描かれていた大昔の生き物も、まだ息を潜めていたりしないだろうかと、ビヒトは一度だけ後ろを振り返った。


 地下四階に戻り、通路を少し進んだところで、造りの違うドアが通路を挟んで向かい合っていた。片方は魔術的な鍵ではなく、普通の鍵穴のあるドアで、遺跡の中では珍しいと言える。

 鍵がかかっているということもなく、部屋の明かりを点けると、並んだロッカーと、いくつかの机と椅子が少し乱れて置かれていた。壁には四角い窓のような区切りがいくつか。

 ロッカーの中にも机の中にも何もなく、すでにあった物は持ち去られているようだ。

 特に飾り気のない雰囲気は控室とか、待機室とか、そういうものだったのかもしれない。


 対してフロア中央に向かうドアは取っ手の無い四角い区切りのようなもので、地下四階(ここ)に下りてきて最初に見つけたドアと同じものだった。

 一枚目は開いて、中の二枚目の扉は開かない。それも、同じだった。


「昇降機に続く部屋なんだろう。使える人間が決まっていたのか、身分証みたいなもんが必要なのかもしれねえ」


 入れないのは残念だが、だいたいの予想がついたことに満足して先へ進む。

 左手にもう一つドアが見えてきて、その手前に壁の落ちてくる仕掛けがあった。部屋の向こう、左に折れている通路のすぐ手前にも同じものがある。


「こっちの通路は仕掛けが少ないんだな。あちらに誘導するようになってるのか……」


 このフロアでざっと確認できた最後の部屋の鍵を開けて中に入る。

 最初に入った部屋と同じような造りで、机の上には透明な箱、棚にはいくつかの残骸と埃が積もっていた。あちらの部屋にあった石板のようなものも見つかったけれど、床に落ち、粉々に割れていて、あちらよりも文章として読み取れなかった。

 伝わっていないということは、残っているものも少ないということ。

 調査隊が入れる程度の場所では、もう判っていること以上の収穫は望めないのかもしれない。


「さ、戻るか」


 屈伸をしながら言うヴァルムにビヒトも頷く。仕掛けの多い通路をまた通らなければ。

 角を曲がって、北側に抜ける通路に出たところで、あの通路と交わる床に魔法陣の一部が見えた。驚いて、ビヒトは足を止める。

 前を行くヴァルムの肘を引くと、不思議そうに振り返られた。


「どうした?」

「陣が……来た時は無かった」

「陣?」


 正面に視線を向けて、ヴァルムはすぐに振り返る。


「どこに」

「危ない通路の手前……」

「見えん」


 もう一度先を確かめて、ヴァルムは肩を竦めた。

 見えてないのかと不思議に思って、ヴァルムの前に出る。通路を見通せる位置まで来ると、ビヒトはさらに驚くことになった。

 見える範囲、床と壁、一部は天井にもびっしりと大小の陣が並ぶ。

 呆然とするビヒトの横に立ち、同じように通路を眺めて、ヴァルムは首を傾げた。


「何が見えとる?」

「何って、陣が、びっしり……」


 へぇ、と少し楽しそうに口元を歪めると、ヴァルムは警戒もせず歩き出した。


「ヴァルム! 落とし穴が作動したから、他にも何かあるのかも。ちょっと待て、少し確認してから……」


 言ってる間にヴァルムの足が大きな陣にかかってひやりとする。


「ヴァルム!」

「大丈夫だ。ここまでは特に危険は感じねえ」


 小さな陣も密集している手前で足を止めると、ヴァルムはニッと笑った。それから、小川を飛び越えるように一歩踏み出す。ごちゃごちゃした陣を飛び越え、少しの隙間にその足は乗った。

 次の一歩先には隙間など無い。それでも迷わずに踏み出すと、真空魔術(ワクウム)が発動する。大きいが、ひとつしかないのでヴァルムはあっさりと切り捨てた。


「さあ、何が見えた?」


 ヴァルムの馬鹿げた勘の強さが。

 常人に真似できるものではないと改めて呆れて、ビヒトは大きく息をついた。


「本当に見えてないのか? 一番危なくなさそうな陣や隙間を狙ってる」

「見えとったら逆に時間かかるわ。読み取ろうとするからな」


 そうかもしれない。


「ともかく、少し待て」


 乗っても反応しなかった大きな陣が気になる。意を決して進み出ると、ビヒトは古い言葉を見下ろした。

 半分は他の陣がかかっていてどれがその陣のラインか、文字か、見分け辛い。よく見ようと屈みこむと、見たい陣だけスッと浮いて見えた。

 何が起こっているのかと一瞬身体を強張らせて、ふと、鞘の無い短剣が刺さらぬようにと手を添えているのに気付く。


「これか!」

「あん?」

「あ、いや。理由が、分かった」


 ともかく、と、陣を読むことに集中する。

 おおよその当たりを付け、ごちゃごちゃした陣の中から、二つの小さな陣を見つけ出すと、ビヒトはそれぞれに手を添えて魔力を籠めた。

 発動と共に、びっしりと埋まっていた魔法陣が半分ほどに減る。


「……お?」


 ヴァルムも何か感じたのか、二、三歩足を進めてビヒトを振り返る。


「待てというのに」


 全部とはいかないが、どうにか歩けるだけのスペースができた通路を進み、ヴァルムを追い越す。


「仕掛け、減ったか?」

「ああ。全部じゃないが。昔の人間がこうやって見えるのだったら、問題無いくらいには」

「なるほどな。で、何が分かったって?」


 ビヒトの後ろをぴったりとついて歩きながら、ヴァルムが訊ねる。


「陣が見えるようになったこと。ヴァルムの剣と同じような効果がこの短剣にもあるらしい。同じ材質なのかな? 直接触れてなくても、魔力がクリアに感じられる」

「なるほど。わしとお前さんとじゃそもそもの感覚からして違っとったから、差が出るのか」


 そう言われると、ヴァルムのもただの勘ではなくて、ある程度の危険度を魔力の大きさや質で察知しているのかもしれない。


「何度か使って感覚は解っとるだろうが、しばらくは疲れやすいかもしんねえぞ。そのうち慣れるが、無理はしねえこった」

「そうだな。ここでは便利だが、普段は絞る感覚も身に着けないと……」

「慣れてきた頃、海の方の遺跡に行ってみよう。あっちは人もそう入ってねえはずだから、掘り出し物があるかもしれねえ」


 すっかりあてにされているようだが、そうそうヴァルムと予定が合うとも思えない。適当な相槌をうっているうちに無事に通路を抜け、階段へと辿り着く。

 壁画のあった階まで戻ると、ヴァルムが顎に手を当てて上を見上げながら、呟いた。


「ここの方がいいか」

「……何?」

「内鍵の掛けられる部屋があっただろう? ゆっくり休むんなら、そこが一番安全かと思ってな。この先はどこも南側が崩れとるし」


 思い返して、ビヒトもそうだなと頷く。

 戻るのは簡単だが、森を出るにもしばらくは野営になる。休めるなら、しっかり休んでおいた方がいい。

 部屋に入り、ビヒトの食料を分け合って、ヴァルムの酒を回し飲みする。

 珍しくふわふわとした酩酊感に身を任せると、ビヒトはいつの間にか深い水底に沈んで行く夢を見ていた。



 ◇ ◆ ◇



 空気が重い。

 いや。じっとりと絡みつくような感覚は水なのか。

 闇の中、抵抗を押し退けるように、ゆっくりと歩いている。

 やがて、ぽっと、蝋燭の明かりのような、淡く、揺れる光が先に浮かぶ。

 暗闇の中の、たったひとつの明かり。

 ビヒトは光に群がる虫のように、それに吸い寄せられた。

 遠いと思った光は、認識した途端あっという間に近づき、その光の傍に……あるいは中に、誰かが立っているのが分かった。


「あら?」


 女性の、声。


「ここまでくるなんて。遺跡は楽しかった? ああ。まだそこにいるのね。何か見つけたかしら」


 困ったような、でも、少し嬉しそうに口元をほころばせて、その(ひと)はビヒトに手招きした。

 揺れていた明かりは柔らかく広がると、ひとつの部屋を作り出す。

 それから、くるくると迷うように回った後は、机の上の燭台に身を落ち着けた。

 魔法?

 見知った部屋の入口で、見知った女性に手招きされている。

 けれど、ビヒトの足は動かなかった。

 ここで会うには、ひどく不自然な気がしたから。


「……姉、上?」


 ふふと笑いながら、彼女は「お掛けなさい」と目の前の椅子を指し、自らも腰掛けた。

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