剣の稽古
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剣を打ち付け合う音が響く。
ロムは驚いた。今日のラビィはいつもと違う。
普段のラビィの剣は、さっぱりして後腐れがない。一度、ロムの剣が優勢になると、「負けちゃったよ。」とにこにこ笑って仕切りなおす。なんというか、勝ちへの執着が薄いのだ。悪足掻きはせず、お互いに綺麗な剣技のままで終わろうとする。命のやり取りをしない剣の稽古では当たり前のことなのだが。
だが、今日の剣は往生際が悪かった。ロムが、ラビィの肌を刺すギリギリのところまで追いつめても、一瞬の隙を突いて、切り返してくる。
おかげで、もう長い時間打ち合っているというのに、まだ一回も勝負がついていなかった。
「なんだが楽しそうだね。どうしたの?」
それはこっちの台詞だ。ロムはそう思った。いつにない真剣な表情で、ラビィがこちらを見据えている。
次は右からくる?それとも左か?
切った張ったを続けるうちに、剣術の基本の型や、セオリーなんてなくなってしまって、先の読めない騙し合いじみた立ち回りが続いていた。
「一日で豹変しすぎじゃないのか。」
構えていた方向と逆から襲い掛かってきた剣をなんとか切り返す。無理な体制になり、バランスが崩れてしまう。
こうなってくると、駆け引きがあまり得意とは言えないロムは押され気味になった。
脳みそがふわふわする。うるさいくらいの心臓の鼓動。ロムは口角が自然に上がってしまうのが分かった。
本来、ロムはラビィに負けるわけがない。その気になれば一瞬で片が付いてしまうだろう。
それでは剣を教えるということにはならない。だから手を抜いて相手をしていた。それは今日も変わらなかった。
しかしもう随分と長い間切り合っている。休憩もせずに、激しい運動を続ければ、疲弊して頭の回転も悪くなる。
ロムはラビィにとどめと刺すことができなくなっていた。
「勝ちたい。って思ったんだ。」
刹那、鋭い剣が下から上へと軌跡を描いた。切られた風に顔が煽られる。今のは間一髪だ。
防戦一方だった。体勢を整えるためにロムは瞬時に距離をとった。
剣筋の一つ一つに覚悟が伝わってくる。ロムなら防いでくれるという確信をもってのものだろうが、肌を掠めてしまうような危ない一撃もいくつかあった。ラビィは持久戦の中で集中力を保っている。そしてこれまでになく本気だった。
「どうして。」
ロムは気づいた時には、我を忘れて全力を出していた。
いつもはこんな風じゃない。もっと冷静に相手ができていたというのに。
「君は強いから。」
一進一退の緊迫感。
ロムの瞳が大きく開かれる
剣の中に映る真紅の瞳が一瞬、剣の表面に鮮血が張り付いているかのように思わせた。
朦朧とするロムの頭が幻覚を見せたのだった。
腕に力が入らなくなって、視界が真っ黒になる。
一瞬だけ、ロムの手元が狂う。
視界に光が戻った時、ロムの喉元にはラビィの剣先が突き付けられていたのだった。
ロム「よくやったな。ラビィ。」