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絶滅種の獣人、冒険者になる  作者: ぶるぅここあ
【マルシェダ王国領】獣人の町ブルーメル
3/27

ラビィとロム

今の時間軸のお話です!

もしいいなーと思ってくださったら、コメント、評価いただけるとめちゃめちゃ嬉しいです!

ここはブルーメル。樹齢4000年ともいわれる老樹林の森(迷宮)に囲まれた小さな町だ。




この大陸には大小様々な国が存在し、その中にさらに多種多様な人間の生活する集落が存在しているが、この場所は1,2を争うほど特殊な町だと言って良い。


この町に住んでいる住人のすべてが、獣人と呼ばれる特殊な種族なのだ。




この大陸は、3種類の種族が生活をしている。




最も大きな割合を占めるのが人間。


人間は大陸のありとあらゆる地形、気候に広く分布し、実質的な大陸の支配者だと言って良い。


ほかの種族に比べて、個体差が小さく、せいぜい目、肌、髪などの色、体格が違うだけでほとんど皆同じような知力や運動能力を有している。大勢で集まって生活を送る事が多く、他の個体と協力したり、気持ちを共有したりすることが特に得意で、感情を司る器官が発達しているとされている。これも集団生活を送る上で、社会性が培われた結果だと推測される。しかし、圧倒的に母数が多いため、傾向から外れた者も多数存在する。




残りの2つが獣人と魔族。


2つの種族を合わせて亜人とも言う。


獣人はかつて、人間との生存戦争に敗れた古代種であり、一般的に強靭な肉体を持っている種だ。


種族の中に民族という分類があるのは人間と同じだが、獣人の場合、体の色や大きさのみならず、五感、性格、知能が異なるなど、個体間での差がかなり大きいと言える。




最後に魔族。


魔族は生物としての根幹の部分が上記2つと異なっている。


人間と獣人が魔力という力を体に宿し、操ることができるのに対し、魔族は魔素という物質を有している。魔素はこの大陸で害悪だとされている、魔物の体内にも保持されているものだ。魔族とは種類的には、魔物を人間と共存できるかどうかで分類したものである。つまりは知能が高く、人間の生活に被害を及ぼすことのなくなった魔物だ。













獣人だけの町の広場で休息をとっている若い男がいた。青年と言うには若く、少年という年ではない。だが、その童顔と華奢な見た目だけならまだまだ少年に見えるだろう。




切り株の上に座って、麗らかな日差しを浴びて読書をする。それが彼の日課だった。


晴れやかな気分で、紙の上の文字を追う。今日の本は植物図鑑だ。






なるほど、隣国には抜いたら悲鳴を上げる謎の根菜が生えているのか。しかも抜いたら魂が奪われるだって?たがが野菜の癖にそんな面白いものがあるのか。




本からもたらされる新たな知識に今日も彼はキラキラと目を輝かせた。


ああ、食べたら一体どんな味がするんだろう。知識欲だけでなく、食欲まで刺激される面白い本だ。




突如、彼の視界に何やら黒い紐のようなものが映った。




少年は読書に集中していた。黄ばんだ厚紙に踊る文字を二分する黒い曲線。丁度今読もうとしていた場所じゃないか。




少年は紐の描く曲線をたどって、反射的に顔を上げる。


黒い紐につながる丸い輪郭、硬質そうな固い毛でごわごわとしている。そしてさらに視線を上げれば、視点がどこかにとんでしまった生気の無い顔。




死体だ。


目尻に塩水が溜まるのを感じる。少年ははじかれたように顔を反らした。




「おい、ラビィ見てくれよ。こんなでかいクロネズミがとれたぜ。」




元気な声が降ってくる。体格のいい青年が笑顔でネズミの死体を掴んでいた。少年の眼前に押し付けるように。いやいや押し付けるつもりではなかった。少年が突如として顔を上げたため、たまたまそういう位置になってしまったのだ。




ラビィと呼ばれた少年は背中を丸めて嗚咽している。どうやら声を上げることもできないようだ。



「悪い。ラビィってこういう魔物の死体とか駄目だったけ。ごめんな。」




青年はクロネズミを袋にしまうと、申し訳なさそうに謝った。少年は涙目で反論する。




「違うよ。君、鼻先にそれを押し付けられたことあるの?鼻が壊れるかと思ったよ。」




音の乗っていない空気だけの言葉。けれどいつものはねるような語調ではなく、押し込むような低調加減に、怒りが込められているのを青年は感じ取った。




少年の名はラビィ。


神秘的な印象を与える溶けそうなほど真っ白な髪と、真っ赤な瞳が特徴の獣人だ。頭に髪の毛と同じ白くて長い耳がくっついている。世にも珍しい兎の獣人である。


獣人はその種類ごとに、身体的な構造が一長一短な部分がある。彼はかなり優れた嗅覚と聴覚を持っているが、大きな声を出すことできないのだ。




ラビィは開いていた図鑑を閉じると、立ち上がり、青年の方に向き直った。根元で折れた二つの大きな耳がくるんと翻る。不満そうな顔をしていたが、笑顔に変わっていた。




「お前、涎の跡ついてるぞ。」




青年は安心した表情で、少年をからかうように言った。




青年の名はロム。


服の隙間から筋張った腕や脚が見える。大きい体格。筋肉の鎧を纏った体。如何にも屈強な男という雰囲気だ。ラビィと比べると、切れ長の目に、硬質で端正な男性らしい顔立ちをしている。背格好も相まって、やや威圧するような印象を与えるが、その屈託のない笑みが、健康的で人の好さそうな青年という印象に転換している。


猫科の動物の耳が頭部で小さく動いている。彼ももちろん獣人だ。




「あーほんとだ。」




ラビィは、口元の汚れををごしごしと拭き取った。恥ずかしがるような様子は無い。


ロムの眼前に分厚い本の表紙を掲げ、目を爛々と輝かせた。




「この本、ホントに面白くってさ!!この大陸に生息する奇妙な植物がこの一冊に!実に分かりやすく!面白く!簡潔にまとめられている!!もはや神の仕事だね!!犯罪級の面白さだ!!」




声量を抑えた言葉だったが、高揚しすぎて上ずってしまっている。青年は少し引き気味だ。




「お前のその、いい本に出合うと涎が出るっていう体質。意味わかんねえよ。」




「そう?普通だと思うけどね。」




「普通なわけないだろ…。そんな奴他に見たことねえよ。」




ロムは呆れたように、首をやれやれと振った。相変わらず意味の分からない主張をする友人だ。


この友人はご丁寧に本の内容をプレゼンしてくれる。毎度のように。あまりに楽しそうに語ってくれるので、少し読んでみようという気になってくる。ロムは10文字以上の文字の羅列を読むと頭が痛くなってしまうので実際に読んだことはないのだが。






二人は広場を出て、目的の店までの道を歩きながら談笑する。


内容は、老樹林での()()()の活動についてだ。




老樹林の森には凶悪な魔物が住み着いている。鋭い爪を持つもの、体液に毒を有しているもの、とにかく腕力が強いもの。種類はそれぞれだが、森に侵入者が現れ、自分たちのテリトリーを侵害されたとみなせば、みな一斉に襲い掛かってくる。




そんな危険な魔物たちの数が増えすぎたらどうなるのか。魔物たちは住みかと食料を求め、町へと入ってくるに違いない。


獣人たちが人間に比べれば皆高い身体能力を有していて、本能的に狩りのノウハウを備えているとはいえ、ここは生活の場である。繁華街に突如として、魔物が現れれば大パニックになるだろうし、町には体の弱い老人や子供も沢山いる。




毎日、老樹林の森に現れる魔物を退治し、数をコントロールすることは必要な仕事だった。


そのため、若く戦闘能力の高い獣人を組織した。その者達は警備隊と呼ばれ、住人の生活を守っていた。




ロムは警備隊の一人で、日々休むことなく、魔物退治を請け負っていた。




「老樹林の森、最近少しおかしいみたいだね。」



青年は驚いて目を見張った。


「ラビィは森に行ったことないだろ。何で知ってるんだ。」





「知ってるよ。毎日君の話を聞いてるじゃないか。」




「…ああ。そうなんだ。()()()()()()()()や、()()()()()()()()()()()()()がわんさか出てきやがる。」




まあ、俺に倒せない敵じゃないけどな。そう付け加えたがロムだったが、表情は苦労していることが伝わってくるものだった。


ロムが、毎日のように危険な魔物退治に駆り出されるようになったのはここ最近の話だ。以前は実家の農業の手伝いをよくしていたが、そんな暇もないようだった。




「どんどん大きな魔物が出るようになってるよね。気性も激しくなって、魔物退治するのも大変だよね。」




先ほど、ロムがラビィに見せびらかしていたクロネズミ。あれは昔から老樹林の森にすみ着いていた下級の魔物だ。老樹林が特別に住みかにされている、と言うより、魔物がでる場所にはほぼ100%クロネズミが出没する。


たまに民家なんかにも現われる小型で面倒な魔物なのだが、先程の獲物。アイツは異常な大きさだった。




以前までのクロネズミは、食卓に並ぶコップと同じぐらいの小さなものだった。魔物の図鑑にもそれくらいの大きさが一般的なものであると示されている。




しかし、さっきのクロネズミは人の足の大きさより少し大きいくらいだった。


太っているという表現より、全体的に巨大化しているという表現のほうがしっくりくる。筋肉もしっかりしていて、ずっしりと重そうだった。あのクロネズミが飛び掛かってきたら、軽傷ではすまないだろう。




原因はわからないが、このまま魔物が巨大化していったら、町の治安を保っている警備隊の命に関わる。


ロムは焦りを感じていた。




しばらく森の近況を話し合っていると、二人は目的の店にたどり着いた。




トランダ杉を使用した茶色に白い筋で模様が描かれた木材が全体を覆い、甲板は塗料で青く塗っているが、時の流れにより、かなり表面が剥がれてきてしまっている。一見周りの商店と変わらない雑貨屋だ。




「すまない。獲物の買取を頼みたいんだが。」




店の奥のカウンターに佇んでいる、中年の女性に声をかけた。女性は声をかけると、顔を上げ、のんびりとした口調で答えた。




「あら、いらっしゃい。魔物退治も大変ねぇ。早速袋を見てもいいかしら。」




「よろしく頼む。」




青年は腰に取り付けていた白い布袋のチェーンを外し、カウンターの上に乗せた。袋は大きく太っていて、色々な立体が袋をでこぼこと押し上げている。




この店はただの雑貨屋ではない。魔物退治を行う住人ご用達の雑貨屋だ。


売るだけでなく、物の買取をやってくれる店舗は他にもあるが、ここのように魔物からとれる素材を買い取ってくれる商店はあまりない。



店主の名前はユートリア。


昔、老樹林の研究に携わっていた店主は生息する魔物の生態に詳しい。


どのよう処理したら、傷つけずに素材を魔物から採取することができるのかよく知っている。普通だったら、まさか素材として価値があるとは思えないものの判定も行うことができた。


他の店で売却した時の倍以上の値段で買い取ってくれることもよくある。ロムのように、警備隊に参加している獣人で知らない者はいない。




ユートリアは袋の紐を解き、覗き込んだ。




「ふんふん、なるほどねぇ。やっぱり最近ちょっと魔物の様子が変っていうのは本当みたいだねえ。」




一通り、袋の中身を見終わると、ロムの方をむいた。黒い線のような瞳孔が、まっすぐに青年を貫き、瞳がきらりと光る。さあ、鑑定の始まりだ。



ロム「町の外に出るのは俺の仕事だ。」

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