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絶滅種の獣人、冒険者になる  作者: ぶるぅここあ
【マルシェダ王国領】獣人の町ブルーメル
17/27

厄災の翼

ふぇぇ更新できなかったよぉ…

閲覧いただきありがとうございます( ノ;_ _)ノ

深い緑を掻き分けて恐ろしい魔物が正体を現す。










獰猛さを秘めた紫の双眸。黒い毛が首元を包み、口の隙間から牙が覗いている。


牙は刃物のように鋭く、こちらの皮膚なぞ紙のように食い破るであろうことを想起させた。


下に枝分かれする蝙蝠のような骨格が、鱗のようにギラギラと鈍く輝く膜で繋がれ、翼を形作っている。




一言でそのフォルムを表すのなら巨大な蜥蜴。






それはこの世で最も有名な。様々な物語の中で常に人々を脅かす存在。


現実でもそのことに変わりはない。

彼らは強大な力を持ち、恐怖の象徴として恐れられている。

たとえ一国の王と、辺境に住む獣人ほどに立場や種族が異なっていたとしてもその感情は共有できる。




最強と名高い魔物の代表格。


照り返る極彩色と穏やかな光の中に現れた、禍々しい漆黒の影。










(ドラゴン)…」










脳が目の前のそれが何者かを認識したと同時に、言葉を発していた。

言ったのではない、言わされたのだ。目の前の魔物が放つ、明らかな異常性に。



老樹林に初めて足を踏み入れたラビィでも一目でわかった。


魔物は眠りにつき、樹木が心を癒す、平穏な時間。穏やかな夜の森は破壊されようとしている。






この魔物はここにいてはいけない存在だ。








おそらく子供の竜なのであろう。大きめの熊くらい体格しかない。



ラビィは今まで沢山の本を読んできた。


物語の中にいたのは、城一つを飲み込んでしまったり、町の上空に現れ炎の雨を降らすような巨竜だった。


目の前にいる竜はそれに比べれば随分と小さかったが、姿形は挿絵以上の凶悪さだ。


平面では伝わらない、硬そうな皮膚や尖った爪や牙。


本物は迫力が違った。






圧倒的な存在感が眼前にある。




肌がピリピリと痛い。緊張の糸が兎の獣人と子竜の間に張り詰めていた。








この大陸には沢山の冒険者がいるらしい。



彼らは皆死と隣り合わせの危険な試練に挑み、困難な旅を乗り越えている。皆、大変な経験をしてきたことだろう。


しかし、旅の一番初め、竜を相手にした冒険者など過去にあったのだろうか。






ラビィは少なくともそんな人物は知らない。


竜なんてものが登場するのは冒険記の後半だ。

今までに培った知識を存分に発揮し、十分な道具を揃えて挑むものだ。死闘を繰り広げ、血と泥にまみれながらとどめを刺す。ある本では命からがら敗走し、またある本では大切な仲間を失っていた。




最初の魔物が竜。


命知らずか不幸の塊なのか、竜に挑んだ時点でその者はこの世からいなくなっている。記録を残すことなんてできない。

ラビィが知るはずもなかった。






「リリー、そこの茂みに隠れてて」



ラビィは強い口調で指示した。



「う、うん…」



リリーは何か言いたげな雰囲気だったが、素直に後ろの背の低い木々の陰に回った。









ラビィは魔物との対戦を待ちに待っていた。

自分の実力が試せることを心から楽しみにしていたし、魔物の生態にも興味があったからだ。

それに、憧れの冒険記を自分で追体験してみたいという気持ちがあった。












ラビィは剣を構えたまま、慎重に歩を進めた。


竜はじっとこちらを見つめている。お互いに警戒しあっている様子だ。





あと数歩でその黒い皮膚に剣が届きそうという所でラビィは上空に飛びのいた。




次の瞬間、足の下に黒い影が走る。竜の尻尾が、ラビィが先程までいた地面に叩きつけられていた。



硬いヒレのような部位がいくつも付いた尻尾はメイスのような、重い打撃を与え、土をえぐり取っていった。


牙や爪だけじゃない。体全体が武器なのだ。






当たれば間違いなく身体中の骨が粉々になっていた。だが怯んでいればチャンスを逃す。




ラビィは下降しながら剣の狙いを定めた。

太くネジ曲がった角を生やした、竜の後頭部が真下にある。硬そうな皮膚だけど、ここを貫く事ができれば、流石の竜でも動けなくなるだろう。



ラビィは両手で剣の束を握りしめる。接触した衝撃で弾かれる事がないように、全身全霊の力を左右の腕に込める。


剣の先が触れた瞬間に、自分のすべての体重を乗せて、一気に貫くイメージで。



現実は上手くはいかなかった。




低い金属音が森に響くと同時に銀色の煌めきは消滅した。


刺さらなかったのだ。竜の皮膚は鋼のように固い。





兎の獣人の華奢な体が、落ち葉と小枝の海に転がる。











ラビィに与えられた最初の試練は無理難題だった。







竜だ。魔物図鑑に最も強いと記述される竜だ。相当な腕の冒険者か、一国の騎士団を引っ張ってきて初めて相手にできる魔物だ。


ラビィは兎の獣人の癖に町から出ようと考える勇敢な馬鹿ではあったが、それは理解した上でなお捨て身になった結果であり、身の程知らずの馬鹿ではない。




力関係の頂点に君臨する魔物が成体であろうとなかろうと、塔の最上階かその一個下にいるだけかの違いでしかない。塔を地面から見上げることしかできないラビィにはどちらも変わりないことだった。




子供といえども、ラビィの手に負える魔物じゃないのは明白だ。












腕が震えている。

衝撃で手が麻痺している。間違って岩に剣をぶつけてしまった時よりも遥かに固い感覚。



目の前の魔物が異次元の存在なのだと実感する。












ラビィは必死に恐怖を押さえつけ、竜の全身を食い入るように見た。




こういう時は【観察】だ。

自分の力量で勝てない魔物が現れた場合、冒険者が生き残る手段は弱点を見つけることしかない。





魔物に一般的な生物と同じように、核と呼ばれる心臓や脳みそがある以上、そこを狙っていくのが鉄則だ。





ラビィもそうするつもりだ。


だが…胸や頭は黒色の固そうな皮膚におおわれている。剣は効果がないだろう。



落ち着け。呼吸を整えろ。ラビィの二つの瞳が可能にする前方の視野いっぱいまで。どんな小さな情報も見落としがないように。


視界に居座る黒い竜。竜だって生物だ。正攻法では無理でも何か有効な攻撃方法があるはずだ。



ラビィの視界の右上の方。

遠近法で近くの物は大きく見えている筈だから定かではないけれど…。見立てが正しければ、調度良いんじゃないか?


あそこを狙えば、竜の意表を突けるのではないだろうか。




ラビィは、薄黄色の腹を目掛けて走り出した。


倒せないかも知れないけど、些細なダメージは入るかもしれない。





刃を横に持ち、右から左へ水平に振り抜く。

残像が半円を描き出した。




しかし命中したのは黒い皮の上。

傷一つ付かず、また腕が衝撃で痺れた。



竜は頭の良い生き物だ。

自分が攻撃されたら痛い場所を知っている。体をしならせ、的をそらしたのだ。




ラビィは再び剣を握りしめると、今度は下から上へと切り上げた。


でも攻撃は無慈悲に黒い皮膚へと吸い込まれていく。


ラビィは諦めなかった。

休めること無く剣を振り回し、一撃のために奮闘する。








ラビィは切りかかっていくしかなかった。逃げることはできない。出会った場所も最悪だったからだ。




ここは道が全く整備されていない獣道。魔物にとっては家なわけだから、有利な土地だが、ラビィには足場が悪い。地理も詳しくないため、獣人の足をもってしてもどうせ追いつかれてしまう。


土地勘はあってもリリーは足が遅い。2人で逃げればどちらも死んで終わりだろう。








防戦一方だった竜は、突如口を大きく開いた。


周囲の魔素を吸い込んでいる。


真っ直ぐ切りかかってくるだけの芸のない挑戦者に飽きたのか、決着をつけるつもりのようだ。




竜の息吹(ブレス)だ。


大人の竜ならばブルーメル全体を火の海にする程の威力。強大な殺意が兎の獣人に向けられた。



竜が首をのけ反ったその時、戻ってきた顎が太い枝に引っ掛かる。







一瞬だけだ。拘束されたわけじゃない。竜の力があればすぐに枝は粉砕される。


竜が自分の行動が何かに阻まれた。ということを認識するのにかかったほんの一瞬の時間。




研がれた刃物で作られた剣山のような、牙の生え揃った口は冒険者に剥き出しになった。







今だ。



人並み外れた跳躍。兎の獣人の最も優れた能力だ。

ラビィは大きく開いた口の前に現れると、真ん中目掛けて鋭い剣を突き刺した。





あともう少しだけ、ラビィの剣がたどり着くのが早ければ、剣山の中心に大きな剣が一つ増えていたことだろう。





体当たりに弾き飛ばされる。

ラビィが宙に浮く。

視界の横で木の幹達が一瞬で流れ去り、地面に激突した。


腕に力が入らなくなり、剣が手から零れ落ちる。






竜にしては小さいとはいえ、熊並だ。

視界の隅が靄で縁取られていく。








竜の爪が眼前に差し出される。まるで3本の鋭いナイフがこちらに向いているように。

死が鼻のすぐ先にある。


黒い影に張り付いた赤い三日月が細くなった。

笑っている。




竜は頭のいい生き物だと言われている。感情だってあるのかもしれない。

その顔はまるで目の前に転がる小さな命を奪うことを楽しんでいるようだった









竜を体を動かしにくい木々の下まで誘導出来たのは良かった。



うまくいったと思ったのに…


だめだ。死ぬ。ごめん。リリー、ルーク…。










死への恐怖に耐えられなくなり目をつぶる。



しかし、予想していた痛みは訪れなかった。


ロム「一体何が起きてるんだ」

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