別れの挨拶
駄作ですが、頑張ってます。
ご覧いただきありがとうございます。
日暮れ時、リリーはたくさんの空の木箱と供に町へ帰った。
売り上げは上場と言ったところだろうか。
老樹林の異変により、今回は大量の在庫があった。それをすべて売りさばくことができたというのは、安く設定した値段だけ理由だけではないだろう。
商売の腕が上がっている。
リリーは自信をもってそう宣言できた。
リリーがユートリアの所で外界との交易を手伝うようになってから早数年。
鴨にされたり、相手にされなかったりと最初は録な取引をすることができなかった。
まさに成長だった。
とはいえ、今日も最終的には残った在庫を、赤字ギリギリの底値で買い取ってもらったのだが
「ダルさん。今回は護衛に付いてきてくれてありがとうございます」
リリーは腰に剣をぶら下げた熊の獣人に声をかけた。
「いやいやとんでもない。ユートリアの雑貨屋には俺達は世話になってるからな」
ダルは人の良さそうな顔で答えた。
年下の娘にヘラヘラ笑って頭を下げる低頭な態度からは想像つかないが、彼は町の外で活動することができる選ばれし戦士、警備隊の1人である。
「いえいえ、こっちは商売でやらせてもらってることですし。なんだか毎回申し訳ないです」
「いいよ、気にすんな。こんな別嬪さんを守れるなら俺は毎日だって、構わないんだぜ」
「ダルさんは本当に優しい人ですね」
リリーは口に手を当てて上品に笑った。
和やかな雰囲気で会話を続ける2人の足は、商店の建ち並ぶ通りの横路に差し掛かる。
町の中心街でありながら人が少ない、時間も合間ってどこか寂しげな通りだ。
リリーは次の帰路まで小走りに移動した。
振り向いて小さく頭を下げる。
「この辺りで大丈夫です。送っていただいてありがとうございました」
「おう、またな」
ダルは朗らかな顔で手を降った。
リリーは長い黒髪を風に靡かせ、路地の奥に消えていった。
ダルが自宅の扉を開けようとしたとき、白い腕が横から延びてきた。
「おかえりなさい兄さん。」
長い大きな耳が腰の少し上くらいの辺りでふわふわ揺れている。小さな時から変わらない真っ赤な大きな瞳に、群青色の影が落ちていた。
少年のように小柄な兎の獣人が、ダルの代わりに扉を開いた。
「ラビィ、お前も今帰りか。偶然だな」
「そうだね。でも僕はすぐまた出掛けるよ」
「そうか、残念だ。久々にラビィとのんびり話ができると思ったんだがな」
小さい玄関をラビィはダルに先に行かせた。
昔から誰に対しても、気を使う性格だった。
相手に気遣いができる自慢の弟だ。
やんちゃばかりの妹も、少しは見習ってほしい位だとダルは常々思っているのだが、誇らしいと思うと同時に、それが少し寂しくもあった。
家族なんだからもっと気楽にしてくれていいのに。
ダルはかわいい弟が自分に接する態度に少し距離を感じていた。
「どうだ?剣の腕は上がったか?」
弟と会話をするため、ダルはなるべく無難な話題を口にした。
「いつも負けっぱなしだよ。今日は結構いい感じだったけど」
「まぁ、相手があのロムだからな…。アイツは俺の何倍も強い。ラビィが勝ったら、俺は形無しだよ。」
ダルが二階への階段を上がろうとしたとき、ラビィはもう背後にはいなかった。
我が家の子供部屋は全て二階に存在しているはずなのだが。
ダルが部屋に入ってしばらく休息を取っていると、弟が現れた。
右手にはコップの置かれたお盆。左手には何かの入った皿を器用に持っている。
「今日もお疲れ様」
紅茶だろうか。赤茶色の水面から湯気がほのかに立ち上っている。甘い良い香りがする。
ラビィはダルの机に持ってきたコップと皿を置いた。
「林檎か。いいな」
赤い皮がつやりと輝く。断面の黄色がみずみずしくて美味しそうだ。
ラビィは兎の獣人だけに兎林檎を作ることを思い付いたが、さすがに恥ずかしくてできなかった。
「色々あって、沢山頂いたんだよね。夕飯にも出ると思うよ」
「そうなのか。ありがとう」
ダルは椅子を用意しようとして、ふと気づいた。
「お前自分の分は持ってこなかったのか?」
「うん。本当にちょっとしたら出掛けないと行けないから。夕飯もいないよ」
ラビィは普段通りのにこやかな調子でそう答える。
小さなポットに入ったミルクと、角砂糖の瓶が机の上にそっと並べられた。
「それじゃあ、兄さん。またね」
またね
次の朝、兎はいなかった。
そしてまた次の朝も家に帰っては来ることは無かった。
ダル「ロムは何であんなに強いんだろう。アイツならあの伝説の魔物、ドラゴンだって倒せちゃうんじゃねぇか?」