2,秘密基地
「ん……?」
ふと違和感を感じて少年は布団から身を起こす。
三十畳はあるかという畳敷きの部屋の真ん中、腕に管を巻いた少年は蚊帳の向こうのきっちり開かれている障子戸の先、薄紫色の空を見る。
別にいつも通り。何の変哲もない変わらない黄昏時の色をした空。その中に何か、いつもと違うものが紛れている気がする。
こういう時はたまにあり、いつだったかは魔法の才能のあるが開花していない小さな子供が落ちてきたり、魔法を失った者が入り込んでいたことがあった。それらに実際に会ったことは無いが、そう本に書いてあったから多分そうなんだろう。
だから今回もそれに準じた「何か」が入って来たに違いない。
「若様、どうされました?」
少年の世話をしてくれている少女が障子の向こうから少年に声を掛ける。
ちゃぷ、と水の音がしたところを見ると、お茶でも持ってきてくれたのだろうか。
「何かが入ってきた」
「まぁ。それで、どうなさるんです?」
「僕が気付いたのなら他の奴も気づくだろ。ここは異物は排除するのが好きな連中が多いし、迷子なら帰さなくちゃいけないからな」
それに今日はいつもとは違う。いつもは外に居る連中も今日だけはこちらにやってくる。ただでさえマウントをとって自己顕示をしたがるやつが多いのに、今日はもっと増える。そんな中に異物が紛れてしまったら、簡単に収集はつかなくなってしまう。
それらに会った事が無いというのも、僕が見つけた時には物言わぬ死体に成り果ててしまったからだ。
ならば今回こそ、それの為にも僕自ら見つけて、さっさと向こうに戻してしまうべきだ。
世話役の少女は蚊帳越しにおっとりとした表情で微笑む。
「それなら、早めに支度をしましょうか」
「そうしてくれると助かる」
んっと少年は背伸びをし、蚊帳の薄い布を持ち上げて外に出る。
そこから出てきたその少年の額には、赤い角が二本生えていた。
「なんていうかさー、まさか自分のすぐ後に誰かが落ちてくるなんて思わないじゃん。あそこ人通りも少ないし、まぁアタシの不手際極まりないってカンジなんだけどね。そんで名前なんだっけ。タカナシさん?」
「タカハシです。あなたは荒川さんで合ってますか」
「超あってる」
軽い調子の返答に、大の字に倒れていた小鳥は思わずため息を吐いた。
小鳥の様子に目の前で仁王立ちする梨央は、少しだけ首を傾げる。
梨央は校内で別れた時と違い何故か松葉杖をついておらず、それどころか小鳥と殆ど時差なく落ちてきたと言っている割にいつ着替えたのか、服装はシンプルながらもあちこちにフリルをあしらったローブに赤と白のミニドレスを身に纏っているし、髪は黒髪から赤毛になっている。
「なんかあれだね、よくここ来たわよね。なんで?」
「私が聞きたいです。落っこちたと思ったらなんですかここ」
小鳥はいきなり足元に穴が開いてそこから落ちた。
なんで学校に、とかこんな穴があったら何で先生は何も言わないんだ、とか思う間も無く頭の上の青空は小さくなり、代わりに足元から来る暗闇が大きくなる。
ぎざぎざに切り取られた天井が米粒よりも小さく見えた時、ドズンという衝撃と共に小鳥の喉からは女子らしからぬ低い声が肺から飛び出していた。
一拍遅れて腰に来た痛みは衝撃音と比例して全身に響き、しばらくの間木の棒でつつかれたミミズの様に地面でのた打ち回っていた。そして転がってる内に何か布に纏われた柔らかいものにぶつかったが、小鳥は痛がる方に集中した。だって痛いんだもの。
ある程度痛みが収束したところで顏を上げると、そこには不思議そうな顔をした梨央が小鳥を見下ろしていたというワケだ。ちなみにぶつかった物は縞模様のハイソックスを纏った梨央の左足だった。そしていいわけ交じりの謝罪もどきを聞かされ、現在は痛みが割と引いているので、大の字になり気持ち悪い色の地面に転がっている。
小鳥の見上げる空は、さっきまで昼間だったのにいきなり夕方の雲の色をしている。寝転んでいる地面から派手な色のアイスキャンディーが生えているし、それの生えている地面はべっこう飴のように透明でわたあめのように柔らかい。
「ここは普通は来ない場所。ていうか高橋さんは来ない方がよかったよ」
「私が?なんで?」
「見た方が良いよね。百聞はナントカって言うし。腰大丈夫なら来て」
小鳥の腰はまだズキズキと脈を打っているが、これくらなら歩いても大丈夫だろう。そう判断して腰を持ち上げ、梨央の背中をついていく。
二人はミニカーの生えている木が雑多に生えている林に入った。木に生っているミニカーは突然ブルブルと震えたかと思うと地面に落ち、地面の中に沈んだと思うと急にエンジンをふかして走り出した。
ミニカーにエンジンも何もないだろうと小鳥は思わないでもないが、梨央が当たり前の様に無視して進んでいくので、それに準じるべきだと思い黙って後を追った。
緩いべっこう飴色の斜面をいくらか歩き、数百メートルほど歩いたところで林を抜け、崖の上に立った。
そこから見える景色は異様なものだった。
地平線の向こうまで続く広大な土地に、国も文化もないまぜになった建物が空を飛び、逆さまの噴水が忙しなくあちこちに虹色の水をまき散らしている。真下にはファンシーな生き物をかたどった石像があり、それのそばには派手な髪や服装の少年少女がたむろって遊んでいる。中には二足歩行する獣もおり、その情報量に小鳥の脳はキャパオーバーした。
「…………なにこれ」
「ここは魔法少年少女の秘密基地でーす。あ、でも規模でかいし秘密世界?ワンダーランド的な?」
「なにそれ……」
「んでも観光してる暇ないんだわ。巻きでいくよ」
「言われなくたってこんなクソ世界誰が観光するか……魔法とかマジなんなの……」
「そ。ならいいや。まぁ今日は緊急だからさ、ほら行くよ」
緊急とはどういうことだろう。
それを訊ねる前に梨央が早口で答えてくれた。
「今日は三ヶ月に一度の魔法少年少女の集会。めっちゃ危険なの」
「危険って。所詮人間じゃない。それの何が危ないのよ」
「魔法少年少女……長いからマジカルでいいや。マジカルは保守的なの」
「保守的。つまるところどういうこと?」
「外から入って来る奴が大嫌いって事。自分たちと同じ魔法少年少女なら歓迎するけど、それ以外はしないの」
「なんで歓迎しないの?」
「色々あるんだよ。特に魔法を嫌う人間は大嫌いで、マジカルに否定的な高橋さんは下手したら話し合う間もなくそいつらに殺されちゃうかもしれない。わかった?」
そこまで聞いて小鳥は青ざめる。
なんて野蛮な奴らだ。ちょっと意見が違うからってすぐ殺すだなんて。哺乳類の風上にも置けないじゃない!そんなに嫌いなら殺すより外に追い出したほうがいいじゃないの!
そこで小鳥は少し引っかかった。
そうだよ。追い出せばいいじゃん。荒川さんのように出入りできるって事は、どこかに出入り口や非常口の一つや二つあるはずだ!
「荒川さんは帰り方知ってるんじゃないの?」
「知ってるよ」
「じゃあその方法で返してくれればいいんじゃない」
「無理。マジカルなら落ちてきた場所……あそこエントランスっていうんだけど、あそこに立てば魔力に反応して勝手に帰してくれる。ていうかあれ一度に一人用だし、魔法が無いならあそこは使えない」
「私が落ちてきたのはなんだったの」
「故障じゃね?普通ありえねーし。あとでクレーム入れるわ」
そんな安直な。
「ま、帰れないせいで高橋さんが死ぬのを回避したいから、まずはまともな奴……鬼がいいかな。アイツは人の話は聞けるし。んで、その為にはあそこを目指す必要がある」
梨央の指差す方向には手前の街並みから左側の方にある、珍しく地面に接している日本家屋があった。
と言っても、その家はやたら高い崖の上にちょんと乗るように建っていたが。
日本家屋は遠目から見てもシンプルなのだが豪奢というか。小鳥の言葉足らずでわかりにくいがとにかく品の良い金持ち、もしくは侍なんかが住んでそうだなといった印象を受けた。
「あそこに鬼がいる。今の時点で出かけたはわからないけど、待ってれば絶対鬼は来るだから今はあそこを目指すよ」
「あんな遠いの?」
「いざとなったらアタシが守るから平気平気」
「全然安心できない……」
肩を落とす小鳥の肩に、何かが覆われる。
それは梨央の纏っていたフリル付きのローブだった。
「とりまアタシのローブでも着てて。制服とか超目立つし」
「あ、ありがと」
「あとさ、死にたくなければ目立つなよ。物珍しいのもわかっけどさ」
「うん」
「あと絶叫系好き?」
「え、うん。嫌いじゃないけどそれがどうかしたの……」
「そ。ならよき」
そう言うや否や、梨央はローブを着込んだ小鳥を担いで崖を飛び降りた。
脈絡のない梨央の行動と着地の衝撃に、小鳥の喉からはまた女子らしくない声と、胃の中身が出た。
ビチャビチャと地面に跳ねるそれを見てびっくりしたのか、梨央は小鳥を下ろして背中をさすってくれた。
「絶叫平気だって言ったじゃん」
「うぇ……だからって、紐無しバンジーする?うっ、オエエ」
「めんごー。抱えて走った方が早いと思ったんだよ。しんどそうなら担ぐのやめるけどどうする?歩く分遅くなるけど」
「……歩く方で」
「了解道中膝栗毛~ってね。吐き終わった?なら行こ」
「まだ吐き終わってない……」
「ヘーキヘーキ」
梨央に無理矢理手を引かれ、気持ち悪さに前かがみになりながら小鳥はそれに引っ張られる。
先程足元にあったファンシーな石造のある広場からまっすぐ崖の方に進むと、べっこう飴色の土はいつの間にかクッキーの石畳になっていて、石畳の両側では絵に描いたようなお店が並び、魔法少年少女が楽しそうに歩いている。
「ひえ……マジカル多いよ……」
「そう言う場所だから我慢して。あ、もしやお腹空いてる?灯篭ヌガーとか食べる?」
「また戻すしいらない。それにこんなとこの食べ物なんか食べたくない」
「キッパリ言うね。良いと思うよ」
ローブを深くかぶっている小鳥が気になるのか、すれ違う魔法少年少女は不思議そうな顔をして小鳥を見てくる。だけど梨央が言うように殺しにくるでもなく、ただ不思議そうな顔をしていた。
「あのさ、チラチラ見られてるんだけど。ほんとうにコレでバレないの?」
「ばれないよ。そのローブ自体魔法みたいなもんだから、魔法に覆われていれば魔法の有無なんてバレないもんなの。流石にサーチ系の魔法使われたら終いだけどね」
「そんなもんなんだ」
「そんなもんなんですよ」
不思議な視線に包まれて、梨央と小鳥はクッキーの石畳の上を進む。
はや足だったせいかあっと言う間に道を抜け、大きな広場に出る。
広場にはさっきよりも多くの魔法少年少女がごった返し、あちこちで魔法を使う姿も見えた。
梨央に手を引かれながらそれらを見ていると、小鳥よりも二回りも大きな人にぶつかってしまった。
謝罪の言葉を言う前に、小鳥は言葉を失った。
そいつはヤクザもかくやという様な顔つきをした大男だった。
「痛ぇな!何すんだよ!」
「ひっ」
「あ……?なんだお前……」
「ようムム。それ、アタシのツレだから。誰とも知らずに絡むなんてみっともねぇな」
梨央はムムと呼ばれた魔法少年から小鳥を庇うように立つ。
その立ち振る舞いにムムは首を傾げる。
「友達かぁ?お前友達いたんだな。おい、お前のツレ見ねぇ顔だな。誰だよ」
「うるせえよ。とっととご主人様ンとこでもなんでも行けよ」
「だからそいつは誰だって訊いてんだよ。答えてくれりゃそれでいいっつってんのにわかんねえ奴だな」
「ち、ちょっと荒川さん……!」
ビリ、と双方の苛立ちが小鳥に伝わってくる。
気付けばさっきまでクッキーの石畳の上は足場も無いほど人で溢れ賑やかだったのに、今は魔法少年少女たちはムム、梨央、小鳥を中心に円を描くように遠巻きに見ていた。
『喧嘩か?いいぞいいぞぅ!』
『ねぇあの子変身してなくない?変じゃない?』
『おい誰か姫か鶴辺り呼んで来い!怪我人を出すな!』
そんな声が聞こえてくるが、梨央とムムは聞こえて居ないようでお互いを睨み合っている。
ああ……ダメだ目立ってしまった……。
心の中で小鳥は頭を抱える。
「ムム、お前には関係ないよ」
「関係ない事はないだろ。ここに居るんだからな。んで、そいつは誰だ?」
「誰でもいい。ていうかお前風呂入ったの?すごいクサイんだけど」
「話を逸らすんじゃあねェよ。俺の質問に答えやがれ、アバズレ」
「関係ねーっつってんだろうが。んだよ頭足りねえくせして邪魔してんじゃねえよバーカ」
その言葉にムムの額に青筋が浮かぶ。
「あア!?馬鹿かどうかは戦ってから決めろやチビ!」
「そういうとこが馬鹿だっつってんだよ。いいよ、勝てるもんなら勝ってみろ。無理だけどな」
「ああ荒川さん!目立っちゃダメって言ってたじゃん!」
思わず声を掛けると、梨央は小鳥に一瞥もくれずに鼻を鳴らす。
「目立つ間も無いっしょ。さっさと潰す」
「もう目立ってるんだって!これ以上目立ちようがないよ!」
「マジ?じゃあ鬼来るかもね。逆にもっと目立つのもアリかねぇ」
「もおぉーーー!!!荒川さんの馬鹿あーー!!!!」
「怒んなって」
梨央がそう言った途端、数メートル距離をとっていた筈のムムが梨央の横っ面を叩いた。
不意を突かれたのとそれの勢いで梨央は吹き飛ばされ、石畳に叩きつけられる。
場が静まり返り、誰もが梨央を見つめる。
その中で唯一、円環状の騒ぎの外側に駆けて行く銀髪の少女の足音だけがあった。
梨央は動かなかった。小鳥は動けなかった。
「勝ったな。んじゃお前、質問だ。変身してないが、誰だよ」
満足そうに、偉そうに、ムムは小鳥にそう声を掛ける。
魔法を使えない奴にとっては不正でしかないその力を振りかざして、傲慢に怠惰を貪る。小鳥は昔見たテレビの向こうのその経験を思い出していた。
これだから……これだから魔法は嫌いなんだ。
ぞわりと小鳥の胸の中の何かが蠢く。何かが這いだしてくる。
これは怒り?それとも悲しさ?
どれでもいいだろう。きっとまともな感情じゃないんだから。
「おい、だんまりか?オイ」
ムムが小鳥を左腕で小突く。
小鳥はその腕と胸ぐらを掴み、体格が自分よりもいいムムを投げた。
所謂背負い投げ。
ムムは受け身を取れず、まともに背中を打った。
周りはどよめく。
魔法を持たない奴が、魔法を持つ奴に勝った。それは彼らにとって何よりも許し難い侮辱だった。
そんなものを気に留めず、小鳥は梨央の方を向いた。
「……守ってくれるんじゃなかったのね」
「守ったよ」
石畳から梨央は目を持ち上げ、小鳥を見上げる。
小鳥から見た梨央の瞳はルビーのようで、綺麗だなぁなんてのんきな事を思った。
ガラリと音を立てて梨央は立ち上がる。
「どこが」
「まぁそのうちわかる」
「なにそれ」
話に段落が付くと、周りの音が徐々に入って来る。
ムムを小馬鹿にする声、ザワザワした声色、遠くの噴水の音。
だから小鳥は気付けなかった。
「隙アリ!」
目の前の梨央は目を見開いて驚いていた。目の前に透明な液体が散る。
それを見てすぐ、小鳥の体に燃やされるような激痛がした。
「あら……なんだか騒がしいですね」
時間を遡り少し前。
世話役の少女・イヅルの呟きに、鬼の少年はぼうっとしていた頭を現実に引っ張り戻す。
イヅルと同じ方向に顔を向けると、なるほど確かに。いつもの穏やかな賑やかさとは違う、血湧き肉躍るといった賑やかさが伝わってくる。場所はさほど離れていないクッキーの石畳の広場だろうか。
「どうせ誰かが喧嘩してるんだろ。放っとけ」
「でも若様、さっき誰かが入ったみたいに仰いましたよね。あの賑やかの中心にそれがいたらどうするんです?」
「それは……困ったな。魔法も一方的なものでも無い様だし、判断に困るな」
「入り込んだ奴なら魔法使えるワケねーんだろ?なら気にする事無いんじゃねえ?」
反対側の隣にいた覆面の少年がそう言うと、イヅルは声を荒げた。
「誰かその子を庇って戦ってるマジカルがいるかもしれないじゃないですかー!」
「あ、そっか。そういう奴もいるもんな。でもよぉ、騒ぎがあるからって確実にいるとは言えねえだろ」
「それがいるんだなぁ~!」
三人の背後から鈴を転がすような声が聴こえ、三人はそろって後ろを向く。
そこにはふわふわの銀色の髪をなびかせるきゅるきゅるした顔つきの、白銀のドレスの魔法少女が立っていた。
彼女はクリスタル。魔法少年少女からはその外見から姫と呼ばれている魔法少女だ。
「クリスタル、本当か」
「うん。高校生くらいの女の子だね。ムムがそれに気づいて尋問しようとしてるっぽいけど、リオーネがその子を守るように威嚇してさ。まるでお姫様を守るナイトみたい!オレ感動しちゃった!」
ムムは少年の友達だ。
怖いお兄さんの様な見た目をしているが話せばいい奴で、先程若と呼ばれた少年はムムに迷子探しをお願いしたところだったのだ。
ムムが(比較的)友好な言葉で彼女を保護しようとしたが、荒くれ者のリオーネが気まぐれにそれに立ちはだかっている……三人はそう考えた。
「ムムもリオーネもなにしてるんだよ……」
「大方、ムムは口も見た目もアレだから怖がられてるんだろうな。それを考えなかった僕も悪かったかな」
「いや入って来たのが男か女かなんてわかんねえよ。若は悪くねえ」
「若様、私が保護しに行きます。少しお傍を離れますがご容赦くださいね」
「構わない。迷子の生存の方が大事だ」
少女が三つ編みを翻して騒ぎの方に走っていく。
「それでねー」
「まだなにかあるのかよ」
「あるあるものすごくある。大事な話だよ。ていうかワカバは行かなくていいの?」
「僕じゃリオーネの魔法は止められない。相性が悪い。それに迷子の方は同じ女の話を聞く方が聞きやすいだろ。ほら、僕の見た目は鬼だからな」
「なるほどね。ミライ君も体大きいもんね。女の子は怖がっちゃうね~」
ミライと呼ばれた覆面の少年は「ほっとけ」と言ってそっぽを向いた。
「それで、大事な話とは」
「ええっとね。これ内緒だよ?」
「可愛い子ぶるな。さっさと話せ。じきに集会が始まる」
「あのねあのね……その迷子ちゃんさ、蠢きがあった」
「まさか、マジカル否定派なのかよ」
「ご名答。これさ、相当ヤバくないかな?」
マジカル否定派とは、文字通り魔法を嫌う考え方を持つ人だ。
この魔法を持つ子供ばかりの世界で、その思想はすなわち「死」を現していた。
嫌な予感が若の背筋を伝う。
「マジか……」
そう口から零すので精いっぱいだった。