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滅びた後の世界で  作者: 犬神
2/2

変化

「おはよう、姉さん」

 俺の朝は、姉さんの墓前から始まる。墓とは言っても、俺が一人で作ったものであり、戒名とかそういうモノもなく、ただ穴を掘って埋めただけのものである。手を合わせて、墓と向き合う。何かを言うわけではないが、何となくである。



「行ってきます。姉さん」

 挨拶を終えて、俺は仕事に出かける。


 今日の仕事は、町に溢れる死体の回収作業である。血は服に着くと落ちづらいが、作業も長くかかる為、貰える配給も幾分多い。


 作業現場に歩いていくと、死体が転がっている。頭が無いモノ。足が無いモノ。内側から破裂したように見えるモノ


 今日は十人か……。案外多いな。



 



 日本が崩壊して、約十八年、日本の人口は約二万人ほどになった。

 人口減少の原因は主に、三つある。


 一つ目は、自殺。

 困窮し追い詰められた人間が取るもっとも単純で間違いがないであろう逃避方法だろう。飛び降り、ロープ、薬品、ありとあらゆる自殺する方法が披露されただろう。一家心中などもあった……らしい。


 二つ目は、人間による殺害。

 追い詰められた人間の中には、発狂する者もいた。いないわけがない。

 この日本ではもう意味がないであろう銀行を襲う者もいた。

 食料を求めて、スーパーやコンビニを始めとした食料品店を狙った者もいた。


 凶器を持ち、殺意を持ち、邪魔をする者。同じ目的を持つ者を殺して殺して、殺された。そして、それは感染する。持つ者は持たざる者に恐怖し、持たざる者は持つ者を狙う。人間の生きるという欲望は、同じ人間を殺すことで満たされた。


 そして、減少は少しづつ減っていた。理由は、疲れたから。諦めとも言える。


 持つ者は、持っている荷物を捨てた。

 持たざる者は、狙うことに疲れ果て、息絶えた。


 殺意の感染は終わり、後に残ったのは山積みの死体モノだけになった。


 そして、三つ目……



「――――――――」

 考えず、ただ無心で死体を袋に詰める。時折、骨の折れる音が聞こえるが気にしない。必要なのは死体である。骨など大した問題ではない。袋に満杯になるまで、死体を詰めこんで、袋口を結ぶ。その時、死体の血が飛び散り、顔に付いた。


 顔に付いた血を指で拭う。黒く変色した血が指についている……………………





「……はぁ」

 頭を軽く振って考えを追い出した。そう思いこむ。もう、作業も終わった。あとは袋を業者に渡せばいいだけだ。



「ボーナスゲット」

 その後集めた死体袋を二つに増やして、業者に渡し、給与をもらう。数日分の食料と水と生活用品。節約すれば、数ヵ月は持つ。少し上機嫌になりながら、夕暮れの帰り道を歩いていく。





「お兄さん」

 何時の間にか、目の前に少女が立っていた。気づかなかった俺は、困惑した感情を抑え込み、少女に話しかける。


「何?、お嬢ちゃん」

「私と遊ぼう?」

 少女は俺の手を取って、引っ張られていく。足に力を入れて少女に手を引かれないよう踏み止まる。


「ごめん。俺はもう帰らないと……」

「帰るってどこに?」

「家だよ。早く帰って御飯の準備しないと」

 手に下げている食料品の袋を、少女に見せながらそう言った。



「なんで?お兄さんに帰るところなんてないじゃない」

「……」

「お兄さんがいるのは、お墓。お墓は死んだ人たちのお家なの。お兄さんは帰れないのよ?」

「………………」

「お兄さんは生きている。だから、私たちの所で生きないといけないの」

 少女の言っていることは正しいのだろう。生きている俺があそこにいたところで、死んだ人が蘇るわけではない。でも……



「俺は……もう殺されているから……」

「………………」

「俺は、あそこに居たい。姉さんの傍に居たいんだ」

「………………そう、ならしょうがないわね」

 少女は握っていた俺の手を放すと、後ろに下がった。そして、懐から、針の付いた拳銃のようなものを取り出す。本来、銃身があるところが透明になっており、その中に、薬品のようなものが入っている。


「実力行使といきましょう」

 少女はその拳銃を、首に嵌めてある赤黒い金属製の首輪の穴に押し当てる。そして……引鉄トリガーを引いた。


「グゥッ……ハァア」

 薬品を首輪を通して、体内に入れたのであろう少女は、唸り声を上げる。その声は少女のものとは思えないほど重い。唸り声を上げながら、少女の身体に変化が現れる。


「ハ、ハハハ、ハハアぁ、ハハハッ」

 少女は笑い出す。自分自身が異形のものになっていくことが楽しく思えるのだろうか。少女の背中から、足が生えてくる。その足の本数は八本。細く、鋼鉄の光沢を放つソレは、まるで、蜘蛛の足だ。顔をブクブクと泡立たせて、現れるのは瞳。赤く輝く蜘蛛の眼を現出させる。


 背中から生えている蜘蛛の足で立ち、地面に対して仰向けになった少女は、そのままこちらの方を、無数の蜘蛛の眼で睨みつけてくる。




「アハハ、アァ。サァ、オニイサン。アソンデヨ」

 


 人口減少の原因の三つ目、それは、怪物の食料になることだ。

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