後輩の耳かき
「先輩、先輩。今日、先輩の家に行ってもいいですか?」
いきなり後輩―――小坂 悠に聞かれる。
小坂は高校の後輩で、部活などの理由で話すようになったのだが、もうかなり打ち解けて仲がよい。
「別にいいけど」
遊ぶことはよくあったが、どちらかの家に行くことはなかったなと思い、ちょっと驚いた。
「やった!じゃあ先輩、早く帰りましょう!今すぐ帰りましょう!」
「まてまて、まだ靴を履いていない!!」
グイグイと腕を引っ張ってくる。散歩の時の犬みたいだが、どちらかというと、猫の方がコイツには似合っている。
小坂は鼻歌を鳴らしながら腕を組んでくる。腕を組むというか、腕に抱きつくという方が正しい。そして、胸が当たっている。
だが、胸の大きさはそこそこなので、この程度の胸では欲情しないわ!!甘い甘い。
はぁ、お前の胸がもう少し大きかったらな。
「はぁ、お前の胸がもう少し大きかったらな」
おっといけねぇ、思ったことがつい言葉に。
「先輩先輩!早く還りませんか?」
少し、言葉に感情が無いというか........。
「なんか、漢字が違ってない?」
「気のせいですよ」
「.....そっか」
「おじゃましまーす」
小坂を俺の部屋に連れていく。
「おぉ!!ここが先輩の部屋ですか!!!」
小坂が目をキラキラさせながら部屋を見渡す。
「恥ずかしいからあんまりジロジロ見るなよ」
女子などあまり連れてきた事がなかったので少々緊張する。
「さーて」
小坂が机やタンス、本棚を漁り始める。
「何してるんだ?」
「なにってそりゃあ、エロ本やエロDVD、エロゲの類いですよ」
「縛り付けるぞ」
「ふむ、束縛プレイが好きなんですか」
「ちげぇよ!!!」
とんでもなくマニアックな性癖を持っている人になってんじゃねぇか。
「さて、そろそろ本題に入りましょうか」
俺のベットの中から小坂の声が聞こえる。ちょっと前に小坂が俺のベットの中に入り「んふぅ!!先輩の香りがするぅうううぉぉぉおおぉお!!!」と叫んでいた。完全な変質者である。
「本題?なんかあったっけ?」
遊ぶこと以外に目的があったのだろうか?いや、遊ぶことが目的なのかもしれない。
「本題はですね、先輩、よく耳に指を入れてますよね?」
「ああ、最近耳が痒くてな」
「ですから、それを解消するために今日、先輩の家に来たんですよ」
ニコッと笑うと、小坂はバックから耳かきのセットを取り出した。
「耳かきしてくれるのか?」
「ええ、やりますよ!むしろ私がやりたい位です!!」
小坂はベットに腰掛け、太ももをポンポンと叩く。
「まさか!膝枕.......だと」
小坂の太ももは天国だった。運動部で鍛えられた引き締まった筋肉が有りながら、女子特有の柔らかさを兼ね備えている。
「じゃあ、右耳の浅いところからいきますね~」
カリ....カリ......。カリカリカリ.....スーッ。
「先輩」
「ん?どうした」
「先輩の耳の中きたねぇ」
「そんなにか!?なんか....スミマセン」
「多い方が私的には嬉しいんですけどね」
クスクスと笑う小坂。では何故汚いと罵倒されたのか?解せぬ。
「大体浅目は取れたかな?じゃあ少しずつ奥にいきますね」
ガサゴソと音がなる。クリクリと匙を動かす小坂。
カリ...ガサ.....ペリペリ......サク....サク...スーッスーッ
あまりにも見事な腕前に驚くばかりだ。率直に言って、気持ちいい。
「どうですか?先輩」
「あぁ、滅茶苦茶気持ちいいよ」
「そうですか、よかったです」
「誰かにやったことがあるのか?」
「ありますよ、男の人に」
小坂は何故か男の人を強調した。
「ふーん」
ついつい、素っ気ない態度をとってしまう。
「ま、男の人と言っても、弟ですけどね」
妬いてくれましたか?と聞いてくる小坂のことを無視する。
「先輩おこですか」
全く反省してねぇなこいつは。別に怒っては無いけどな。
「おこということは妬いてくれたんですね....あッ!」
「どうした!?」
「大きいのを見つけました!でも...結構奥にありますね....じっとしててくださいね」
「わかった」
匙が奥を掻く。カリカリと優しく掻いていく。
ベリッ大きい音がした。そのまま鋭い音ともに大きいものが引き抜かれる。
「大きなものが取れましたよ!!」
匙に小指の爪の半分くらいの大きさの耳垢がついていた。
「でけぇな」
「ささ、仕上げにいきますよ」
綿棒で耳の中をなぞる。ザリザリと粉が取れてる音がする。
「フーッ」
突然息が耳に吹きかかる。体がビクッと動く。
「可愛い反応をしますね」
「と、突然だからビックリしたんだよ」
「そうですか。さ、反対をやりますのでくるッとこちらを向いてください」
ニヤッと笑い、小坂は反対側に俺を向かせる。
「はい、じゃあ反対の耳を拝見~........うわぁ。こっちの耳滅茶苦茶汚いですね」
「え?そんなにか!?」
確かに、利き手側の反対だが、そこまで大差は無いと思っていたが.....軽いショックを受ける。
「強敵ですね.....フフッ腕が高鳴ります」
小坂はゆっくりと耳の穴に耳かき棒を入れる。そのまま浅い所を優しく擦っていく。スーッ、スーッと耳かき棒を動かす度に良い音が聞こえる。
「少しずつ、少しずつ奥に進んで行きますからね」
徐々に奥に進んでいく耳かき棒がついにバリッと大物に当たった。
カリ........カリカリ.....ペリッ........カリッ....ペリペリペリ.....スーッ
大きいのが取れたみたいで、小坂は喜んでいるが、俺は見逃さない。確実に耳垢を取るときに欠片を落としたことを。
「今、耳垢少し落としたよね?」
「....先輩。耳垢って自然と取れるものなんですよ.....」
それ以前の問題なんですけど。と思うが、完全に逃避モードに入っている小坂に何をいっても時間の無駄なのだ。
クリクリと動かしている耳かき棒がとても気持ちが良く、ついウトウトしてしまった。
「先輩、寝たかったら寝ても良いですよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
せっかく太ももの上なのだ、このまま寝てしまおうと思い、耳かきは名残惜しいものの、眠りにつく。
後日、学校の授業中、耳に指を突っ込んでいると、多分小坂が落としたであろう耳垢がとれたのであった。
「なぁ、知ってるか小坂」
「なんですか先輩」
「この世には、胸がでかくて、人に耳かきが出来ない人が居るらしい」
「私の敵ですね」
「お前には遠い話だよな」
「鼓膜破りますよ」