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気持ちは変わらないのだけど

 なんで、こんなことになっているのだろう。


 今、俺は裏庭に面した1階の教室の壁際に座り込み、裏庭で繰り広げられている出来事に耳を澄ましている。


 『ねぇ、遼一。今日の放課後、図書準備室の壁際に窓開けて座り込んでると、面白いことがあるよ』


 昼休みに、そんなことを伝えに来たのは、幼馴染の奈那子で。

 どういう意味かと尋ねても、笑うだけで答えてくれず、ならば伊智花に聞こうとすると、必死で止められた。


 『ダメダメ!! 伊智花に言わないことに意味があるんだから!』


 (一体、何があるのかと思いきや……)


 状況が状況なので、立ち上がることすら出来やしない。

 

 「えっと。……町本くん? わたし、付き合ってる人が居てね?」

 「知ってる。江藤だろ?」

 「うん、そうなんだけど、だから……」


 奈那子の含み笑いの意味を悟ったときには、既に時遅し。

 聞こえてくるのは、表向きには俺の(とりあえず、表向きには、とか言っちゃう自分も最悪だなと思うけど)彼女である、神崎伊智花と、誰か別の男の声。

 しかも、その内容は、考えるまでもなく「告白」とか言うやつだろう。


 (彼女が告白されてるのに、嫉妬すらしないもんなぁ)


 むしろ、ここで伊智花がOKを出して、別れを切り出されても、ショックを受けない自分が居る。

 そんな奴なのに、なんで自分なのかと、いつも不思議を感じる。


 「けどさ、江藤って、桂木のことが好きなんじゃないの?」


 ドキッと心臓が跳ねたのは、この瞬間だった。

 (は? なんで、わかるんだよ?!)


 「どういうこと?」

 答える伊智花は、訝しげに聞き返す。

 「だから、江藤が本当に好きなのは、幼馴染の桂木じゃないのかって。だって、おかしいだろ? 俺、あいつら2人のこと小学校から知ってるけど、桂木はともかく、江藤は絶対桂木に惚れてる」

 神崎だって、本当はわかってるんじゃないのか?

 

 (おいおいおいおいおいおい。誰だよ。そこまで俺のこと知ってる奴)

 顔を見たいけれど、きっとそこまで仲の良い相手じゃないのだろう。

 (町本って言ったっけ?)

 知り合いにそんな名前の奴がいたかどうかを思い出そうとすると、不機嫌そうな声がした。


 「そうだとしたら、どうだっていうの?」


 伊智花の空気が一変した。

 相手もそれを感じたようで、戸惑っている雰囲気が伝わってくる。

 「え?」

 「もし、遼一が、奈那子のこと好きだったらどうだっていうの?」

 低い、けれど、どこか呆れたような、なんとなく今更なに? とでも言いたそうな感じ。


 「いや……だから、そんな想われていない相手と付き合うより俺と……」

 「生憎だけど」

 それでもなお、言い募ろうとした相手の言葉を遮る伊智花。


 「わたし、自分が想って欲しい分くらいは、ちゃんと想われてるの。自惚れでもなんでもなく、ちゃんと想ってもらってるの。奈那子とのどっちが想われてるかなんて、比べることになんの意味があるの? わたしはわたしで、今が幸せなんだから、なんの問題もないじゃない?」


 しばらくして、ようやく諦めたのか、男が去っていく音がした。

 だからといって、俺が動けるわけはなく、伊智花が居なくなるのを、じっと待つ。


 (相変わらず、不思議だよ。どうして、そこまでして俺なんだか)


 そう思いながら、早く居なくなってくれないかと思っていると、ふと、呟き声が聞こえた。


 「ダメだなぁ……『想って欲しい分』なんて、想われたいって考えてる証拠みたいなもんじゃない。気、抜いちゃダメだよ。見返りは求めない。それが我慢できなくなったら、即終わりにする。よし!」


 (なんだよ、それ)


 正直。面白くなかった。

 俺だって、伊智花のことを嫌いなわけじゃない。

 奈那子ほどとまでは行かなくても、人間として好きだと思う感情くらいある。

 けれど、今のは。

 (俺からの気持ちは要らないってことかよ)

 それどころか、受け取ることすら拒否されてないか?


 足音がして、裏庭に誰も居なくなっても。

 俺はしばらく、そこから動けずに、心の波紋を広げていた。

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