予想外のプレゼント
「誕生日プレゼント」
そう言って、伊智花から渡されたのは、一本の香水だった。
「……香水?」
「そう。今回のは、自信作」
「自信作?」
「うん。いつものプレゼントより、レベル高い感じ」
あまりにも無邪気な笑顔に、多少複雑な思いを感じた。
香り自体は嫌いじゃないものの、他の女の選んだ香りを付けることが、なんとなく自分を占有しようとしているんじゃないかという焦り。
そんなものを伊智花から感じたことがなかったため、戸惑った。
そんな思いが顔に出ていたのだろう。
伊智花は、無邪気な笑顔を少しばかり苦笑に変えた。
「つけてみればわかると思うけど……言っとくけど、香水そのものがプレゼントじゃないからね?」
どういう意味か尋ねても答えをくれず。
とにかくつけてみろとの一点張り。
その意味がわかったのは、香水を付け始めて数日後のことだった。
「? ねぇ、遼一」
近所付き合いの一環で、親戚から送られてきたものをお裾分けとして、奈那子の家に行くと、玄関先で奈那子が僅かに首をかしげた。
「? なんだよ」
「香水、つけてない?」
「…………つけてるけど?」
つけているといっても、ほんの少しで、家族や一緒にいつもいる友人にすら言われたことがなかったのに、なんでこいつは気がつくんだろう。
そう思いながら、気づいてくれたということが、自分への関心を表しているようで、伊智花からもらったとはいえ、微妙に嬉しくなる。
「もしかして、伊智花のプレゼント?」
「だったら何?」
「いや…………………へぇ……………」
ニコニコと嬉しそうに笑う幼馴染に、訝しげに声をかける。
「何だよ」
「………んーと……あのね?」
『その香り、わたしすごい好きでね。でも、恭哉には似合わない香りだなぁって思ってて。遼一っぽいなぁって思ってたんだけどさ。わたしがあげるのもおかしいじゃない? かといって、伊智花に勧めるのも失礼だよなって思ってて。そしたら、遼一、その香りつけてるんだもん。ビックリしちゃってさ』
しかも、思ったとおり、似合うね! そう続けられて、そりゃどーも、とぶっきらぼうに返事をする。
内心、本当に、止めて欲しい。と思った。
アイツのことだ。奈那子がそう思っているのを知っていて、寄こしたに決まってる。
占有されている人物が違うと、こんなにも思いが違うものか。
本当に、止めて欲しい。
奈那子を好きだと、思い知るから。