ラッキーアイテムの効果
「誕生日おめでとうー!」
そう言って、伊智花が奈那子に渡したもの。
それは、どこか見覚えがある、四葉のネックレスだった。
「わぁ、可愛い! めちゃくちゃ好き!! このクローバーの曲線の感じとか、シルバーとか、大きさとか、もー好み! ありがとう!」
「でしょでしょ? 絶対に、奈那子好きだよなぁ、こういうのって思ったんだよね」
「うん。さすが親友。わかってるー」
喜ぶ女子2人を目の前に、奈那子の彼氏で俺らの幼馴染でもある恭哉兄が「女の友情って……時に恋人より強いよなぁ」と嘆く。
「俺だって、誕生日に指輪あげたのになぁ」
あんな喜ばなかったぞ? と言うその顔は、年下の俺から見ても、なんとなく情けない。
「指輪、あげたんだ?」
「おまえの力借りればよかったなぁ。なんだかんだ言っても、奈那子の好みを一番把握してるのって、おまえだもんなぁ」
不意の言葉に、ドキッとする。
「……でも、俺が選ぶの手伝ったって言えば、怒るよ? きっと」
『身につけるものは、好きな人からもらったものだけ』
それは、奈那子が昔から守っている彼女自身のこだわりだ。
好きな人、の定義はたぶん広くて、俺もその中に含まれてはいるのだろうけれど。
それでも、恭哉兄のことを考えないわけはないから、きっと喜んではくれるけれど、決して身に着けたりはしないと思う。
そんな話を伊智花にしたのは、去年のクリスマスだった。
『これってさ。奈那子イメージ?』
『………………やっぱ、返して』
『あ、それが嫌とか、そういうんじゃなくって。本当は、奈那子にあげたかったけれど、あげれなかったっぽいなぁ、って』
『……そこまで、見破られたものやれるか。返せ』
伊智花のことは、嫌いじゃない。
けれど、そこまで好きかと問われると、まだ考え込んでしまう頃で。
わざわざクリスマスだからとプレゼントを買うほどでもないかと思っていたら、なんだか自分はもらってしまったから、なんとなく極まりが悪くて、昔買ったものを渡した。
それも、奈那子に買って、渡すことのできなかった、そんな失礼なプレゼントを。
『あー、落ち込まないでよ。わたし、どちらかと言えば嬉しいんだよ? 奈那子にあげようと思ってた大切なものを、あげてもいいかって思うほどには、わたし嫌われてないんでしょ? それで充分だって』
『だけど』
『いいから! ね、もらっていい?』
そのとき、伊智花に渡したものが、何故か奈那子の胸元に輝いている。
(いったい、いつから考えてたんだよ?)
あげたのに、一度もつけないなぁと思ってはいた。
けれど、それもすっかり忘れた今頃になって。
「ね? 遼一も見て見て! 奈那子にあげたネックレス、すっごい似合うよね?」
そう言って、得意気に微笑む伊智花に、感謝する。
確かに、彼女はラッキーアイテムみたいに、俺を幸せにしてくれていた。