自業自得な自覚と決意
「おめでとうございまーす! 3等です!」
たまたま行った大型商業施設の抽選会で当てたのは、駅前のちょっといいホテルのペアランチ。
なかなかいい物が当たったなぁと思いながら、誘う人を思い浮かべる。
(テストも終わったことだし、伊智花を誘っても、不自然じゃないよな)
距離を置いていても、奈那子と一緒に3人で放課後ファーストフードに寄って勉強をしたり、あまり変わりない日々が続いている。
けれど、俺自身は、ふと伊智花の首に光るネックレスに妙な優越感が浮かんだり、奈那子が恭哉兄と約束があると、口実がなく伊智花と一緒に過ごせないことにテンションが落ちている自分がいることに気が付いていた。
……それが、どういうことなのかということに、心当たりがないわけではない。
けれど、だからといって、行動を変えるようなことができるわけでもない自分に我ながら飽きれる。
先に、妙に距離を詰めてしまったせいだなと、思う。
伊智花のことを友人以上に思っていなかったときに、想ってるかのようなフリをしてしまったせいで、今、どうやって振る舞えばいいのかがわからない。
ましてや、伊智花があまりにも俺が奈那子を好きでいたことを当たり前と思っているから、ちょっとしたこともすべてカモフラージュで流されてしまう。
例えば、カフェでご飯を奢ったり、スナック菓子を手ずから食べさせてみたり、満員電車の中で腕の中に囲ってみたり、奈那子からあきれ混じりの視線を感じるようなことをしても、伊智花はすべて「振り」だと思っている。
今更。自業自得。
更に、もしかして伊智花は「奈那子を好きな俺」を好きなのかもしれないという考えまでが、頭の中に浮かぶ。
もしそうだとしたら、奈那子を好きではなくなった時点で、伊智花の興味も俺からなくなってしまうかもしれない。
そう思うと、決定打を投じることもできずに、うなだれてしまう。
手元にある食事券をもう一度見る。
こういう時に、一緒に行きたいと思うのが伊智花になったのはいつからなんだろうか。
奈那子と行けないことに苦い痛みを覚えたこともあった。
それが、恭哉兄から奈那子へと羨ましくなる対象が変わってきたことで、奈那子への気持ちも少しずつ明らかに変化している。それも、伊智花が奈那子を優先させ過ぎることに苛立つ、という形で。
(奈那子のことを邪魔だと思う日が来るなんてなぁ)
表向き、俺が伊智花に未練たらたらな状況という設定なので、奈那子はさりげなく復縁させてくれようとしているのだけれど、それがすごくもどかしい。
それじゃ、余計に勘違いさせる、と思うことばかりで、伊智花のように、かゆいところに手が届かないパスに、改めて伊智花がどれだけ俺を見てくれていたのかを思い知る。
「そのお食事券って、有効期限とかあるの?」
「? いや、特にないみたいだけど?」
昼休み、奈那子が席を外したタイミングで切り出した俺に、伊智花はうーん、と唸りをあげた。
質問の意図が読めずに、都合でも悪いのかと思っていると、残念そうに伊智花がその意図を語りだす。
「そっかぁ。期限があれば、ギリギリで予約しといて、当日奈那子にバチンタッチってのもありかなぁと思ったんだけど」
(…………なんだよ、って思うんだよな、こういうとき)
伊智花の中では、どうやって俺が奈那子と一緒にランチができるか、という方向に話が進んでしまってる。
なんとも思っていなかったときですら、どうして、と思っていた。
どうして、そこまで思ってくれるのか。
けれど、今は「どうして」の後が違う。
どうして、そこまで自分を優先させようとしないのか。
奈那子と恭哉兄が仲違いでもしてくれれば自分にもチャンスがあるんじゃないかと思ったことは、一度や二度じゃない。
だからこそ、不思議に感じる。
こういうときに、俺にアプローチするそぶりを見せたことがないことに。
「…………俺は、伊智花を誘ってるんだけど」
最低だと思う。
けれど、思ってる以上に不機嫌な声が出て、内心やばいと思う。
けれど、伊智花は慌てて「わたし? なんで?」と、ただ驚いている。
(…………自分へ好意が移った、なんて微塵も思ってないんだろうな)
たぶん、このままじゃ何も解決しないことには気が付いている。
誤解を解けるのを待つだけじゃダメだということも。
「伊智花は、行きたくない?」
……ずるい聞き方なのはわかっている。
けど、俺と、食事に行くのが嫌なわけではないという言質を取りたかった。
「奈那子と行きたかったら、奈那子誘うよ。今は、伊智花のことで相談があるとか、いつも相談に乗ってもらってるお礼とか、いくらでも口実あるし。それでも、俺は伊智花と行きたいと思ったから、伊智花を誘ったんだけど」
誤解を生みそうなことを言ってる自覚もある。
でも、今、伊智花に奈那子に関してしてほしいことは、奈那子のことを考えなくてもいい、そこだけでもわかってもらわないといけない気がした。
「わたしでいいの?」
「うん。伊智花と行きたい」
「……なら、行くけど……2人で?」
「ペア券だし」
納得しない顔をしながら、伊智花の了承を得たことに内心ガッツポーズをしながら、俺は、続けて言った。
「伊智花には感謝してるんだ。……だから、たまには、俺にもラッキーアイテム的なことさせてよ」
なんて上から目線なんだろうかと思う。
それでも、引く気はなかった。




