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8 レイメとは


硬直して動かなくなったフェイリーンをおばさま方が引きずるように食堂へ連れて行き、背つきの椅子に座らせる。

大型のレイメがその足元に陣取って離れる気配がないので、自然とそこから距離を置く形で薬園の働き手たちがテーブルに着いた。


しばらくして意識が戻ったフェイリーンは猛然と首を振りだした。

「なんっ、なにっ、a※+Y!★@<?……っ、けっこん!?わたしが!?」

動揺の余り発音が怪しくなった彼女に、周りはあっけらかんと頷いている。

「そうよぉ」

「急です!決めてません!知りません!なぜ!?……うっ」

頭を振りすぎて具合が悪くなったらしい。

「レイメが求愛してきたはずよ?それを受け入れたら夫婦も同然でしょう」

「まぁ、この子の様子からして、レイメの事が半分しか頭に入ってないんじゃないかしら」


詳しく根気よくフェイリーンに説明したモノルによれば。


レイメは普段成人男性にのみ付き従うものだが、男性側に愛する人が出来た場合それはレイメの態度にも表れる。

ここで大事なのは、好きな人ではなく「愛する人」という点である。

愛情を持った女性に、レイメは興味のあるようなそぶりを見せたり、自ら触ってみたりするのである。


対して女性は、お友達程度と考えているなら相手のレイメに手で触れてはならない。

相手の愛情を受け取り、私も同じ気持ちでいますよ、というサインになるからである。

なので、未婚のカップルのうち女性側がレイメに触れていると「ラブラブなのね~」と理解される。


「らぶらぶ…」

「大事なのはここからよ」


レイメルディアにはリューン月という、年に一度24歳以上の未婚男女が王都に集まる月がある。

この国で成人と認められるのは男女とも25歳からで、未成年は結婚する事が出来ない。

ただし、24歳になると婚約は認められており、リューン月は結婚相手のいない者が集まる、伝統ある婚活月なのである。


「この国の婚姻率は他の国と比べて高いと言われているのよ」

「でも、私今すぐ結婚、必要ありません」

「リューン月でも相手が見つからず独身でいる人もいるの。本人の希望で結婚しないという人もいるわ。でもどちらでもない人の事はね、どこかに運命の相手がいてレイメもそれが現れるのを待っていると言われているの」

「ほら、歳の差があったりするとそもそも出会えなかったりするじゃない?歳の差婚って分かるかしら」


モノルとそのレイメが、いつものようにフェイリーンの分からない単語を解説する。


「で、運命の相手に出会えないままでいると、どちらかがが24になった時にレイメが探しに行くと言われているの」

「24の誕生日から次のリューン月が終わるまでは、運命のレイメが探しに来てくれるかもしれない、という淡い憧れが女性にはあるわね」

「うちの息子は、彼女が出来ない言い訳に運命を持ち出した事があったわ~」

馬鹿だね~、という声が一斉に上がる。

「それで年上の姉さん女房貰ったんだから、恥ずかしいったらないわよ~」

「まぁ、運命なんて待ってても行き遅れるだけだからね。みんな分かってるから、普通は良い人見つけて結婚するもんさ」

ここにきて、「うちの娘は」やら「伯父が」と話が一気に分裂する。


フェイリーンが恐る恐るといった様子で近くに座っていたマァチに話しかけた。

「おとぎ話ですよね?」

「100年に1組あるかないかだとは思うけど、実際にあるのは間違いないよ」

「どんな年上が来てしまうというのですか!」

あ、という声と共に食堂に微妙な沈黙が訪れる。

フェイリーンの場合彼女が24なので、既にレイメいる相手方は年上ということになる。


「そんなに離れてるとは限らないじゃない?」

「歳の差婚って言いました…」

「でも運命の相手なのよ?会ってみたらきっと好きになれると思うわ」

「こんなにレイメが懐いてるんだ、間違いないよ!」

「とりあえず、会ってみるだけでも良いと思うし、ね?」


まるで見合いを勧めるようなおばさまたちに、どよーんと俯いたフェイリーン。

その膝では『どうしたの?』と首をかしげたレイメが頭をすりすりと擦りつけている。


「触ってって…お願いされたんです……だから、触ってしまったんです……」


あら~、と上がる声はものすごく含みがある。

「おねだりに今から負けちゃうんじゃ、将来が心配ねぇ」

「テッサさんまで!」

騒ぎを聞きつけて食堂へ遅れてやってきた薬園の管理者であるテッサは、入口でぴたりと足を止めた。

「………」

テッサの視線の先には、フェイリーンにでれでれのレイメ。

どうしたのかと首をかしげる皆にニッコリと笑ったテッサは、「うふふ」と声をもらす。


「テ、テッサ、さん?」

「フェイリーン、今日と明日は私が許可を出すまで、宿舎から出てはダメよ。分かった?」

「わ、わかりました」

「よろしい。さあ皆は終いの支度をして。もう夕方よ!」


あらあら、と周りが腰を上げるのを追うようにフェイリーンも立ち上がる。

「テッサさん、私、食堂のお手伝いはしても良いですか?」

皆のカップを集めるフェイリーンの頭を、ぽんぽんとテッサが慰めるような手つきで叩く。


その眼はとてもとても――― 楽しそうだった。



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