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5 いつもの食堂



ある日の事、食堂へ行く途中、なにやら話声がして振り返ると小型犬のレイメを腕に抱いた衛兵――トトが、羨ましいほどレイメに懐かれていた。

『トト!愛してるわ!それから…』

「なんだよ~よしよし」

レイメと相棒の言葉は通じないのが主で、以前に会った梟のようなレイメと老人のようなタイプは稀なのだという。

トトもレイメの言葉は分からないそうだが、でれっでれのラブラブなのが態度で分かる。

(今日も仲良しだなぁ…)

彼はとてもレイメに愛されているらしく、良くああいう光景を目にするのだが、別におかしい事ではないそうで「放っておきなさい、今だけだから」と女性たちから言われている。


この薬園には長く勤めている女性の働き手が多く、平均年齢が高く伴侶や家族のレイメを伴っていることが多い。逆に若い女性は見かけない。

もしかしてこれが薬園に気安く出たり入ったりできない、という事なのだろうか、とフェイリーンは考えてみたが、訊いてみようとは思わなかった。

秘密が多いと言っていたレイメ。そこにあえて触れて取り返しのつかない事になりたくないのが本音だ。

また新しい事を一からやり直すのは自信がない。


ここでは週1日定休で休みをもらえる他に、半日ほどのお休みを3回もらえる。

ただし、1週間は10日で、3週間でひと月となる。

食事は2回、昼と夜に食堂で。朝食が必要な物は自分で用意する。

薬園の宿舎に自室があるものが4割、薬園の外に居を構えて暮らしているものが6割。

薬園への出入りを管理したり、侵入者や害獣を警戒するための衛兵はほぼ男性で、年齢はまちまちだ。


「この国の薬園の世話をするのは昔から女と決まってるのさ。まぁでも、アンタは早くレイメをもらうことだね」

レイメがいりゃアンタだって心おきなくここで働けるってもんだ、とマァチは言う。

昼食後の食堂はいつも世間話で一杯だ。その中でもマァチは特におしゃべりである。


「ココロオキナク?どういう言葉ですか?レイメは、誰がくれますか?」

「心おきなくっていうのはねぇ。安心してとか心配なくとか、とにかく問題がないってことだよ」

『こころおきなく、だよ』

モノルのレイメは時々言葉を教えてくれる。

「ああ…心、おきなく、ですね」

「そうさ。アタシがアンタくらいの年にはね、苦労が多くて…」

「フェイリーン、午後から休みでしょう。この話は長いから行きなさい」

「え、でも前も」


いいのいいの、とモノルに肩を押されるがまま、フェイリーンは食堂を出た。昼ご飯は済んでいるので問題はないのだが、マァチの話を最後まで聞けた事がないのがちょっと残念だった。

まだ聞き取れない部分があるのもそうだが、なんせ彼女の話は脱線する。おばさまだけでなくお婆様もいるので脱線ついでに周回してしまい、話が全然別の方向へ行ってしまうのはいつもの事だ。

しかも誰も止めない。

フェイリーンがいない事に気付いたマァチは目を吊り上げた。


「またいない!せっかく今日こそはリューン月の事を話してやろうと思ったのに!」

「話すったって、いまだにアンタはその話が始まってないのはどういう訳なんだい」

「これからだったんだよ!あの娘はもうすぐ24だって言うじゃないか。いまから話をしておかないといざって時に困っちまう」

「そうは言うけど、フェイリーンは無理じゃないかねぇ。なんせ異国の子だし。東の島国だったかね?」

「本人はそれどころじゃないんじゃないかしら?」


コン!と中身が空になったカップをテーブルに叩きつけてマァチは高らかに宣言した。

「リューン月はレイメ族の義務だよ!何としても参加させる!それがレイメの女ってもんさ!」

「だからフェイリーンはレイメ族じゃないんだって」

「マァチ、世話を焼くのは良いと思うけど、ほどほどにおしよ」


姐御肌のマァチは、実のところフェイリーンをこの薬園一可愛がっていると言っても過言ではない。

縦にも横にもたっぷりとした自分とは違い、小柄でおっとりとした、でも時々根喰い虫に大騒ぎする彼女を娘か孫のように思っているのだった。




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