1 ある日の薬園
レイメルディア ―――豊かな森や畑から採取される薬効のある植物から薬を生成し、輸出することが国としての主な産業であることから薬の国と呼ばれている。
元々土地の実りは多く、その地に暮らす者 ―――レイメ族の中にはそれほど商売に精を出さず自給自足で生計を立てているものも多い。
外海へ繋がる港を囲むような月の形をした国土は周辺諸国と比べればやや広いものの、その半分以上を森におおわれており王都を囲む市街地や集落もそれほど大きくない。
港、もしくは南北に置かれている関門から入る以外に、その土地を踏むことは出来ないと言われている。
そんなレイメルディアに点在する薬園は、自生する薬草とは別に手をかけなければ育ちにくい植物を栽培・管理、また各家庭でも育てられている類の薬草を量産している場所だ。
ある日ある薬園で――――
「フェイリーン!いま手元にあるだけのアカトモリをこっちへちょうだい!」
薬園に響く声に反応して一つ人影が立ちあがる。足元にある籠の中から一つを取り上げて小走りに柵の外へと向かっていくのは若い女性だ。
「足りますか?」
「充分だわ。ありがとうフェイリーン。調子はどう?」
「アカトモリ、元気です。アオトモリ、花少ない、です」
「…まぁしょうがないわね、昨日急な依頼で採らなきゃいけなくなったから。いいわ、戻って頂戴」
はい、という返事にお辞儀を加えてから身をひるがえすフェイリーンに、この薬園を任されている管理者のテッサはちょっと肩をすくめた。
それを近くで見ていたモノルが腰を叩きながら身体を伸ばす。
「まだ少し堅苦しいのねぇ、あの子」
「言葉は大分上達したと思うのにね。相変わらず不思議な子だわ」
モノルの肩に大人しく留まっていた小鳥が「トゥルル」と返事をする。それに笑ってモノルはまた目の前にある畝の手入れを再開した。
つづく。
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