新しい生活
「平坂歩です…よろしく」
編入先の高校…常世高校の2年3組で、俺は短すぎる自己紹介をした。
自分の事をダラダラと話すのも周りには迷惑だし、休み時間になれば向こうから聞いてくるだろう。
転校生なんてそんなもんだ。
休み時間になれば案の定、クラスメートが俺の周りに集まっての質問責めが待っていた。
前はどこに住んでいたのか
好きなアーティストや芸能人は誰か
趣味は何か
特技は何か
部活は何をしていたのかetc...。
思わず後退りしたくなる程の勢いで聞いてきた。
勿論、何人かの生徒とも仲良くなった。
「平坂、次音楽室だぞ」
俺に声を掛けてくるコイツ…沢口樹も、その一人だ。
生徒達で賑わう廊下を、沢口と並んで歩く。
「しかし、因果ってやつかね」
不意に沢口が呟いた言葉に、俺は訝しんだ表情を浮かべた。
「だって、この町に平坂って苗字の奴が引っ越して来たんだぜ?」
「…何が言いたいんだ?」
俺の質問に「あぁ」と言うと、沢口は少し考えた様子を見せ
「聞いたことないか?彼の世と此の世の間をなんて言うか」
「黄泉平坂って言うんだぜ?」
「…偶然だろ、馬鹿馬鹿しい」
意味深な笑みを浮かべて俺を見る沢口に呆れ、溜め息を吐いた俺は、音楽室へと足を進める。
「なんだよ、つまんねぇな…平坂って、こういう話嫌いか?」「オカルトとかは信じない…って言うか、今時信じる奴の方が少ないだろ」
俺の言葉に、沢口も納得したような表情を浮かべた。
「たしかに、この年で怪談話を信じる奴は少ないな」
でも…そう言うと、沢口は俺を見てこう続けた。
「この町って、そのテの噂とか多いんだぜ?昔から伝わってる言い伝えっつぅか」
「?」
「親がこの町の出身なら、知ってる筈だぞ…幻の古書店の噂」