始まり
「歩、着いたぞ」
軽トラを運転する親父の言葉に目を覚まし、俺は町の名前が書かれた標識を見る。
【黄泉町】
俺がこれから暮らす町で…親父とお袋の故郷。
ガキの頃に一度しか来てないけど、中心部は繁華街や商店街が栄え、町外れは昭和の下町のような住宅地になっている。
そして…俺が暮らす家があるのは、中心部と町外れのちょうど中間に位置する場所。
その辺りはニュータウン計画などの土地開発でマンションや団地が立ち並んでいる。
そんな中間部にある庭付き一戸建て…其処が俺達がこれから暮らす家だ。
家の前に軽トラが止まり、俺達は荷物を家の中に入れ始める。
「これで最後か」
日が高い内に始めていたが、最後の段ボールを家に入れる頃には、日が沈み始めていた。
俺はこの時間…黄昏刻って奴が嫌いだった。
遊び足りないのもあったし、何より…夜が来るのが怖かったってのもある。
昔は幽霊とか怪談とか信じてたしな…。
繁華街の中に沈んでいく夕日を眺めた後、俺は段ボールを抱えて家に入っていった。
新しい町
新しい生活
少しの期待と不安があるけど…
それ以上の体験がまっているなんて、その時の俺は知る由もなかった。