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人殺の王  作者: バショウ
6/7

そして小さな疑念

流暢なロシア語で現地の青年と歓談するアリシァから、すぐ脇に停まっているジープに目を移す。

夢で見たジープと全く同じ型。アリシァは何を考えているのか?

いいのか?

狙撃されても。


「終わったよ、乗って」


ドル紙幣の束を持ちかえって、満足気に帰路につく青年を見送るアリシァ。

「ほんとにこれで、行くのか?」


客観的に見ても……ボロい。走れるのかも疑問に思う。

「あえてこの車で行くのは、訳があるの。分からない?」


……相手の油断を誘うため、か?

「違う違う」


言いながらも助手席に乗り込んでいくアリシァ。

「じゃあ……狙撃手の精神を乗っ取るんですか?」


後部座席に座る斎藤が意見を出す。

うん。それなら納得できる。

だがそれにも、「少し遠すぎるかな」と、首を振るアリシァ。


「じゃあ、いったいどうするんですか?」


心底不思議そうに訊ねる斎藤。車は響の手によって既に発進し、目的地を目指している。

 今更文句を言う気は無いが、どうするつもりなのかくらいは聞いておきたい。


「私たちが車で近づくと、私が撃たれる。打たれる場所、時間。すべて分かってる。……ならその弾を斎藤くんが何とかすればいいじゃない」


「お、俺がですか!?」


「無理、でしょう」


焦る斎藤を横目に見て、助けを入れる。

斎藤の能力は、短距離の物質移動だったか?

 色々制約がついて、ろくに使えない能力だと思った記憶があるが。

「ふふ……あれから三年も経ってるのよ、秋人くん」


ああ、能力は時を経るごとに強くなる、か。

「じゃあ、いけるのか?」

「……まあ、何とかなるかもしれん」


どう考えても無理だと思うんだが、本人が良いと言うなら俺は何も言うまい。

「じゃあ頑張ってくれ……俺は寝ててもいいですか?」


 後半はアリシァに向けて言い、目を瞑る。

「うん、しばらくやることもないし。眠れるなら眠っておいたほうが良いと思うよ」

「じゃあ、失礼して」



 ……十分ほど経って気が付く。

 どうやら俺は甘かったらしい。全く眠れる気がしない。

 まず寒い。ヒーターが壊れているのかと思ったら、もともと付いていなかったのだ。

 そして振動が半端じゃない。路面の凹凸がそのまま衝撃となって体中を襲う。


「響、ちょっと優しく運転できないかな」

「じゃあ秋人さんに変わりますか?」

「いや……ごめん」



 結局眠れないまま一時間過ぎた。

「そろそろかな。斉藤くん、準備はできてる?」

「まあ、なんとか」

「弾の進入角度は約13度。向きは……あっちの方から」

 そう言ってアバウトに指を指す。大丈夫なんだろうか。

「あっちの方、すか」

「いい? 後十五秒、十四、十三……」


 辺りの景色を確認しながらカウントを数えていくアリシァ。頭の中で俺の記憶を忠実に再現しているのだろう。

 何度も思うことだが、アリシァの強みはその能力ではなく、記憶力、そして演算能力ではないだろうか。

 

 もし俺が他人の思考を読み取れる能力を得たとしても、すぐに脳がパンクしてしまい、有効に使いきれないのではないか、と思う。

 アリシァが覚醒しなければ。

 歴史に名を残すほどの学者となっていたのではないか。

 勝手な思い込みだが、つくづく惜しい話だ。


「四、三、二、一。……うん、お疲れ」

 アリシァが一、と口に出した瞬間、一瞬のブラックアウトの後、ジープ自体が左方向に転移した。

 バキ、と、サイドミラーが吹き飛び、はるか後方に置き去りにされていったのがその証拠だ。


「でもこの後はどうするんですか? ……また撃たれたら厳しいですよ」

 額に汗を浮かべ、斉藤が言う。

「ふふ、もう私にとっての境界線は越えたよ」

 境界線?

「ここまで近づけば……屋外に出てる彼の思考は、読める」


 そうか。そういう意味か。

 ……まてよ。ということは、相手はアリシァの能力の限界を知っていた、という事になるんじゃないか?


 ミーミルの能力は、予知だったな。

 ……何故だ?

 手下にESP系の能力者がいるということか?

 それとも、何かしらの情報源を持っているということなのか?


「斉藤くん、後三秒、二秒、一。……うん」

 再び視界が闇に染まり、転移したことを悟る。

 これを到着まで続ける気か?


 俺の疑念を悟ったかのようなタイミングでアリシァが振り向く。いや、事実悟ったのだろう。

「よし、終わり。彼も狙撃は諦めたみたいね、今中に戻っていったわ」

「そ、そうですかあ……勘弁してくださいよ、もう」

 大きくため息を吐く斉藤。心なしか顔色も悪い。


「で、何か分かりましたか?」

「まあ、一応ね。今狙撃したのはユーリって奴ね。能力は透視、と遠見。視力は十五くらいあるみたい。人工衛星も目視できるみたいだから」

「透視、ですか」

 それはまた、随分と……。

「う、うん。私も見られちゃった。……響も」

「……そう、ですか」

 なんともコメントしにくい能力だな。

「他には何かないですか? 雪見とか、もう一人の情報とか」


「あ、ええ。ごめんなさいね、雪見さんのことは読み取れなかった。

 もう一人はイリーナっていって、女性ね。この子に能力は無いみたい。ユーリくんは彼女のことを嫌ってるみたいだけど、理由までは判らなかった。なんでかな?」


 俺に聞かれても知りませんよ。

 ……しかし、有益な情報だったか。少なくとも能力者は二人だけ、という事になるのだから。実質気をつけるのはユーリとミーミルだけ、といったところだろう。



 唯一、気になることは。

 ミーミルの予知。その精度だ。鉛の壁に囲まれていながらも使うことの出来る能力。

 どれだけ強い能力なのか。


 ミーミルと相対する未来を思い浮かべ、俺はぶるりと身を震わせた。



ユーリ・アメデオ:22歳。能力は‘透視‘と‘遠見‘。視力は計ることが出来ないほど良い。組み合わせれば地球の裏側まで覗く事が出来る……わけではない。当人にとって歯がゆい事に、透視の限界は二キロ程度。

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