第5話‐モチベーション
飛行機を降りたところで問題が発覚した。
アリシァは樺太島を日本だと思っていたのだった。
「じゃあ密入国になるね」
小首を傾げ、ふふ、と小さく笑うアリシァ。
冗談だ、と思っていた。
が。実際は、稚内まで車を飛ばし、そのまま港の鍵付きの漁船を奪い。 刻々と迫る領海侵犯に脅える俺、というこの状況が出来上がってしまったわけだ。
「あれ? 怖がってるの?」
甲板に座り込み、平然とした顔で聞いてくるアリシァ。
「普通は怖がるもんだと思うよ」
「……何で?」
「理由が必要ですか?」
「……?」
噛み合ってない会話にいらいらする。
「ああもう! さくっと‘読んで’みたらどうです?」
「……うん? だって、私は、『千里眼』だよ? 相手が人間なら、海軍空軍敵はなし、なんだけど……」
「……」
いや、まあそういえば、そうでしたけど。レーダーとか。
「そのレーダーを確認するのも人間なのよ」
「……まあ」
「ほら、問題ないじゃない」
釈然としない結論に、せめて反撃しようとする。
「でも、犯罪ですよ? この船を盗んだことも。能力者が罪を犯したら、誰が裁くんです?」
「もちろん、必要悪」
本気で言っているわけではない、と察したのか、ただ一言で答え、舵を握る響のもとへ歩いていった。
脱力し。
だらりと足を投げ出す。
はぁ。やっぱ能力者って、人とは違った存在なのかな。 人よりも、優れた者。 神に、選ばれた者。 選民思想。 そんな言葉が浮かぶ。 それは、『能力』という根拠があるからこそ、とても危険で。 とても甘い、誘惑。
「ふん、馬鹿げてる」
能力者はあくまでも少数派。
一般人に迎合していかないと生きていけない。
しかし、その宿命に嫌気がさす能力者が、今後も出ないと言い切れるだろうか。
もし、もしも仮に、その『彼』が人類を制しよう、という考えに至った時。
『彼』によって、世界中に能力者の存在が明かされてしまった時。
俺は、人間側と『彼』の側、いったいどちらに味方すればいいのだろう……。
「もうすぐです」
呆、と暗い海を眺めていた俺に、響が近づいてきた。
「ん、ああ」
未だ考え事の半ばにあった俺は生返事で答える。
「……狙撃が心配ですか」
何を誤解したか、見当違いなことを聞いてくる。
「先ほど見た、夢。それに影待さんのこと」
「ああ……なるほど」
いぶかしげな目を向けてくる響。
「いや、まあ心配だけどね。雪見の方は心配しても仕方がないだろう? 夢、の方は全く問題ないよ」
「そうですか?」
「ああ。相手にスナイパーがいるってことがわかっているんだ。対抗策は俺程度にでも5、6個思い浮かぶ。そこらは響に任せるよ……得意だろう?」
いつか見た、傷だらけの拳銃を思い出しながら答える。
「……では、準備はしておいて下さい」
不安定な船の上を、よろめきもせずに後部へ向かう響。
「相も変わらず、無愛想だなぁ」
準備なんてすることなんて、何も無いのに。
大方、心配になって見に来た、とっいたところだろう。
彼女なりの思いやり、なのかな?
「……よし」
そう、これは雪見を取り返す仕事……作戦だ。
肝心の俺が呆けてちゃ、いけない。
小さく気合を入れ、俺も船室に向かった。
さすがに入試が近いので、ちょいとお休みします。飽きずに読んでくれてる方(いるかな?いるよね)、また三月くらいに再開したいと思います。中途半端な所ですみませんが忘れないでいてくれると嬉しいです。では。2/13