第四話‐幻夢の不安
夢、か。
白い、白い視界の中央を、一本の線が走っている。
遥か遠くに地平線、その向こうには水平線が見える――。
……何か妙だと思ったら、今の俺は、上空から地上を俯瞰しているらしい。
幽体、とはこんな感じか?
線に見えたのはタイヤの走行後だった。
視点をジープに移す。
助手席に乗っているのはアリシァ、運転が響。
後ろには『俺』と斎藤が並んで座っている。
何やら真剣な顔で話し合っているが、声――というか音が聞こえない。
今回の予知夢は、サイレントのようだ。
さて、と気合いを入れ、視点を上空に持っていく。
なんとなく二千メートル程上がり周囲を見渡す。
「ふむ。樺太、かな?」
現実の俺はまだ飛行機の中のハズなので、紛れもなくこれから起こる未来、が見れるのだろう。
――この能力とつきあって三年。
一つ分かったことがある。
それは、『俺にとって最悪な状況』しか見ることができない、ということ。
例えば、目の前で知らないのお姉さんが列車に飛び込んだり(三日後、ナンパして悩みを聞いてあげて解決)、寝ているとき地震で倒れてきた本棚につぶされて肺を押しつぶしたり。
救いといえば、努力次第で改編できる、ということくらいなのだが……やはり見ていて気分の良いものではない。
今回は何が起こるのか。
憂欝になるのを感じながら、視点をジープの中に移す。
五分くらい走り続けたとこらか、ビシ、といった音と共に、フロントガラスが真っ白になり、助手席が血で染まった。
全身に鳥肌が立つ。狙撃!?
吐き気を抑え観察する。
だくだくと血が流れるアリシァの額には、親指程の孔が空いていた。
弾は後頭部を貫通し、後部座席の中に埋まっているようだ。
そこまで確認した後で、犯人を探す。
角度から見て、正面。物理的な距離など今の俺には零に等しい。
人影どころか道路も無い平地をかっ飛ばす。
一キロ、二キロ、三、四。
……やっと見つけた。
平地にぽつん、と立つビルの屋上でライフルを片付けている男。
しかし、四キロだ?
銃弾ってそんなに飛んだか? ゴルゴでも無理だろー。
疑問に思いつつ顔を確認。
金髪碧眼、鼻が高い。
まさしくゲルマン系の顔つき。
年は二十と少し。
額に、アクセサリーか。いや、金属が、皮膚に埋まっている?
そこで、意識がぼやける。
まだ、まだダメだ……、く、つ、つかえねぇ力だちきしょ、う!
「……つかえねぇ!」
覚醒と同時に叫んでしまったようだ。
隣で寝てる斎藤はいいが、ぎょっとした表情のアリシァや、訝しげな目を向ける響には悪かったと思う。
他の客からも視線を感じるが、まぁ所詮は他人事、そう気にはしないだろう。
説明しようか、と一瞬考えたが、アリシァにはそんなことが不要だったことを思い出した。
アリシァに向け、トン、と額を指差す。
うなずいたのを見て、俺は再びシートに横になった。
『どうしました? 夢でもみたんですか?』
夢、というところにアクセントをつけ、子供でも相手にしているような調子になっている。
からかってる暇はないと思うけどね……。
『じゃあ、何か【視】えたんですか?』
どうぞご自由に――っと、少し心の準備が必要だよ?
『え、あなたが?』
何でだ。あんただよ。早く見ろ。そして考えてくれ。
『では、失礼します……うわぁ』
みちみちと圧されるような、ぴりぴりと痺れるような感触。
わずかなこの違和感にも、もう慣れてしまったが、やはり気分は良くない。
真剣な表情になったアリシァが響に話し掛けるのを見て、俺はため息をつく。
「ふぅ」
後はアリシァと響がどうにでも考えてくれるだろぅ。
無意識にでも能力を使ったせいか体中がだるい。
眠ってはいたが、純粋な『睡眠』をとってたわけじゃないからな……。
くあぁ、とあくびをし、飛行機の中、再び俺は眠りに就いた。
読んでる人が少ないのか、読者数の延びがほとんどなくて悲しい…。つまんなかったら見た後、そう感想に(できるだけソフトに)書いてくれると嬉しいかも。具体的に理由とかあると真剣にヨミマスんで。