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母君が亡くなられたのは、まだ物心がつく前のことだった。

余りに幼く、母君と言っても優しげな人だったと朧にしか思い出せないのも、無理からぬ事なのかもしれない。

だが、その母君の喪も明けてはじめて宮中に戻った時の事は今でも鮮明に覚えている。

久方ぶりの後宮は、幼子にはどこか空恐ろしい空気に満ちていた。

しっかりと降ろされた御簾のそこここから突き刺さる、冷たい視線。

一挙手、一投足に至るまで凝視される理由が何一つわからず、幼子は御付の女房に促されるまま父君の帝の私室へと入っていった。

「おひさしゅうございます、ちちうえ。おあいしとうございました」

たどたどしい舌遣いでつっかえつっかえ挨拶した幼子の愛らしさに、帝ははらりと涙をこぼされた。

それに驚き慌てて傍に駆け寄り、涙をぬぐおうとする幼子をたまらず強い力でぎゅっと抱きしめて。

「済まぬ、一の宮。私にもっと力があれば……」

――語尾まで、音になることは無かった。

嗚咽交じりの悲痛なその声音は、恐らくは一生、彼の心に焼き付いて離れないことだろう。



無垢な幼子は、その日初めて、悲しいということを知った。



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