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8 「元勇者、ドワーフ族と修繕作業」

総合評価17000PT、お気に入り件数6200件を超えました。

本当にどうもありがとうございます! 嬉しいです!

読んでくださっている皆様に、心から感謝しています!






「一成様、今日はお暇ですか?」


 朝食後、メイドであるクラリッサが入れてくれた紅茶を飲んでいると尋ねられた。


「いや、とりあえずリオーネが用意してくれた本を読もうかと思ったんだけど……何か用事でも?」


 良く考えれば、魔王リオーネの親族である彼女もまた人間の血を継いでいるのだろうか。そんなことを考えながら、一成は返事をする。


「はい。ドワーフの頭領殿が魔王城まで来て欲しいと言っていましたので」

「魔王城まで?」


 はい、と頷くクラリッサ。


「断る理由はないけど……どうして俺がドワーフの頭領に、しかも魔王城に呼ばれるんだ?」


 ドワーフといえば、小柄だがたくましい体格をしていて、鍛冶をはじめとした物を造るということに長けている種族である。

 同時に、そのたくましい体格であるからこそ、人間の倍以上の力を持っている。武器を持たせれば頼もしい戦士でもある。

 だが、彼等は戦士というよりも、職人という言葉が似合う種族である。


「え、えっとですね……その、なんと言いましょうか」


 クラリッサは何か言い辛いのか、言葉を選んでいる。

 それに対して一成は首を傾げる。

 ドワーフの頭領には先日会っている。黒狼との意思疎通を可能にする道具を作ってもらったのだ。しかも、ありがたいことにリオーネやクラリッサ、そして一成が知り合った子供たちの分までも。

 そのことに凄く感謝した一成はドワーフの頭領に、それこそ土下座しそうな勢いで礼を言った。

 頭領は人間である一成に対してぶっきらぼうな態度であったが、礼を言われた時に照れているのがバレバレであった。

 そんな頭領が自分に何のようだろう、と一成は思う。それもクラリッサが言いづらそうにするほどの用事とは?


「一成様が壊した、魔王城の修繕を手伝いに来るようにと……」

「……はい?」


 思わず、えー、と首を傾げてしまう。

 どうして自分が? と、思うと同時に壊した自覚はあるので文句が言えないのも事実。

 しかし、敵である自分に魔王城という魔王の住まいを修繕させるのはどうなのか?


「あ、リオーネ様は魔王城に住んでいるわけではないですよ。住まいはここです」


 クラリッサに聞いてみると、そんな答えが返ってきた。


「……ここ、魔王の家なのかよ」


 今更だが、そんなことは知らなかった。てっきりリオーネは魔王城に住んでいるものとばかり思っていた。

 だけど、あれ? それなら魔王城は?

 クラリッサは一成が疑問符を浮かべているのに気付いたのか、尋ねる前に教えてくれた。


「実は、魔王城は重要文化財なのです。ですが、一成様たちとの戦いを想定して、迎え撃ったのは魔王城です。いくら住まいがここだといっても、ここで迎え撃てば大変なことになりますからね。それに比べれば、魔王城はリオーネ様が本気を出してもそう簡単に全壊することがないほど強固に造られています。だからこそ、リオーネ様は魔王として一成様を魔王城にて迎えたのです」


 苦笑しながら教えてくれるクラリッサに、なるほどと納得した。

 確かに、ここが住まい――というのは正直微妙な感じだが、町の中で戦えば怪我人はもちろん、死者も出るだろう。

 もっとも一成がこのイスルギに来た時には避難はとっくに終わっていて、兵士しかいなかったが、どこへ避難しているのか把握できているわけがない。今思えば、導かれるように魔王城にて魔王と相対したのだ。


「しょうがねえか、俺が壊したんだし。でも、俺が魔王城に入って平気なの?」

「それは大丈夫です。言い方は悪いですが、一成様は害がないという判断をリオーネ様がされていますので。あと、申し訳ありませんが、監視として黒騎士殿を同行させていただきます」

「……しかたないよな、了解。じゃあ、さっそく行ってくるよ」


 部屋に戻って着替えるか、と「ごちそうさま」と言って席を立つと、クラリッサに呼び止められる。


「うん?」

「こちらを着ていってください。汚れても良いようにと、頭領殿から預かっています」


 差し出された服を受け取り、広げてみると……ツナギだった。しかも、微妙に袖や裾が短い。


「あの、サイズが小さくないですか?」

「ドワーフ族は小柄なので……すみません」

「いや、謝ってもらいたいわけじゃなくて、これを着ろと?」

「はい、頭領殿から来るなら必ず着てくるようにと言われていまして」


 はぁ、と溜息を吐いて諦めた。

 そして数分後……


「なんか、街にいたよな……こんな格好でチャラチャラしている奴」


 それが第一の感想だった。

 長身とまではいかないが、一八〇センチに近い身長の一成にとって、ドワーフ族のツナギは袖も裾も七部丈だった。

 微妙に悔しいのが動きやすいということだ。


「黒騎士さんは? 現地集合?」

「いえ、黒騎士殿はお待ちですよ。すでにお外でお待ちです」

「早いなっ……じゃあ、待たせるのも悪いし行って来るよ」

「はい、あとこれはお弁当とタオルです。ではいってらっしゃいませ」


 大きな包みを受け取ると、想像以上の重さだった。

 何人前だ? そんなことを思いながら、一成は「ありがとう」と礼を言って、リオーネ宅を出て行った。


「行ったか?」

「ええ、正直行くことを拒否されるかと思いましたが、あまり抵抗なく受け入れてくださったのでホッとしています。それに、最近は元気になってきたようで一安心ですね」


 一成が出て行ったと同時に現れたリオーネに驚くことなく、クラリッサは返事をする。

 だが――


「そうかな? 私にはただの空元気に見えるけど?」


 心配そうな顔をしてリオーネは一成の出て行ったドアを見つめている。


「精神的に立ち直っているわけはないんだろうけど、周りから同情の目で見られるのは嫌なんだろうね。そして、平気なふりをしていないと、無理にでも笑って前に進もうとしないといけないってわかっているんだよ」


 それが良いのか悪いのかは後になってみないとわからないけれどね、と彼女は言う。

 そしてクラリッサは気付く、リオーネが不安を隠しきれない表情をしていることに。


「そういえば、報告は聞いた。一成の仲間が集まったみたいだね」


 話題を変えるようにリオーネがクラリッサに問う。


「はい。エルフ族のシェイナリウス・ウォーカー、レイン・ウォーカー姉妹にストラトス・アディール、キーア・スリーズ、カーティア・ドレスデンの五名です」

「カーティア・ドレスデンは見てはいないけれど、確か黒騎士と相打ったという騎士だったね」

「はい、かなりの使い手です」

「そして、シェイナリウス・ウォーカーか……こちらはクラリッサが相手をしたんだっけね」


 リオーネの言葉に、クラリッサは肩を落として返事をする。


「申し訳ありません。まさかあそこまで強いとは……」

「別に負けたことをどうこう言っているわけじゃないよ」


 苦笑するリオーネだが、本人は悔しいのだろう、クラリッサは「二度目はありません」と意気込んでいる。

 だが、二度目があっては困る。それが魔王であるリオーネの考えだ。

 すでに彼女は帝国の民として迎えたのだ。そんな彼女とクラリッサを戦わせるわけには魔王として、個人としても良いとは思わない。


「正直なところを言うと、私はシェイナリウス・ウォーカーを相手にすると思っていたよ。だけど、彼女は一成の願いによって私と戦わずにクラリッサと戦った」


 リオーネとしてみれば、シェイナリウスに魔術で勝てるとは思っていない。シェイナリウス・ウォーカーという存在は魔王である自分から見ても規格外だと思う。

 だが、総合的な面で見れば勝てるだろう。

 必ずと言えないが……総合的に勝っていても、それを補うほどの魔術の才能と経験を持っているのがシェイナリウス・ウォーカーである。


「彼女はあくまでも一成のことを思って行動を共にしたのだと、私は彼女から直接聞いた。異種族と人間の戦いなどよりも、異邦人であり、人間として面白い一成が気になってしょうがなかったという感じだね。可愛い弟から目を離せない姉と言えばわかりやすいかな?」

「はぁ……そんな理由で今回の戦いに参加したのは、シェイナリウス・ウォーカーの噂通りですね」


 そう、実は魔王リオーネ・シュメールはシェイナリウスを始めとする、サンディアル王国と友好関係を結んでいたエルフ族と既に会っていた。

 そして、一成の生存も伝えてある。


 だが――面会は拒否した。


「今頃、ストラトス・アディール他二名も喜んで良いのか、怒って良いのか複雑でしょうね……」


 やや同情するようにクラリッサが呟く。

 リオーネはシェイナリウスたち同様に、ストラトスたちにも面会はさせるつもりはない。そのことを伝えるようにと指示はもう既に出している。


「どうして一成様と仲間を会わせてさしあげないのですか? 少なくとも、彼等なら一成様のためにもなると思いますが……」

「うん、そうだね。きっと一成を癒してくれると思う」


 だけど、と彼女は続ける。


「これは私のわがままなんだ。仲間の支えで立ち直るのも良いと思う、だけどそれだと仲間に依存してしまう可能性だってある。それは駄目だ。そして、私は一成に色々な種族と人と出会って少しずつでいいから傷を癒してほしいと思っているんだ。それが一成のためかと聞かれれば、正直わからない。もしかしたら、仲間との再会が一番良いのかもしれない」


 リオーネは唇をかみ締める。

 決して口にはしない。いや、できない。

 だけど、もしかすると――ということを思ってしまう。想像してしまう。可能性はゼロに等しいのに。

 もし、一成がまた仲間に裏切られたら?

 もし、一成が仲間と再会した結果、また戦うことになってしまったら?

 そう考えると怖くてしかたがないのだ。


「私はまだ、一成と仲間たちを会わせたくはない」

「……はい、魔王様の御心のままに」


 自身を攻めるように、わがままだと言う主に、クラリッサは見守るように返事をするのだった。







「こんのぉ、下手くそがっ!」


 まるで砲撃音のような大声が一成に向かって放たれた。


「っー……この野郎、馬鹿みたいな大声出しやがって」

「聞こえてるぞ、小僧! ったく、すこしばかりワシらよりも手足が長くてスリムだからって調子にのるんじゃねえ!」

「それって、関係なくないっ?」


 魔王城の修繕に借り出された一成は、帝国に住まうドワーフ族の元締めである頭領こと、ギンガムル・オックスノックスの監督の下で怒鳴られながら働いていた。

 ギンガムルはドワーフ族であるゆえに小柄だが、引き締まった体つきに、茶色い髪を短めにしていて、人間で言えば四〇近い年齢に感じるが、美丈夫と言ってもなんら問題のない容姿をしている。

 彼もまた作業用のツナギと革靴、皮手袋を装備して、崩れた壁に粘土を塗り、整えられた石を積んでいく。

 経験故だろう、作業は素早く、それでいて正確で丁寧だ。


「くそっ、俺だってしっかりやってるだろう……なぁ、黒騎士さん?」

「……一生懸命やっていることは認めるが、私から見ても微妙だと思うぞ」

「……」

「お前の国ではこういった仕事はないのか?」

「いや、ないわけじゃないけど、専門の人以外はあまり縁はないよ。こっちではそうでもないみたいだけど」

「そうだな、お前の国がどのような国か知らないが、少なくとも帝国では子供も手伝える者は手伝うこともある。城壁の修繕や、種族によって家も違うからこそお互いに手伝えることは自然と手伝っているんだ」


 そうしている内に、自然と子供の時から覚えていくものだと黒騎士は言う。

 とはいえ、一成にとって、まったく経験のないことをいきなりやれというのはなかなか難しい話であった。

 それに比べて黒騎士は、鎧兜に身を包み、篭手までしているというに一成よりも仕事はできている。ある意味、器用過ぎるのかもしれない。


「ったく、小僧! お前さんは材料を運べ!」

「あいよっ!」


 こうなりればヤケクソだと言わんばかりに、ギンガムルに負けない大きな声で返事をすると言われたとおりに粘土の入った袋や石を運び続ける。

 もちろん、魔力による身体能力向上は忘れない。

 そして、あっという間に時間は過ぎていった。


「づがれだ……」


 ドワーフ族に混じって昼休憩を取っている一成であるが、疲労困憊で地面に大の字になって寝転がっていた。

 いくら魔力によって身体能力が上がっても疲れるものは疲れる。知っていたことだが、こう改めて知らされるとは思わなかったと心底思う。

 このまま寝ていたいが、せっかくクラリッサが持たせてくれた弁当を食べないわけにはいかないと、フラフラと包みを開ける。


「……わかっていたけど、中身多過ぎです」


 何人前だよ、と突っ込みを入れる気力もわかない。

 こちらの世界に米があって、おにぎりもあることも知ってはいたが、二十個は多過ぎだろう?

 それに比例しておかずも多いことなんの……。

 きっと一人前ではなく、他の人と食べろという意味なんだろうけど……。


「皆さん、お弁当持ってきてますよ……しかも、もっと大きいお弁当箱で……」


 一成は知らないが、ドワーフは良く食べる。

 良く食べて、良く働き、それゆえに強靭な肉体を持つのだ。


「そういえば、黒騎士さんは?」


 きっと黒騎士の分も含まれているだろうと思って声を掛けようとしたが、近くに黒騎士はいなかった。

 どこに行ったんだ?

 そう思った時、声を掛けられた。


「おう、小僧。材料運びご苦労だったな。修繕は下手くそだが、材料運びは文句なしだ。なんだ、魔力による身体能力の向上だっけか? なかなか便利じゃねえか」


 そう言って美丈夫な容姿がもったいないほど豪快に笑うギンガムル。

 何か言い返そうかと思ったが、体力の無駄遣いはしたくなかったのでやめた。

 すると、ギンガムルは驚くようなことを言う。


「ったく、そんな少ねえ弁当だから体力持たねえんだよ」

「……」


 そして、さらに驚くことは続く。


「何だ、食わないのか? じゃあ、少しもらっていいか? 最近、ワシの嫁は握り飯を三十個しか作ってくれん……正直足りんのだ」

「ど、どうぞ……」

「おお、悪いな!」


 と、嬉しそうにおにぎりとおかずを頬張るギンガムルに、帝国の食糧について不安になってしまう一成だった。

 ギンガムルは地面に腰を下ろしてペロリと三個のおにぎりを食べてしまうと、未だ疲労に負けて食べようとしていない一成に呆れたように声を掛ける。


「早くお前さんも食え、せっかくクラリッサの嬢ちゃんがこしらえてくれた弁当だろ?」

「よく……わかったっすね?」


 いままでとは違った意味で驚いた一成に、ギンガムルは笑みを浮かべて答える。


「ワシは結構長く生きとるからの。それこそ、魔王の嬢ちゃんが小さい頃に遊んでやったこともあるぞ?」


 異種族が長生きだとは知っていたけど……一体、いくつだアンタらは?

 さすがにリオーネやクラリッサには女性なので年齢を聞くのはどうかと思ったが、この男になら聞いても良いかなと思えてしまう。


「クラリッサの嬢ちゃんは魔王の嬢ちゃんよりも年上でな。良く遊び相手になっていたワシや他の奴らに握り飯を持ってきてくれたんだ、忘れられん思い出の味ってやつか?」


 懐かしそうな笑みを浮かべてギンガムルは笑う。

 そんなドワーフ族の頭領が一成は少しだけ羨ましかった。


「さてと、昼休憩が終わったらワシについて来い。渡したい物がある」

「渡したい物?」

「ああ、まぁ、それは後でのお楽しみだな。とりあえず今は、ほれ。さっさと食って体力回復!」


 そう簡単にしねーよ、と突っ込みたかったけれどドワーフ族は食えばするのかなと思ったのでやめた。

 というか、大量に食べているのに、ただ腹を満たしているだけだったら微妙だと思ったから、その辺りに突っ込みを入れたくなかったのが正直なところだった。

 よろよろと地面に座りなおすと、一成もおにぎりを食べ始める。

 ここ何日か、毎日朝昼晩と食事を世話してもらっているが、このお弁当も美味しかった。


「美味いな」

「だろう、昔っから嬢ちゃんは料理が美味かったんだよ」


 そしてほとんどギンガムルが弁当を食べる形となって昼休憩は終わった。

 ギンガムルは仲間に仕事の指示をてきぱきと出すと、一成について来いと言う。

 行き先は、と尋ねると。


「工房だ」


 彼は子供みたいな笑みを浮かべてみせた。






遅くなりましたが最新話お届けします。

ご感想のお返事も遅れてしまったこと、申し訳ありません。


今回はドワーフ族の登場です。


ご意見、ご感想、ご評価を頂けると本当に嬉しいです。どうぞよろしくお願いします!

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