3 「初代魔王」
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ストラトス・アディールとキーア・スリーズが、エルフのウォーカー姉妹が姿を消してから二週間が経った。
アンナ・サンディアルは、順風満帆に進むと思っていたことの一部が思い通りになっていないことに、強い苛立ちを覚え始めていた。
「どうしてストラトス君とキーア君が保護できないのかしら? ちゃんと私の名前は出しているの?」
はい、と返事をする部下に、ますます訳がわからないという顔をする。
そんな彼女に、部下は言い辛そうに言葉を続ける。
「アンナ様の命令であるなら、その……なお更抵抗すると言って戦闘にまでなってしまいました。英雄である二人と戦うなど、本当に申し訳ございません」
「謝る必要はありません。無抵抗にやられてしまうわけもいかないでしょう。それにしても、私の名前を出すとなお更抵抗するなんて、誰かに何かを吹き込まれたのかしら?」
「もしかすると、エルフの姉妹になにか言われたのでしょうか?」
「そうね、その可能性も高いですね。これだから異種族は信用できませんね」
アンナは不快感を隠そうとはしない。
いや、する必要がないのだ。部下も同じように、エルフに対して不快感を抱いているのだから。
「エルフの隠れ里はどうでしたか? 先日、軍を送ったと聞きましたが?」
「はい、残念ながら、既に隠れ里に誰一人おりませんでした。国王様宛に手紙が一通だけ残されている以外にはなにも、と聞いております」
「手紙?」
「はい、私はそう聞きました」
「そうですか、わかりました。ご報告どうもありがとうございました」
花の咲いたような笑みで兵士を労うと、兵士は顔を赤くして必要以上に丁寧に一礼すると、慌てたように部屋から出て行く。
その様子を微笑ましく眺めるアンナであったが、兵士の足音が遠ざかると、ふいに浮かんでいた笑みを消した。
「どうしてかしら? 上手くいっているはずなのに、いいえ、上手くいっているのに。どうして、こう些細な所で思い通りにならないのかしら? お父様への手紙? そんな話は私は聞いていませんよ、一体内容は?」
部下の言葉ではないが、もしかしたら本当にウォーカー姉妹に何かを吹き込まれたのかもしれないと思ってしまう。
「やはり「勇者様」と一緒に殺しておけばよかったかしら?」
そう思い返して、首を横に振るう。
いや、それは不可能だった。
「魔王」を殺すためだけに執念を掛けて開発した魔術の発動で、あの時のアンナには既に戦うだけの魔力は何も残されていなかった。
閉じ込めた者を確実に殺すことだけを考えて考え抜いた魔術だ。その魔術には大量の魔力の消費が難点として残されている。まだまだ改良が必要だ。それに、魔術の発動までに時間が掛かる。詠唱はいらない、道具も要らない。だが、時間がかかるのだ。
そのもう一つの難点は「勇者」という囮で解決できた。
もし、魔力がまだ残っていて同じ魔術ができるとしてもエルフの姉妹を殺すには囮がいなかったのだ。それ以上に、エルフが二人、しかも片方は大陸でも上から数えた方が早い魔術の使い手である。
魔術が破られてしまう可能性が大きかった。
それを考慮して、「魔王」ですら「勇者」と二日も戦わせて疲弊したところでようやくと思ったのだから。
「やはり問題点は多いですね」
思わずため息を吐いてしまう。
だが、仮にエルフの姉妹をあそこで殺せることが可能であっても、それはしなかっただろうと思う。何故なら、それではエルフが二人死んだという事実しか残らない。
裏切りにあった、実は帝国側だったと後から言ったとしても、どうも決め手に掛けてしまう。
それならば、英雄として帰ってきた自分が、国を民を、エルフは危険であると誘導した方が効果的なのだ。
自実、それは上手くいっている。
「エルフに関しては問題はないはず……だけど、やはり手紙が気になりますね」
首を傾げるが、それだけで解決するとはアンナ自身思ってはいない。
そうなると、直接父に問うしかないだろう。
決めれば行動は早いほうが良い。
そう思って立ち上がり、ふと笑みを浮かべる。
「場合によってはストラトス君とキーアちゃんにお仕置きをしないとけないのかしら? それとも……いいえ、それはまだ決断するには早いわね。少し、疲れが溜まっているのかしら、どうも不快感がしますね」
きっと誰が彼女を見ても、決して不快感がするようには見えないだろう。
可愛らしく、優しげな笑みを浮かべ、まさに聖女という名の通りなのだから。
アンナ・サンディアルは思う。
私は聖女であると、英雄であると、そして将来の王であると。
そんな自分が顔を曇らせていたら、民は不安になる。それは上に立つものとして駄目だと思っている。それが辛いと感じたことはない。
「だって、本当に楽しいのですもの」
フフフ、と彼女は笑う。
可憐に花のように、優しく聖女のように。
彼女は今日も楽しく、幸せに生きている。
「くそっ! また追っ手かよ、最近ドンドン手荒になってきたぞ!」
赤髪の少年、ストラトス・アディールが剣を振るい、サンディアル王国の兵士の剣を受け止める。
数は五人。
多くはないが、少なくもない。
正直、倒すことはできないだろう。
ストラトスは、一四歳というまだ子供である。そんな子供が実戦を経験しているとはいえ、大人の兵士相手に、それも五人を相手に勝てるほど世の中は甘くはない。
だが、彼の後ろには頼もしい仲間がいる。
「ストラトス、行くよ!」
「おうっ!」
横へ飛びのくと、背後から雷が走る。雷の攻撃魔術だ。
轟音と共に、雷は五人の兵士を巻き込んでいく。
単純だが、殺傷能力の高い攻撃魔術だ。
雷撃に吹き飛ばされ、地面に倒れる兵士たち。
意識を失っているのを確認すると、ストラトスは剣を柄に収めて大きく息を吐く。
「ふう……これで何度目だ? 最初は話しかけてきてたのに、最近じゃあいきなり切りかかってくるぞ。案外、俺たちもシェイナリウス様たちみたいに悪い噂でもされているかもよ?」
「別にどうでもいいよ」
素っ気ないキーア・スリーズの返事に、それもそうかと思う。
どうせもう、サンディアル王国に戻るつもりはないのだから。どうとでも、好きなように言えばいいと思う。
「そういえば、そろそろよね。「あの人」がいる街って」
「ああ、ようやくたどり着いたな。サンディアル王国国境の街、サイルアだ」
長かった、とストラトスは思う。
ようやく国境だ。これで大陸北部へ入れる。
「でも、大丈夫かな? あの人は味方をしてくれると思う?」
「多分、大丈夫だとは思う。真実を言えば、信じてくれるさ」
「それで信じてもらえなければ?」
「逃げる!」
即答するストラトスに、キーアは一人ため息を吐く。
一つ年下の少年の頭の中は単純のようだ。だけど、それが羨ましい。
そんなことを思いながら、気絶している兵士を放って街へ向かうキーアだった。
「着いたー! とりあえず、手配書なんかは張られてないみたいだな。住民も俺たちを見ても特に変な反応もないし」
街へ着いてすぐ、住民からの視線を確認し、目立つ所に設置されているボードに自分たちの手配書などがないか確認をする。
「そうね、ちょっとホッとしたかな。いきなり住民全員が襲い掛かってきたら、さすがに逃げるのも難しいだろうしね」
それで、と彼女は続ける。
「それで、あの人はどこにいるの?」
「ええっと、確か……街のはずれにある教会にいるらしいんだけど、どこだろう?」
そういえば、知らないな……と、呟くストラトスに、キーアは引きつった顔をする。
どうやら帝国まで行くには自分がしっかりしないといけない、と心底思うのだった。
そんな時だった。
「ストラトス・アディール? キーア・スリーズ?」
突然、名前を呼ばれて振り返ると、一人の女性が立っていた。
凛とした金髪の女性だった。背筋がピンと伸びていて、女性にしては高い背丈が更に高く見える。
月と剣の紋章を刺繍された、紺色の修道服に身を包む彼女は月の女神アルテの信仰者とわかる。
そんな修道服に不釣合いな剣帯と剣を腰に下げている金髪の女性こそ、二人の探し人だった。
「どうして、二人がここに?」
「カーティア様!」
ストラトスが大きな声を出す。
金髪の女性、カーティア・ドレスデンは二人を見つけ、驚いた顔をしている。
「良かった、教会がわからなかったからどうしようかと思っていたんですよ! お久しぶりです!」
「お久しぶりです、カーティア様」
「ああ、久しぶりだな、二人とも。元気にしていたか?」
最初は驚いた顔をしていたカーティアだが、すぐに柔らかい笑みを浮かべると二人を抱きしめた。
「本当に、カーティア様は教会で生活しているんですね」
「ああ、あの馬鹿者が死んだと聞いてな……正直ショックだったが、あの馬鹿が安らげるようにと毎日祈らせて頂いている」
カーティア・ドレスデンはサンディアル王国の貴族であるドレスデン家の長女であり、ストラトスたちと同様に勇者と共に戦った仲間であった。
彼女は「魔王」との戦いの前に、大怪我を負い、戦線を離脱しなければいけなかったために、あの場にはいなかったのだ。
二人を放すと、辛そうな表情を浮かべるカーティア。
「不甲斐ない……私が戦線離脱などしていなければ、死なせはしなかったのに……」
心から悲しそうな顔をする彼女を見て、ストラトスとキーアは互いに頷く。
「カーティア様、実は大切な話があるんです。聞いてくれませんか?」
「できるだけ、人がいないところが好ましいです」
何をいきなり、と思ったが、二人があまりにも真剣な顔をしていたので、カーティアも何かがあると悟って頷く。
「わかった。人が近寄らない場所を知っている。そこで話を聞こう」
ストラトスとキーアは、こうしてかつての仲間に真実を話すことになるのだった。
「ここに、君に見せたいものがあるんだ」
目を覚ましてから二週間が経った。
「元勇者」椎名一成は、日常生活に差支えがないほど回復していた。
一成は特に何をするわけでもなく、ベッドで過ごす日々だ。毎日のように様子を見に来てくれるリオーネや身の回りの世話をしてくれるメイドが話しかけなければ、自分から話そうともしない。
死のうとは思っていないようだが、これからどうすればいいのだろうか、どう生きればいいのだろうか、と悩んでいるように感じたとメイドは言う。
そして今日、「魔王」リオーネ・シュメールから見せたいものがあると、魔王城の中、案内された部屋にいる。
「ここは初代魔王の私室だ」
「……はい?」
「うん? ここは初代魔王の私室だと言ったのだ。ちなみに、私は七代目である」
いや、そうじゃなくて……と、一成は言う。
「これが、初代魔王の私室だって? どう見ても……」
「日本を思い出すか?」
部屋自体はそれこそ洋風だが、できるだけ日本の物に近いものを揃えたことを感じさせるこの部屋が、初代魔王の私室だとは到底思えなかった。
そして、もう一つ。
「……ああ。アンタ、日本を知ってるのか?」
「知っている、とはいえ話だけだがな。私は、君が異世界人、それも地球出身と聞いた時、本当に驚いた。もしかしたら、とも思った。そして君の名前を聞いた時、核心に変わった。君は――日本人だね?」
なんと答えていいのだろうか、よくわからないまま頷く一成。
「驚くのも無理はないね。こんな偶然、いや奇跡と言うべきかな? きっと生涯において二度と起きないだろう。さて、話を戻そう、どうして初代魔王の私室に日本を感じるのか、どうして私が地球を、日本を知っているのか」
――それはね、初代魔王も日本人なのだからだよ。
一成は、リオーネが何を言っているのかがわからなかった。
今、なんて言った?
「驚きに声が出せない、という感じだね。だけど、もう少し驚いてもらうことになる、続けるよ」
リオーネは驚き固まっている一成から部屋に視線を移して話し続ける。
「初代魔王は、勇者召喚魔術によってこちらの世界に召喚された、日本人だ。そして、私はその子孫だ」
「ま、まさか……」
「君と話がしたい、君のことを知りたい、私のことを知って欲しいと言った意味が、これでわかってもらえると思う」
そう言って、一つの箱から、紙の束と服を取り出した。
「日本語? それに、これは服?」
「紙の束は、ボロボロで読めるところは少ないが、初代魔王の日記のようなものだ。そして、その服はこちらにやってきた時に着ていた服だよ。こちらもあまり保存状態が良くないね」
そう言って、リオーネはその二つを一成に渡す。
「読めるかい?」
そう問われ、一成は紙の束に目を通す、確かにボロボロとなってしまっているが、まったく読めないことはなかった。
「石動良二……これが初代魔王の名前か?」
「そうだ。イスルギという帝都の名は、初代魔王石動良二の家名から取ったものだよ」
そういえば、と一成は思い出す。確か、帝都の名前がイスルギだったことに。
日本人の苗字みたいだな、とは思っていたけれど、本当にそうだったとは……。
さすがに驚くしかない。
「ちょっと待ってくれ」
「なんだい?」
「話がおかしくないか? アンタ、今さっき、勇者召喚魔術で召喚されたのが、初代魔王だって言わなかったか?」
「真実だ。かつて先祖は勇者として今はもう存在していない国に召喚された。そして正義感があった彼は困っている人間のためにと、勇者をすることになったのだ。急に異世界へ連れられたというのに、それを怒りもせずに戦う決意をしたそうだ」
なら、どうして勇者が魔王になったんだ?
「君と同じだよ。裏切られたからだ」
「……ッ」
「仲間に殺されかけたのではない、ずっと騙され続けていたのだよ、先祖は。少し話をしよう、どうして勇者であった先祖が初代魔王となったのか」
彼女は一成から紙の束と服を受け取り、一度箱に仕舞うと、彼の目を見て話し始める。
「先祖が召喚されたのは約二〇〇〇年前だ。その当時から、人間と異種族の間には深い溝があり、当時はさらに各部族、種族が人間と戦を行っていた乱世のような時代だったと聞いた。異種族の力を脅威だと感じ、何とかしようとすがりついたのが勇者召喚魔術であり、それによって召喚されたのが我が先祖なのだ」
そんなに古い時代から、異種族と人間に溝があったのか……。
そして、そんな古い時代に、自分と同じ日本人が召喚されていたのか、と思う。
「当たり前な話だが、先祖はこちらの世界の事情はしらない。国がどうして異種族と戦っているかも知るはずがない。だが、理由も知らずに戦えない、そして聞いた理由がまったくの嘘だったのだよ」
「それは……」
「人間は言ったのだ。異種族、当時は鬼族と戦っていたらしいが、彼等が人間を家畜のように扱うと。攫われ労働力にされると。実際は、逆だったのだが、先祖がそんなことを知るわけがなく、鬼族と戦ったんだ」
しかし、あっけなく終わりは告げた、とリーネは言う。
「すぐに嘘だとばれたのだ。戦いが終わり、なんとか鬼族との戦に勝った人間の国が行ったことを目にしてしまったから」
「何を、したんだ。人間は?」
「虐殺と略奪」
「ッ……」
当時の人間は、鬼族を家畜よりも使い勝手が良い労働力として使っていたのだという。
その扱いに鬼族たちは逃げ出し、戦うことを決意する。そして、他の鬼族も仲間になってくれたのだ。
しかし、そのせいで戦となってしまった。
見た目は人間とさほど変わらない鬼族だが、彼等は強い。人間などとは比べ物にならない怪力と頑丈さを持ち、動きも遅くはないのだ。
人間はそれに対して魔術で反撃をして、泥沼になっていったという。そこで現れたのが「勇者」だ。
しかし、勇者は見てしまった。戦が終わった後、無抵抗にも関わらずなぶり殺しにされる鬼族を。家畜同然の、いや敵対したことでそれ以下の扱いを受ける鬼族をみてしまったのだ。
「そして、勇者は王を問い詰めた。なんだこれは、なんだあの扱いは、と」
そこで初めて勇者は真実を知る。
戦で勝って、上機嫌だった王は饒舌に喋ったという。
鬼族は国に使える家畜だったが、ある日待遇に不満を持って反旗を翻したのだと。家畜の分際で、我が国に。
だが、勇者が元通りにしてくれた。本当に感謝をしよう、褒美は何が良い? と、尋ねられ。
――鬼族の解放を。
と、勇者は言ったのだという。
しかし、反応は大笑いだった。馬鹿にもされたという。
そんな時に余興が始まった。
鬼族の少女が、その国の王子と戦うとのことだった。
枷を嵌められ、鎖に繋がれた鬼族の少女は痩せこけていて、戦えるはずもないと勇者は思った。だが、彼女はその理不尽な状況の中、戦ったのだという。嬲られながら、それでも何度も立ち上がる彼女を見て、勇者はなぜだと叫んだ。
息子の活躍を見て、機嫌をさらに良くしていた王は勇者に教えてくれた。
妹の解放のために戦っているのだと。勝てなくても、ある時間まで耐えれば解放してやると約束をしたのだと。
だが、王は笑った。
そんな約束など始めから守るつもりはない。そもそも、人間が、力と頑丈さが取り柄でしかない鬼族などと約束などをかわすものかと、笑う。
次の瞬間、王の首が宙を舞った。
笑って見物していた貴族たちも、剣で鬼族の少女を嬲っていた王子も、枷と鎖で繋がれた鬼族の少女もその光景に驚き、動きを止めたのだという。
――貴様らは、人の皮を被った悪魔だ! 貴様らは、人ではない!
そう吼えた勇者はその場にいる、鬼族の少女以外をすべて皆殺しにした。
勇者の乱心と兵が駆けつけるが、その兵すらもすべて殺した。
守っていたはずの国民も殺し、鬼族を解放し、勇者は宣言する。異種族は私が守ると。貴様らのような、血も涙もない人間から異種族を守ってみせると。
「そして、勇者は鬼族を率いて大陸北部を目指すことになる。そこですでに北部に暮らしていた他の異種族と色々とあるのだが、数年を掛けて、彼は異種族をまとめ、「帝国」を作り上げた。そして、人間たちは彼を恐れ、勇者などは最初からいなかったことにして、彼を「魔王」と呼んだ」
これが帝国の、魔王の始まりだよ、とリオーネは言う。
ずっと黙って聞いていた一成自身、あまりにもの話に着いていけないというのが正直な所だった。
「余談だけれど、初代魔王はきっかけとなった鬼族の少女との間に子供を儲ける。その子供が次の魔王となり、また別の異種族と子供を儲ける。意図してやっていたわけではないが、そうなってしまった。そして、私は人間、鬼族、エルフ、獣人など色々な血が混ざった混血なんだ」
「……どうして、どうして俺にこんな話をしたんだ?」
「先祖の望みでね、いつか自分のように利用された勇者が現れたら、いつか自分と同じ故郷の人間が現れたら、こんな人間がいたということを覚えていて欲しいのだと言ったそうだ。とはいえ、今までそれはなされなかったんだが、私の代でようやく先祖の願いは果たされた」
ここからは、先祖を抜きにして私の話になる。
と、前置きをしてリオーネは話す。
「私の祖母が初代魔王から聞いた日本の話を良くしてくれた。私にとってそれはお伽話だった。だから、いつか地球から人間が来たら、どのような暮らしをしているのか、どのような世界なのか、ずっと聞きたかったんだ」
それは「魔王」リオーネ・シュメールではなく、リオーネ・シュメール個人としての願いだったと言う。
「本音を言ってしまえば、君とは違うけれど、裏切られた人間の勇者がいたということを知って欲しかったのもあるよ」
「俺は……俺は……」
「今は無理して答えなくて良いよ。でも、君はいずれきっと、選択を迫られると私は思う」
「選択?」
「そう。このまま何も考えずに立ち止まるか、これから考えて動き出すか……とはいえ、しばらくはまだ安静にしていた方が良い、今日は何かのきっかけになればと思ってここへ連れてきたんだ。もちろん、先祖の望みも叶えたかったこともあるけどね。さぁ、そろそろ戻ろう」
彼女は優しく一成の手を握り締めて部屋の外へ行く。
そして扉に鍵を閉めると、一成に渡す。
「君にしばらく預けておくよ。今日は一緒に来たけれど、一人でゆっくり考えたい時に、この部屋を使ってくれても構わないよ。先祖も同じ故郷の人間が使ってくれれば喜ぶと思う」
一成は鍵を受けとるか、取らないか迷ったが、受け取ることにした。
そして、二人は会話も無く魔王城を後にする。
魔王城から戻り、一人になった一成は、食事をもらい、ベッドで寝転んで鍵を眺めながら一成は呟く。
「俺はこれからどうすればいいんだ? あの女は、どうして……ちくしょう、何もわからない、わかりたくない」
一成はベッドの上でうずくまる様に体を小さくする。
まだ、「元勇者」は何もすることができない。何をすれば良いのかもわからない。
目を瞑れば、一年間の旅を思い出す。辛いこともあった。悲しいこともあった。出会い、別れもあった。そして最後に裏切られた。
一体、初代魔王はどんな気持ちで帝国をつくったのだろうか?
「何にも、わからねーよ……」
「元勇者」は未だ迷い続けるのであった。
今回の話では二週間が経っています。ストラトスたちはかつての仲間を訪ね、未来路は初代魔王のことを知ります。
少しずつですが、物語が動いていきます。
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