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20 「再会」





 光に焼かれた体がジクジクと痛む。

 今まで、炎の魔術に体を焼かれたこともあったが、それとは違う痛みだ。

 まるで体が解けてしまうように、痛みが広がっていく。


「辛かろう」


 同情と、後悔が少しだけ混じった声で龍神が囁く。


「そなたが浴びたのは神気という。神の気だ。そなたたちが魔力を持つように、神々には特有の気がある。それが神気」

「神気……」

「人が浴びれば攻撃を受けたようになるだろう、今のそなたのように。そして、治りは遅く、場合によっては死にもいたる」


 痛みのせいで棒立ちとなっている一成の胸に、龍神はそっと手を当てる。

 そして、


「今楽にしてやろう」

「……まだ早いだろう」

「我慢することはない。よく痛みに耐えていると感心している」

「だったら話しようぜ。俺は知りたいことを知ってからじゃないと、死にたくない」


 ――どうせ死ぬなら、それに意味はない。

 そう言おうとして、龍神は言わなかった。


「やはりそなたは、面白い。そして、彼に似ている」

「彼?」

「ああ、そなたを器として求めている者――魔神。そなたは彼によく似ている。だが、似ていると言っても違う面も多々ある。彼はもっと図々しかった」

「アンタは魔神と知り合いか?」


 一成の問いに、龍神は肯定する。

 そして、過去を思い出すように、答える。


「随分と昔のことだ。まだ人々と神々が共に地上で暮らしていた旧き時代に、余は彼を兄のように慕っていた」


 だが、と続ける。


「望まない戦が始まり、彼は敗者となり煉獄に落とされた。その後、彼は地上に現れ再び戦おうとし、余はそれを阻止する役目を担った。もう何度敵対しただろうか」


 声から、表情から、龍神の悲しみが一成に伝わってきた。

 一成は思う。それはどれだけ悲しいことだろうか、と。

 兄と慕った者と敵対する。それはどれだけ辛いことだろうかと。

 自分を兄貴と呼んで慕ってくれているストラトスを思い出す。彼は今頃どうしているのか、帝国に来ているが、再会してはいない。

 これから会う予定だったのだ。


――だけど、このままだと無理かもしれねえな。


 それが少し心残りになりそうだった。

 いや、このまま死んでしまうのなら、心残りはたくさんある。

 ストラトスだけじゃない。カーティア、キーア、シェイナリウス、レイン、ハイアウルスにもう一度だけでも会いたい。

 そして、リオーネとクラリッサ、ムニリア、ギンガムル、帝国で出会った子供たちの顔ももう一度見たいと思った。


「そなたを見ていると、彼を思い出す。心の奥底にしまいこんだ思い出が蘇ってくる」


 龍神が手に少しでも力を加えれば、一成の命は尽きるだろう。

 それ以前に、神気に焼かれた一成の意識は、だんだんと朦朧となり、フラフラとしている。

 このままでは時間の問題でもある。

 今までの龍神なら、このまま一成の命を奪っていただろ。

 それが最善だとわかっているから。

 だが、今はそれを躊躇ってしまっている。

 一成から彼を思い出してしまったから。彼のことを口に出してしまったから。

 兄のようにと慕った友の命を奪うようで、どうしても決断が鈍る。

 そして、そんな自分に嫌悪を覚えた。

 今まで、器の命を奪ってきた。役目であるからといっても、神々の都合で命を奪ってきたのだ。

 神である龍神にも感情はある。

 憎悪の視線を向けられ、呪の言葉を叫ばれれば、心が折れそうになってしまう。

 それでも龍神は役目を続けなければいけない。過程はどうあれ、結果的に自らが望んで役目を受けることを選んだのだから。

 腕が震える。

 真なる器を破壊しろと、体の中で叫び声が聞こえる。だが、心ができないと叫び返す。

 そして、長い葛藤の末に、


「すまぬ……本当にすまぬ」


 龍神は、一成の胸に押し当てていた手に力を込めようとする。

 同時に、これからかけられる言葉がどれだけのものであっても受け入れると覚悟を決める。

 恨まないと言っていた。憎まないと言っていた。だが、それは龍神が一成に納得できる理由を伝えればだ。

 そして、龍神は伝えていない。

 決断が鈍らない内に、やらなければ。

 さらば、と言おうとした。その時、


「恨まないから、やれよ」


 憎む声ではなかった。恨みの言葉でもなかった。

 優しさを感じさせる声だった。


「え……」


 思わず一成と視線を合わせてしまう。

 彼の瞳には優しさが宿っていて、それが不思議だった。

 そして、そんな瞳を見てしまったせいで、龍神の決意が揺らいでしまった。

 その瞬間、


「一成っ!」

「兄貴!」


 一成と龍神を挟むようにして、叫び声が聞こえる。

 片方は女性の声、魔王であるリオーネ・シュメールだ。では、もう一人は?

 声の方向を向くと、燃えるような赤髪の少年が片刃の剣を構えて突っ込んでくる。


「……ストラトス」


 いつの間にか、声の方向へ顔を向けていた一成が弱弱しく呟いた。


「兄貴を、離しやがれ!」


 速度を上げて、一成の胸へと押し付けている腕を目掛けてストラトスは剣を振り下ろす。

 避けるまでもなかったが、龍神はあえて後ろへ飛んで避けた。

 剣が空を斬り、そのまま地面を抉る。

 同時に、リオーネが二人と龍神の間に立った。


「大丈夫か、一成! おやめください、龍神王様!」


 両腕に魔力を宿らせてリオーネは戦闘体制に入る。続けて、遅れてやってきたムニリアとクラリッサ、さらに灰色の髪の少女と二人のエルフもそれぞれ構え、龍神に敵意を向ける。


「龍神王様、排除しますか?」


 龍神のすぐ傍には、白い少女が立っている。

 龍神が連れてきた幼き龍であるシャオだ。


「いや、よい」


 龍神はシャオを制するように腕を上げる。


「しかし、真なる器を破壊してはいません」

「わかっている」

「では、なぜ……」

「……再会してしまったのだから、別れの挨拶は必要だ」


 龍神は、そうシャオにも自身にも言い訳するように言う。

 そして、一成たちを見ないようにと背を向けたのだった。






 きっと自分は簡単に死んでしまうのだろう、と一成は思っていた。

 龍神が少しでも動けば、死んだことがわからずに死んでしまうと。

 納得できる理由も説明も聞けてはいない。

 自分が、魔神と似ていることがわかったくらいだ。だけど、それだけでも構わないと思っていた。

 目の前の少年――龍神が、本当に今にも泣き出しそうな顔をしていたから。

 そして、謝ったから。

 一成は自分のことを聖人君子だと思ったことは生まれてから一度もない。それでも、龍神が兄のように慕った友の半身だという自分を殺そうと、感情を殺そうとしてまで役目を果たそうとしている姿を眼にしてしまい、心残りばかり沸いてくるが、それでも恨みも憎みもできなかった。

 生きていたい、とは思う。だけど、このような終わりもあるのかもしれないとも思った。

 だから、龍神がこれ以上悲しい思いをしないように、自分を責めないように、自分にできる精一杯の思いを込めて、


「恨まないから、やれよ」


 言ってやる。

 本当は、もっと言葉を言いたかったが、意識が朦朧としていて、それ以上言えなかった。

 だが、龍神は逆に戸惑い、


「一成っ!」

「兄貴!」


 自分のことを叫ぶ声が聞こえた。

 そして、目の前には見覚えのある赤髪の少年ストラトスが、続いて艶やかな黒髪の女性リオーネが、一成を守ろうと龍神との間に割って入る。

 さらに、黒騎士ムニリア、メイド姿のクラリッサ。修道服を着た凜としたカーティア、幼さの残る灰色の髪のキーア、銀髪のエルフの姉妹シェイナリウスとレインが次々と一成を守るように現れた。


「ストラトス、すげー久しぶり」

「この、馬鹿野郎! 何が久しぶりだよ、どうして再会する前に死に掛けてるんだよ!」

「悪いな……色々あって」

「全部説明してくれよ」

「……ああ、するよ」


 そう言って、ストラトスの髪をぐしゃぐしゃと撫でる。


「ああ、本当に久しぶりだな……会いたかった」

「……兄貴」


 一成は自分を守るようにして龍神と対峙している仲間たちを見て、強く思った。

 まだ生きていたいと。

 裏切られて絶望したけど、まだこれだけ希望があるじゃないか。

 それがわかっただけで、もう満足だった。


「……俺って、幸せ者だったんだな」


 そう呟いて、一成は意識を失ったのだった。







更新が遅れて大変申し訳ございません。短くてすみませんが、最新話投稿させて頂きました。

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