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16 「プロローグ」

第二章開始です。

(主人公の名前 桜町未来路から椎名一成に変更しました。)





 メバリア大陸東部は、一部を除いてほとんどが大小の島々で形成されている。

 大陸東部に国は一つだけ。

 唯一無二の王を中心に、その種族は長い時を生きてきた。

 その種族とは?


 ――龍だ。


 人間は龍を異種族と言う者がいるが、厳密には違う。

 龍とは、龍神を王に、民はその眷属たちだ。


 龍神――その名のごとく、龍の神である。


神々が地上に存在したのは神代の時代。多くの神々は、天界と称する地上とはまた別の場所へ移り住んだという伝承がある。

 だが、すべての神が天界へと移り住んだというわけではないのだ。

 人間によって殺された神もいる。神同士が争い、結果として死んだ神もいる。神と名が付く存在であっても不死ではないのだ。

 そして最後に、現在も地上に残る神がいるのだ。

 その神こそ龍神である。


「そろそろ余が動かなくてはならない」


 大陸東部にあるたった一つの国の王宮で、玉座に腰掛けた少年が呟いた。

 歳は十にも満たないだろう。だが、少年から幼さは感じない。

 むしろ長年を生きた貫禄すら感じてしまう。

 煌びやかな衣装に身を包んだ少年は玉座から降りると、頭を垂れている臣下たちを見渡す。


「我ら龍は、はるか昔から神々の暴挙を許さない」


 ゆっくりと、それでいて力強く言葉を噤みながら、左右に別れて頭を垂れている臣下たちの間を歩く。


「我ら龍は、地上を守らなければならない。それがどんな存在からだろうが、大きな犠牲を払うこととなったとしても……」


 少年は続ける。


「だが、ここ数百年の内に、多くの同胞がその役目を忘れてしまい余たちの下を去ってしまったことも事実。我らの行いは理解されず、だというのに大きい……しかし、それでも、だからこそ龍が龍である誇りを持って役目を果たさなければならない」


 少年の言葉に、臣下たちが短く賛同の声を上げた。

 「礼を言う」と少年は小さく呟く。


「余はこれから帝国へと向かう。目的はもちろん、「魔神の真なる器」の破壊」


 魔神の真なる器の破壊――それはつまり、椎名一成を殺すということだ。


「この度の器は異世界人だと聞いております」


 一人の臣下の声に、少年は頷く。


「聞いている。異邦人とは珍しい、余も役目さえなければ異世界の話を聞いてみたいものだと思う。だが、それが魔神の真なる器であるのなら、捨て置けない」


 少年の声には、悲しみが込められていた。


「シャオ」

「はい」


 名を呼ばれ、一人の臣下が立ち上がる。

 白い衣装を身にまとった十五歳前後の少女だった。床に着いてしまいそうなほど長い髪は白く、少女の眉もまつ毛もすべて白かった。髪だけではない、肌も雪のように白い。

 ゆえに、紅を差した唇と、強い意志を持った黒い瞳が印象に残る。


「余と共に帝国へ行ってほしい」

「はい。私の力がお役に立つのでしたら喜んでお供します」

「うん。では行こう。シャオよ、近くへ」

「はい」


 シャオと呼ばれた少女は少年の下へ近づくと、足元に膝を着く。

 それを確認して、少年は他の家臣たちに向けて短く「行ってくる」と告げた。

 そして、その瞬間――少年と少女の姿は一瞬にして消えたのだった。




 この日、少年と少女が帝国へ向かったことで、椎名一成は自身の役割を知ることとなるのだった。







 大陸北部帝国首都イスルギにて、「魔王」リオーネ・シュメールは帝国に向かってもの凄く大きい力が向かってくるのを感じ取った。

 いや違う。感じ取ったのではない、感じ取らされたのだ。


「どうして……あのお方がどうして急にやって来る?」

「魔王様?」


 その言葉に反応したのは、傍に控えて紅茶の準備をしていたメイドであるクラリッサだった。

 しかし、「魔王」は返事をすることはなく、自室に急ぎ足で行ってしまう。

 慌てて彼女の後を追いかけるクラリッサだった。


「失礼します。一体、どうしたのですか? ……どうして正装をなさっているのですか?」


 そう質問をしながら、主のために着替えを手伝うのはメイドの鏡だった。


「あのお方が、龍神王がこちらに向かっている」

「まさかっ!」


 思わず大きな声を出して、手を止めてしまうクラリッサだった。

 龍とは基本的に異種族にも、人間にも最低限の関係を持とうとはしない。

人間からは異種族扱いされたり、神として崇められたりと地方によって扱いも違うが、龍とは神だ。

 言い方は悪いが、彼らのように強大な力を持ち、理性を持ち合わせる種族ならば簡単にこの世界を統一することは不可能ではないだろう。

 だが、彼はそれをしようとしない。

 不干渉――というわけではないが、それに近いものを持っている。

 そんな彼らが動く時は、必ずと言っていいほど厄介なことが起きているということだ。

 クラリッサは嫌な予感がした。そして、リオーネに言葉を掛けようとして、できなかった。

 なぜなら、


「もう着いている」


 リオーネの部屋の外、つまり廊下から幼い少年の声が聞こえてしまったから。

 一応、マナーを守ったのだろう。女性の部屋にいきなり現れることをしなかった。


「クラリッサ、扉を開けてくれ」

「は、はい」


 言われるままに扉を開けると、大陸東部特有の衣装に身を包んだ、十歳にも満たない少年が一人。そして、その少年の後ろには、紅を差した唇と、強い意志を感じさせる黒い瞳以外は意図的とも思えるほど白に統一された少女が立っていた。


「お久しぶりです、龍神王殿」


 片膝を着き、礼を持って挨拶をする「魔王」リオーネにならいクラリッサも片膝を着く。

 この世界で「魔王」である主に、ここまでの挨拶をされる相手は目の前の少年だけだろう。


「久しいな、リオーネ。そして、クラリッサよ」


 親しみを込めた声だった。それは、孫に声を掛ける祖父を感じさせる。

 逆に、「魔王」に対してこの様な態度を取れる者も数少ない。


「堅苦しい挨拶は好まない。今までのように余と接して欲しい」

「はい」


 つまり楽にしろと言っているのだ。

 その言葉に従う、魔王とクラリッサ。


「今、お茶の仕度をしてきます!」


 思い出したようにクラリッサが声を上げる。

 驚きが重なり過ぎたせいで、客人にお茶の一つも出せないとはメイド失格だ。

 自分自身にそんなことを内心言いながら、部屋を出て行こうと、少年と少女へ頭を下げようとすると、


「気遣いは無用。時間が許されれば、四人で話などもしたいが、今はその時間が惜しい」

「それは、どういうことでしょうか?」


 少年の言葉に、緊張しながらもリオーネは尋ねる。

 そして、少年は簡潔に答えた。


「簡単な話だ。余に、リオーネたちが保護している一人の少年。異世界からの異邦人を引き渡して欲しい」


 リオーネはもちろん、クラリッサも言葉を発することなく驚愕した。

 どうして知っているのだ?

 いや、龍であるからこそ、可能であるだろう。だが、どうして引き渡しを要求してくるのかがわからない。


「ど、どうしてでしょうか?」


 震える声で、リオーネは言葉を返す。

 嫌な予感しかしなかった。


「……そうだったな、余にはわかっていることであっても、リオーネたちにはわからないことだった。すまぬ」

「……いえ」


 少年の謝罪に戸惑うものの、答えを聞けたわけではない。

 結局、どうして「彼」の引き渡しを要求しているのかがわからない。


「龍神王殿、結局どうして貴方は彼を引き渡すようにと仰るのでしょうか?」

「リオーネにとっては容認できないことかもしれない。だが、仮に断られても力ずくでも余はやらなければならないことがある」


 それは、


「――魔神の真なる器を破壊すること」







 同時刻、大陸北部にある帝国の魔王城の一室に椎名一成はいた。

 初代魔王、石動良二の使っていた部屋だ。

 彼は一人で考え事をしたいために、訪れていた。

 考え事とは……多くあり過ぎて困るのが現状だ。目を瞑ってしまえば、フラッシュバックのごとく色々なことが脳裏を駆け巡る。


「でも、とりあえずは……ストラトスたちとの再会だよな」


 再会は今日の夕方だ。もう二時間もない。

 正直言えば怖い。

 考えるだけで、不安に押しつぶされそうになってしまう。

 仲間のことは信じている――と、思いたい。

 裏切られた時、アンナ・サンディアルが自分のことを道具扱いした時、一成は意識を失っていなかった。

 だからストラトス、キーア、シェイナリウス、レインが自分のことを裏切っていないことは頭ではわかっている。

 そしてもう一人、ストラトスたちと一緒にいるという、もう一人の仲間だった女性、カーティアも裏切りなどとは縁のない性格をしていることは知っている。

 そう、頭ではわかっているのだ。

 だが、頭でわかっていても、心が怖いと叫んでいる。もう裏切られたくないと、泣き叫んでいる。


「いつからこんなに臆病になったんだか……」


 異世界という存在など知るはずもなかったあの頃。自分はこれほど臆病ではなかったと思う。

 いや、アンナ・サンディアルに裏切られたあの日までは、これほど臆病ではなかったと思う。

 結局のところ、あの一件で自分は少し変わってしまったのかもしれない。

 そんなことを思った。

 だけど、それでもいいと思う。変わることがいけないということはない。良くも悪くも変化は必要だと思う。

 問題は、変わったことでどうするのか。

 臆病になったっていい。それでも、仲間を信じることができれば。でも、できなければどうなるのだろうか?

 その答えはでない。

 だから、早く仲間に会いたいと思う。だから、会うのが怖いと思う。

 まあ、このまま考え続けたところで答えは出ないだろう。そして、答えが出なくても時間が経てば仲間との再会は訪れる。

 一成はムニリアに一つの頼みごとをしていた。

それは、


 ――もし、俺がビビッてストラトスたちに会いたくないって言ったら、無理やりにでも引きずってでも連れて行って欲しい


 そんな頼みごとだった。

 一成の頼みを聞いた際に、ムニリアは一瞬だけ呆けてから笑った。そして、任せておけと言ってくれた。

 いつの間にか、一成とムニリアは良い関係を築いていた。時に手合わせをして、時には他愛もない話もする。

 そんな関係が心地よかった。


「だからって、甘えるつもりはないけけどさ……」


 そこまで言葉を吐き出した瞬間、一成の体が心が、魂が警戒するように何かを感じ取った。


「――なんだ? この馬鹿みたいな力は……!」


 かつて戦った時、「魔王」リオーネの力も相当のものだと思ったが、今感じている力はそれを余裕で上回る。

 そして、それだけではない。その強大過ぎる力と共に、「魔王」クラスの力を持った存在も一緒に近づいてくるではないか。

 一体、何が起きている?

 疑問を口にすることはできなかった。

 何故なら――


「はじましてと言っておこう。余は龍――最初の龍だ。多くの者は龍神、または龍神王と呼ぶ」


 十歳にも満たないであろう少年と、白く美しい幻想的な少女が、すぐ傍に立っていたからだった。


「だ、誰だ……どうやって」


 入ってきたのだ?


「そなたの境遇には同情する。異世界より魔神の真なる器として親しき者と引き離されたこと」


 何を言っている?

 何の話をしている?


「そして何よりも――このまま理由も知らず、余に殺されてしまうことを」


 全身の毛が総毛だった。

 いつの間にか呼吸をしていなかったことにも気付く。

 やばい、やばい、やばい!


 ――目の前のガキは、どうしようもなく「桁外れ」だ!


「余を恨むなとは言わない――さらば」


 少年の声には悲しさがあった。悲しさと、しかし成し遂げなければいけない強い意思を感じた。それだけはわかった。

 そして、少年の腕に今まで感じたことのない魔力が宿る。


「……なっ!?」


 その桁違いの魔力に、驚きの声を上げた瞬間。




 ――轟音と爆炎が、初代魔王の部屋を蹂躙した。






間が空いてしまいましたが、第二章のプロローグをお届けします。

すみませんが、今回は短くさせて頂きました。

新しいキャラクター。一章では登場シーンが少なかったキャラクターもこれからは動いていきますので、今後をお楽しみくだされば幸いです。

第二章もお付き合い下さればとても嬉しいです。


ご意見、ご感想、ご評価して頂けると大変嬉しく思います! どうぞよろしくお願いします!

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