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今回は主人公の過去話です。とはいっても、だいぶ過去に戻ります。
必要かどうか迷った話でしたが、読んでいただけたら幸いです。
2011/11/12 修正しました。
裏切られた勇者、椎名一成について過去話をしようと思う。
彼の視点から、彼が何を思って、生きてきたのか。
きっとつまらない人生だと感じるだろう。
きっと別に必要がない話だと思うかもしれない。
だけど、この話に少しの間だけ付き合ってくれると嬉しい。
俺が――どれだけつまらない人間か知ってもらうために。
夢を見ていた。
少し前のことだというのに、酷く懐かしかった。
俺、椎名一成は思う。
退屈でくだらない日々だったけど、あの日に戻りたかった……と。
子供の頃から、努力というものをしたことはなかった。
いや、努力というものがどのようなものかがわからなかった。
頑張るや、本気を出す、なら解る。だけど、努力ということだけはわからなかった。
そして、努力をしていない俺は、頑張ったり、本気を出したりしてはいけないのだと知った。
小学生の頃から薄々と気付いていた。だけど、あまりに気にはしていなかった。
中学に上がってからだ。そのことを色々な意味で知ったのは。
自慢することだとは思わないけれど、勉強も運動もできた。それは努力の結果ではない。
学校で授業をしっかり聞いていれば覚えることはできるし、教科書だって読めばいい。運動だって部活に入りたいとは思わなかったけど、歳相応に体を動かしたいという欲求はあった。
当たり前な話だけど、進路を考えればテストで良い点数は取りたいと思う。それはおかしなことじゃない。だけど、俺はそのことに関して努力はしなかった……いや、できなかった。
テスト前に勉強を教えてと言ってくる幼馴染みがいたけれど、俺には何をどう教えればよいのかわからない。
「もう、冷たいよねー、かっちゃんは」
断ると必ずそんなことを言う幼馴染み。いつもの笑顔ではなく、どこか寂しそうに、どこかつまらなそうに、そしてどこか悲しそうに。
幼馴染みのことは印象に残ったが、俺は何かを変えることはしなかった。いや、できなかった。
そして、いつしか俺は孤立していた。いや、孤立寸前だったのか?
イジメられているわけではない、何かをされたわけではない、無視されるわけでもなければ、悪口を言われるわけでもなかった。
だけど、俺に友人はいなくて、唯一幼馴染みだけが構ってくれている状態だった。
俺が何をした? どうしてこんなことになった?
本気でわからないと言った俺に、幼馴染みの彼女は困ったような顔をして、
「かっちゃんは、本気出したり、頑張ったりしないほうがいいかもしれないね」
そんなことを言う。
「どうして?」
気付けば声に出していた。
俺が何をしたんだと、俺が一体誰に迷惑を掛けたんだよ、と。
だって、俺は俺ができることをしただけだ。
だけど、幼馴染みから帰ってきた返事は、
「もっと、かっちゃんは周りと合わせたほうがいいよ」
「よくわからないよ」
俺は困惑する。
周りと合わせろと言われても、周りとはなんだ? 誰だ? 基準はどこだ?
自分がやれることをいして何が悪い?
そう言った俺に彼女は聞いてくる。
「でも、努力はしてないよね?」
彼女は俺に聞く。
「かっちゃんは、昔から本気出したり、頑張っちゃったりすると大抵のことができちゃう。だから、かっちゃんに負けて悔しいって思う人の気持ちが解らないんだよね?」
だから、いらない嫉妬を買っちゃうんだよ。
確認するようで、どこか責めるような口調でもあった。
でも、だけど、解るはずがないだろう。
「例えば、かっちゃんがテストで本気を出したとして、ありえないけれどビリだったとするじゃん。悔しい?」
「……別に」
彼女の意味が理解できない質問に、俺は首を横に振るう。
だって、本気を出してビリなら、頑張ってビリならしかたないだろう? それ以上のことはできないんだから。
俺は天才じゃない。ある程度のことができるだけ。それだけなんだから。
「でもね、普通は悔しいって思ったり、ビリは嫌だって思って勉強をするんだよ」
それが努力?
「じゃあさ、この間のテストで一番だったじゃん。嬉しい?」
「いや……特にそういうのはない、良かったとは思うけど」
「うん、それが変なんだよ。だって、一番だよ? 普通、やったぜ! とか思いっきり喜ばない?」
わからない。
わかる答えをただ書いて合っていただけで、そこまで喜べるのかが解らない。
今はわかる問題でも、高校に入れば、大学進学も考えれば今のようにはいかないことくらい理解できる。
「うーん、どうすればかっちゃんに伝わるかな?」
「俺に、聞かれても困るよ」
確かに、と笑う彼女に俺はどんな顔をしているんだろう?
じゃあ、と彼女は考えてから、少しだけ間を置いて、
「かっちゃんに、好きな人っている?」
「いない」
「うわっ。即答だ!」
急に話題を変更した彼女は、たいして驚いてもいない癖に、大げさにをアクションをしてみせる。
「誰も、一人も、別に恋愛って意味じゃなくて、嫌い好きだけを考えて誰もいないの?」
嫌い好きだけをか……。
そりゃ、もちろん、両親は好きだ。二人とも医者で尊敬している。
そして、こうして昔から俺と一緒にいてくれる幼馴染みだって好きだと思う。
「じゃあ、お前かな?」
「……微妙な気分かも」
「なんでだよ?」
「女心を勉強しろっ!」
――という感じで、俺は人間関係って物が良く解らなくて、努力って意味も解らなくて、女心も解らなかった。
結局、幼馴染みの言いたいことは理解できなかったけど、本気を出すな、頑張るなということだけはわったので、そうすることにした。
よくわからなかったけど、それが正解だった。
その後、手を抜くことを覚えた俺は、少しずつ孤立から抜け出していった。
幼馴染みが上手く立ち回ってくれたことも理由にあるだろう。
それが良かったのか、悪かったのか当時の俺にはわからなかったけど、少なくても不快じゃなかった。
友人もできた。両親と幼馴染みの家族以外のメモリーしかなかった携帯電話に、クラスメイトの携帯番号とメールアドレスが増えていった。
――だけど、ある程度親しい人間ができると、聞きたくないこと、知りたくないことを知ってしまうのだとわかった。
クラスメイトの多くは、俺を腫れ物のように扱っていたらしい。
また勉強や運動ができる俺を妬んでいた者もいたと言う。
正直、そんなことを言われても困る。
友人たちは口をそろえて「今の方がいいって、付き合いやすいしさ」と言ってくれた。だから、これが正解なんだと思った。
そして俺は一つの答えを見つける。
――本気なんて出さないほうがいい。適当に力を抜いていれば疲れないし、楽だ。
そうすれば楽だった。
手を抜いて、周囲に合わせて、適当にしているだけで、笑うことができた。
いつしか友人が多くできていた。
いつの間にか、幼馴染みの彼女と恋人になっていた。
手を抜いているだけで、十代の学生には十分過ぎる結果だと思った。
友人たちに合わせて同じ高校へ行き、流されるように生きていた。
楽だった。
とても楽だった。
俺と幼馴染みの両親は職場で同僚ということもあって、彼女と付き合うことになった際は祝福された。これも一つの幸せなのかもしれないと思った。
「大丈夫?」
そんなことを、恋人になってもう三年の幼馴染みに尋ねられることが何度かあった。
だけど、何を思って彼女が大丈夫かと聞いたのかわからなかった。
だから俺は、
「大丈夫だよ」
と、笑ってみせる。
そうすれば、彼女はホッとした顔をしてから、また笑ってくれるから。
それで良いと思っていた。
――あの時までは。
それは、勇者召喚魔術なんてもので異世界へ呼び出される半年と少し前の出来事だった。
きっかけは今でも良くわからない。
もしかしたら、ずっとストレスが溜まっていたのかもしれない。だけど、そんなことはどうでも良かった。
いつもの様に適当に過ごしている日々に変化が起きた。
それはクラスでイジメが起きたことだった。いや、イジメ自体はもっと前から起きていたのだろう。ただ、それまで知らなかっただけ。
いつもニコニコとしていた男子のクラスメイトで、友人も多くて俺とも結構喋ったことがあった。いい奴だと俺は思った。
だからどうしてイジメの対象になるのかわからなかった。
最初は友人と共に、止めに入った。しかし、次第に友人たちがイジメに加わるようになった。
理由はわからない。
イジメをする理由も、それに加わる友人たちも。
「関わっちゃ駄目だよ」
本当は止めようと思ったけれど、不安そうな顔で心配する幼馴染みに、俺はやっぱり「大丈夫だよ」と答えて笑ってみせた。そして、その時はそのまま、イジメを止めることはしなかった。
結局、全然大丈夫じゃなかったと知ることに後でなるのだが。その時は、そう思っていた。麻痺していたんだと思う。何に? と、聞かれたら困るけれど。
友人たちもイジメに加わり、だけど俺は関わらず止めていた。これはあまり流されてはいけないと思ったから。
すると、友人だった一人が俺に向けて意地悪く言う。
「お前も、やれって。コイツと同じ目に合いたくないだろ?」
それが友人に向けて言う台詞なのかと疑問に思った。もっと、気のいい奴だと思っていた友人にそんなことを言われて、少しだけ嫌な気分になった。
「可愛い彼女だっているのに、イジメなんかされたらなぁ、フラれるぞ?」
そんな言葉に周囲も笑う。
だけど俺には何が面白いのかがわからなかった。
そんな時だった。ふと、イジメられていたクラスメイトと目が合った。
そして、彼は頷いた。
助けて、という意味ではなかった。「いいよ」という目をしていた。
つまり、気にせず友人と同じ事をしろ、と俺に目配せしてきたのだ。わからない。
自分がイジメられているというのに、俺のことを考えてくれたらしい。わからない。
だけど、何かが違うと思った。
「いや、俺は遠慮するよ」
気が付いたら口に出していた。
「はぁ? 何言ってんの、お前?」
俺の返事が気に入らなかったのか、イジメられていたクラスメイトを殴り飛ばしてから俺を睨み付ける。
「俺ら、ダチだろ……訳わかんね」
「いや、もう友達じゃない。お前みたいな友達はゴメンだね」
俺は苛立った口調になっていた。
どうして俺はこんなのと友人になっていたのだろうか? それとも友人はどこかで変わってしまったのだろうか?
俺は殴られて床に倒れているクラスメイトを支えて立たせる。大丈夫かと聞くと、頷いたので少しだけホッとした。
クラスメイトは困惑した顔をしていた。いや、俺も同じだったかもしれない。
「あーあ、裏切られちゃったよ……ダチだど思ってたのにさ。じゃあ、これからはお前も同じ目に合わせてやるよ!」
そう言って俺を殴ろうとした元友人。
だけど、その拳はとても遅く、軽々と掴むと……驚いたまま固まっている元友人の腹を思い切り蹴り上げた。
胃液を吐いて、蹲る元友人を俺は冷たく見下ろして、
「やっぱり、お前みたいな友達はゴメンだ……」
少しだけ残念だと思った。中学からの付き合いだったから。
そして、これでお終い、とばかりにさらにもう一度蹴ってやった。さよなら元友達。
ざわつく教室。
幼馴染みがいなくて良かったと思いつつ、さてこれからどうしようと思う。
目の前には当たり前のように怒っている元友人たちが数名。
許さねえ、裏切りやがって、などと言っているが……なんかもうどうでも良かった。
結局――その後、あるのか無いのか解らないプライドを傷つけられた元友人たちと喧嘩となった。
その場を見ていた奴らはきっと俺が多勢によってやられると思っただろう。俺も思った。
だから、本当に久しぶりに、本気を出すことにした。
勉強でもなく、スポーツでもなく、喧嘩に、暴力に始めて本気を出した。
その結果――俺はまた孤立寸前となった。いや、俺からそれを望んだ。
恋人になった幼馴染みと連絡を取らなくなった。連絡は来るが無視していた。元友人たちの矛先が彼女に向かないように、と最初は考えていたけれど……そうじゃなくて、結局流されて付き合うことになった幼馴染みにどう関われば良いのか解らなくて逃げたのだった。
代わりに、苛められていたクラスメイトと少しだけ仲が良くなる。イジメはなくなったそうだ。良かったと思う。
といよりも、俺が元友人たちを完膚なきまでに叩きのめしてしまったせいで学校側が介入してきたのだ。
幸い、見ていたクラスメイトや苛められていたクラスメイトの証言から、イジメをしていた元友人たちから俺が守ったということになっているが、やり過ぎた。
おかげで停学だ。
まぁでもそれも良いかな、と思った。少なくとも、元友人と会わなくて良いから。
その後、停学になった俺は、家に篭っていてもすることはないし、必ずと言っていいほど幼馴染みと助けたことになっているクラスメイトがやってくるので街をフラフラすることを選んだ。
すると、偶然なのか必然なのか不良グループに絡まれることになる。もしかしたら、そう望んでいたのかもしれなかった。
何度も、何度も喧嘩をした。本気を出して、殴り、殴られて、蹴り、蹴られて、それが最高だった。
本気を出して暴力を振るうという高揚感。それでいて必ずは勝てないという現実。
中学時代とは違う、手を抜くことを覚えてからとは違う感覚が楽しかった。
――そして、俺はあの人に出会った。
笑えるくらいに喧嘩に強く、その癖に喧嘩が嫌いで、だけど仲間のためになら嫌いな喧嘩を躊躇わない。殴られることも、殴ることも、蹴ることも、蹴られることも、傷つくことも、傷つけられることも仲間の為なら躊躇わない。
そんな男だった。
たった一年だけ早く生まれたくせに、兄のように俺に馴れ馴れしくしてきて。そしていつの間にか、彼の仲間になっていて、どうしようもないくらい憧れた。
――その人の名前は、遠藤友也。
最新話お届けしました。過去話です。
今回の話は……正直面白くはないと思います。主人公がダラダラと送った生活を書かせていただきました。
現時点で主人公は勇者になった時とだいぶ違います。
流されるまま生きてきて、そこで一人の男と出会って、そして変わっていく。
-では、その話を書いた後に、異世界へ召喚され、その後……といった感じで進んでいく予定です。
最初は面白くはないと思いますが、お付き合いくださると嬉しく思います。