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隣の北の鱗魔王様  作者: 尾黒
北の魔王様と人種族
19/23

とどのつまりはこれからも鱗魔王なのである(終)






———————————

とどのつまりはこれからも鱗魔王なのである

———————————



 此度の大魔王様との謁見は、概ね平和に終了した。

 大魔王様との謁見とは、魔王たちが中央へと集まる定例のアレである。


 今期は様々な事柄が重なり、魔王同士で直接顔を合わせる機会が多かったので、全くもって新鮮味も懐かしみもない集まりであった。

 私が巨大化したあの出来事以降、前触れもなく勝手に我が北領へやってくるようになった、私よりも力ある東西南魔王を追い返す術は北領には無いのだ。

 本当に、頼むので事前に予告してほしい。こちらも心の準備やらおもてなしの準備やら、時間が必要なので。


 かつては最弱魔王として歯牙にもかけない扱いをされていたように思うのだが、近頃は魔王方が気安く私へ話しかけるだけではなく、我が城へ気軽に訪れては遊んで帰るということも多くなり、困り果てることがある。主に北の魔王領のトップである私が。

 わかる。わかるのだ。

 目新しいものがご近所(とはいえ領地同士の行き来が簡単な距離かと言えばそうでもない)に増えたのだ。気になって見物をしたいという気持ちもわかる。の、だが。できれば控えてほしい。面と向かっては言えないが。

 私が大きくなったことを面白がり、私(大)を見るたびに笑い転げては腹が痛いと文句を言うのである。

 そちらから勝手に来ておいてからに。理解できぬ。

 このような変化は彼らだけではない。大魔王様への謁見の為訪れた王城の者たちの反応が以前と異なっていた。

 態々水場に近い部屋に案内されたり、魚臭くないのねなどという言葉を聞くことなども以前と変わりはないのだが、北の領地へ今度お邪魔いたします、などという言葉をかけられることも増えた。

 魔王方からの対応の変化や、北領の者たち以外からの接され方の変化は、もしや北の魔王の立ち位置が最弱から弱程度に向上したのではなかろうか。


「いや、違うだろぉよ」

「私に僅かばかりの期待も抱かせぬ『西の』は、……やはり魔王よな……」


 これから会食が始まるという時間。

 下駄の軽快な音を響かせながら歩いていた私を呼び止め、共に歩き出した西の魔王が否定の言葉を間髪入れずに言った。


 まあ、そうだな。私が認められてきたというよりは、北領が観光地として有名になったということのほうが大きいのだろう。

 人間種族の口コミは凄い。

 そして、すぐに旅行雑誌が出回るのもすごい。


 先日まで戦をしていた相手であるぞ。メンタル強すぎぬか?


 と、いらぬ心配をしていたが、現在精力的にこちら側と交流を持とうとしているのは、戦に反対していた勢力であるそうだ。

 元々、人間種族の領域と魔王領とは小競り合いを通して交流をしてきたという歴史がある。

 人間種族の領地である大陸と、魔王領地の間にある島で、戦込みの陣取りをしてきたのだ。

 本気でこちら側へ攻め入ろうとしている人間領の一部と、大魔王様の娯楽の一環という大いなるすれ違いの元長年行われてきたのだが、その歴史に一時的に終止符が打たれた。

 それは、相手側からというよりは、こちら側の都合である。


 大魔王様より個人的にお褒めの言葉を頂いたのだ。


 とてもよい、と。


 恐らく、言いながら笑っておられたと思うのだが、その後の記憶が全くない。

 よい、とは何なのだ。

 戦が終わってよかったのか、私が無様にのたうち回ったのがよかったのか、大魔王様の望む実験の結果が得られたのがよかったのか。


 私にはわからない。



「それはそうと『北の』よ。『最弱魔王』より『弱魔王』のほうが弱そうに聞こえねぇか? 身体ひょろそう」

「確かになにか状態異常を患っているようにも聞こえるな」

 

 しかし、私の言いたいことはそれではないし、聞きたいこともそれではないのである。

 私が黙り込むと、そうさな、と、西の魔王が言う。


「あのお方のなさることについては深く考えないこった。そもそも、俺らとは違う存在だ。同じ位置に居ない。そこに本当に在るのかすら定かではないと、先代の西の魔王がよく言っていた」

「よく言っていたのか……恐ろしいことを言うな、先代は」

「深入りして破滅した魔王もいるからな。ふわっと適度にしとけ、最弱魔王は。もっと筋肉付けとけ」

「最後いらぬだろ」

「最後が一番大事だろうが!」


 そんな益体もないことを話しながら会食の場である部屋の前までやってきた。


 大魔王様は会食には出席しない。

 いるのはいつものメンツである。

 あたりには護衛の役目の者も、案内役も何もいないため、西の魔王が自ら扉に手をかけた。







 そして。



 そういえば、と扉を押し開ける前に、こちらを振り向いて言った。





「さっき大魔王様が言ってた、お前の孫のことはどーすんだ? 人間種族のどっかの王国で勇者になってたんだって話だろ。つーか、お前子供いたっけ? 嫁もいねぇのに?」



「……は? そんな話……、え? 記憶が飛んでいる間にそんな話出てたか!?!? 私の……、孫!?!?」




 初耳だが!?!?





 記憶の片隅に、孫たちにお年玉をあげた風景がよみがえる。


 久しく思い出していなかった記憶。





 けれど、それは、私が魚に、なる、前の……


 くらり、と眩暈がした。

 鮮度が悪そうな目をしているぞ、と言う目の前にいる西の魔王の声が、遠くに聞こえる。






 私は、『北の魔王』と呼ばれている。獣人であり、性別は男である。


 そして、玉のような魚人の赤子として生まれる以前、一人の人間の男として生きていた……という、前世の記憶を持っている。

 それも、地球という球体の星、その中の日本という国で生きていた記憶だ。

 今いるこの世界とはまったく違う世界での記憶。

 

 鱗持つ最弱魔王である私は、人の記憶を持ちながら人にはなれない半端ものの魚人である。


 けれども、私を魔王と呼んでくれるものがいる限り、私は鱗魔王なのである。




 さて、これからどうしてくれようか。

 私の、人化への道のりはさらに遠のくのかもしれない。




end

魔王様、(予定通り)人化ならず。


最弱の魚で鱗な魔王様は、なんか上司からまたやばそうな案件投げられていますが、なんやかんやあっても人化を目標に頑張ることにはかわりありません。

このあと、小話などをちょこちょこ足したいのですが、その時には完結マークをいったん外しますので、気が向いたらまた見に来てやってください。

長らくありがとうございました。またきてね!

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祝完結! またいつか小話読めるのを楽しみにしています
完結お疲れ様でした!
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