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隣の北の鱗魔王様  作者: 尾黒
北の魔王様と人種族
18/23

北の鱗魔王様は……

 

 空の支配者が東を、森の支配者が西を、炎の支配者が南を、水の支配者が北をおさめよ。






 これは命令ではない。予言である。






 空の支配者は翼を持ち、森の支配者は大地を駆ける四肢を持ち、炎の支配者は炎の中で生まれ、水の支配者は水の中で生まれる。







———————————

北の鱗魔王様は……

———————————





 ぬらりと光る眼球を伝い、ほとほと地上に落ちる涙は塩分を含んでいるのだろうか。


 私はその味を知らない。



 北の魔王である私は、今、涙を流して泳いでいる。



 流れる魔力の水流に乗って、空を。



 私が見下ろす先には、戦いに明け暮れていた人種族と魔族の群れ。


 武器を取り落としてこちらを見上げる彼らは、だれもかれもがあっけにとられて立ち尽くしている。

 口が大きく開いて、何かを叫んでいる者もいれば、腰を抜かしている者もいる。

 それは、人と魔の種族問わず。


 私は、廻った。


 魔力で作られる水流に身を任せ、戦場の上空を、市街地の上を、魔王の城の上を、人の営みの上を、泳いだ。

 人種族の多くは私の姿を恐れた。

 大きな影を大地に映して空を泳ぐ私の姿は、だれも見たことがない姿だったのだからそれも仕方のないことであったろう。


 人種族の手から離れた私の鱗を素材として使った武器は、魔力の水をすり抜けて落ちる私の涙が属性を固定させていった。

 もう、二度とほかの属性に何度も切り替わるというようなことはない。数多ある魔力素材と同じ存在となったのである。

 これによって、人種族の持ったほんの少し有利になる伝説の武器(劣化版)は一時的にこの世から消えた。

 そうとなれば、魔族領に憂いはない。

 あっさりと力の均衡は崩れ、驕った一部の人種族によって始まった戦は、この後収束に向かうこととなる。


 私は、そうして人の世でも北の魔王と成った。


----------------------------



「北の魔王様のぬいぐるみ、先行販売分完売でーす! 年末に受注販売の受付をいたします! 申込用紙はあちらでお受け取りください! 人種族領への発送は送料がかかりますのでご確認の上お申し込みくださーい」


「北の魔王様サイン入り立像、シリアルナンバー入りの受付は明日8時からです! 徹夜でのお並びはご遠慮ください! 徹夜で並ぶ不埒な輩は陸魚隊がキャンプ場へ連行したうえで5時間の講習を受けていただくことになりますのでご注意ください! ……え? 講習の内容ですか? それはもちろん、北の魔王様のすばらしさについて講師が休憩なしのぶっ通しで……」



「魔王城バルコニーにて魔王様がお出ましになるのは本日正午です! 本日は通常魔王様です! 本日は通常魔王様です!」


「魔王様を模した、北の魔王様飴は安心のミックスフルーツ味です! 魚介味ではありません! 是非ご賞味ください! ここでしか味わえませんよ!」



 魔王城の外壁に沿って、ここ暫く祭りが続いている。前世での各種イベントのような様子も見せる祭りは、盛況で。


 魔族領各地からも、人種族領からも定期便が就航されて人が集まっている。

 いつかの私の望みでもあった、北の領地の活性化が始まっているのである。不本意な形でではあるが。



 私は、そんな賑わいを執務机の前で遠くに聞きながら思った。


 魔王って本当にこういう感じでよいのか……?、と。



 元々、魔王の座に就くには役者不足であると思っていたのだが、あの滝をのぼった日、私は号泣した。



 魚人殺しと名高い滝は、私に優しかった。

 必死に流れに逆らっていると、いつの間にか水流は私を攻撃することを止め、元の流れに反して逆巻いた。

 我が身から剥がれた鱗の光に導かれて、私は滝を昇った。

 昇って、登って、上って、私は、空にいた。

 それに気が付いた時に、自らの手を見た。

 龍になっているのか、人になっているのか。鏡などないので、すぐに動かせる手を見ることにしたのだ。

 期待に胸躍らせて見下ろした手は、人の形をしていた。


 まさか、人の形になれたのか!? 龍でもなく、人に!? 長年の夢がかなったのか?!!?


 遂に、と感激する心を抑えて、空から地上を見下ろした。

 私を見守ってくれていた魔王たちや『右』に、無事に滝をのぼりきったことを報告しようと思ったのである。


 見てくれ、私の人型の姿を!


 そうして涙ながらに見下ろした視線の先にいたのは、こちらを見上げて手を合わせて泣きじゃくる『右』の姿と、こちらを指さして爆笑する『西の』、そして、あっけにとられた表情の『南の』、二度見、三度見する『東の』。


 なぜそのような反応なのだ。何が何だかわからず、私は何とかそちらへ移動しようと身じろいだ。そして、気づくのだ。


 ……尾びれ、あるな。と。



 私の身体には、尾びれや背びれの感覚がある。

 つまりは、魚体だ。

 いつもの『魚に人間の手足が生えた』姿なのである。


 そ、そんなことあるのか……? あんなに苦労したというのに、あんなに頑張って、気持ちを作って、決死の覚悟で滝をのぼったのに。

 空に水の道を通して泳ぐ魔力が備わっただけ……だと?

 いや、以前に比べれば格段に力を得たということはわかる。

 わかるのだが、ほら、私の望みってそういうアレではなくて、ほら、ほら……あの、アレだから……。


 ……うぅっ!!

 ツライ!!! かつてないほどに!!! ツライ!!!!



 絶望にめまいを起こしたその時、巨大な影が私の下に横たわっているのが見えた。

 私が動くのと連動して、ゆらりと尾びれのような影が動く。


 ……おや……?


 なぜ皆があのような反応をしているのか疑問に思っていたのだが、ついに、その連動する巨影を見て、眼下で『右』が五体投地を行い三魔王がそろって大地に伏して笑い転げる段になって、理解した。






 私、おっきくなっておるな……?







 まるで空を飛ぶ一国の城のように巨大な魚人であるところの私は、泣きながらうろうろした。


 魔力で作られた空を流れる水流に乗り、どうにか元に戻りたくて右往左往した結果、私は魔族領と人種族の住まう地を練り歩く……練り飛ぶこととなったのである。

 その際、あまりに悲しい気持であったためだろうか、戦場にあった私の身から生まれた鱗に影響を及ぼしたようで、人種族が利用していた鱗素材の持つ力がしょんぼりとランクダウンしたらしい。普通の属性武器と同じように、魔力の固定が行われ、属性変化武器ではなくなっていたそうである。

 全然意図していなかったが、結果が良ければすべてよし、と『西の』が喜んでいたので、まあ、そうなのであろう。きっと。おそらく。知らんけど。


 大きな大きな魚体で様々な場所を泳ぎ、様々な種族の者たちから指をさされ、怖がられ、拝まれ、囃し立てられて、私はやっと海へと飛び込んだ。

 勢いをつけすぎると波が立ち上がって陸に影響が起きるやもしれぬので、ゆっくりと。


 そうして、私は1週間程海に引き籠った。

 光ったり、自身のこれまでを振り返ってみたり、絶望したり、羞恥に悶えたりして過ごし、やっと通常サイズに戻った私は、城へと戻った。

 陸魚隊と領地の者たちが、涙を流して出迎えてくれた。

 魚体を維持したまま巨大化した私に、陸魚隊の面々はやる気爆上げで歓迎してくれた。

 まあ、心配もかけたことであるし、色んな面で世話をかけたことでもあるし、陸魚隊の成すことについても多少のことは大目に見てやらぬこともない。

 とはいえ、ちょっと落ち着いてほしい。私の周りで跳ね回る隊員たちの姿は、久しぶりに会った飼い主の前ではしゃぎまわる飼い犬のようであるぞ。

 目を潤ませて片メガネを涙で濡らしている『右』が言うには、「陸魚隊の者たちは、この世に北の方様が物理的に増えてうれしいのです」とのことだ。


 え? 私の体積が増えたのがうれしいのか? なぜ……?


 私が城へ戻りいつものように魔王として収まると、その後始まったのはなぜか、陸魚隊主催の、『おっきい北の魔王様を崇め奉りましょうの会』、略して『お魔つり』である。略せておるのか、これ。

 なあ、まだ戦はちゃんと終わっておらぬのだけども、いいのか? え? ほかの魔王殿たちからやっとけと言われている? いや、何故に……?


 戦が収束していく流れで、人種族の者たちがこっそりと魔王領に船で乗り付けて(怒られ案件であるが、元北領に居たものが主導で行ったことであったため、定期便として陸魚隊監修のもと許可が下りた)『お魔つり』に参加する者が増え。

 各魔王領からも観光目的の者が増え。

 時々私が大きくなって海に浮かんでいたりするものだからさらに見物人含め観光客が増え。

 北の魔王領は賑やかになっていき。


 そして、いつしか戦は終わっていた。




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