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「国民の父」

この国には、音楽がある。






どれくらい前からだろうか、首都では朝7時に街頭スクリーンが一斉に点灯し、1人の男の姿を映し出すようになった。


どの角を曲がっても、どの駅の改札を抜けても、なりたかろうがなりたくなかろうがお構いなしにお馴染みになってしまったあの顔。


穏やかな笑顔、白髪混じりだが清潔感のある髪。黒いスーツ。


いつからか「国民の父」と呼ばれるようになった男の姿を忘れる権利も与えてもらえずに見続けさせられている。


俺がはじめてこの顔を見たのは記憶もおぼつかないほど幼い時だっただろう。


その頃は「彼」は俺の中の特別なヒーローの1人だったと母親には聞いた。


そして最後に画面越しではなく実際に「彼」の顔を見たのが2年ほど前。



そこから半年か一年くらいはこの貼り付けたような笑顔に苛立ちのような腹立たしいような感情が自分の中にもあった。




今は諦めにも似た、疲労だけがそこにある。





映像とBGMは分けては語れないものだろう。



詳しくないが弦楽器がメインのやたらに荘厳な曲だ。


作曲者の名前はたしか国定教科書に載っていたが覚えていない。


覚えたくもなかったのだろう、昔から葬式みたいな曲だと思っていて大嫌いだった記憶がある。



いまにして思えばまさにその通りだった______



東阿国、人口数千万を数える。



報道の自由度は最下位クラス。



この音楽が毎朝流れはじめるようになったころから、


国民も気づかないうちにこの国は死んでいるのかもしれない。

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