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第五話

真由が変わった、と肌で感じるようになったのは、葵がインテルノ・デザインとの追加資料の準備に追われるようになってからのことだった。

わたしにとって、真由と葵は、会社でできた初めての、そして大切な「友達」だった。仕事の愚痴を言い合い、他愛もない話で笑い合える、そんな心地よい関係性。でも、今は違う。真由の目には、以前のような親愛の情よりも、鋭い闘志が宿るようになっていた。

真由は、以前にも増して朝早く出社し、夜遅くまで残業するようになった。彼女のデスクの上には、毎日新しい取引先候補のリストが何枚も置かれ、電話をかける声は、以前よりもずっと力強くなった。

「株式会社ローズリリーの真由と申します。御社の事業拡大に必ず貢献できる提案がございます。一度、お時間をいただけませんか!」

その声は、もはや丁寧な営業というよりも、獲物を追い詰めるハンターのようだった。

ある日、わたしが昼食に誘おうと真由のデスクに近づくと、彼女は受話器を置いたばかりだった。

「ねえ、真由、お昼どうする?」

「ごめん、三葉。急ぎの資料を作らなきゃいけないから、今日はパス」

真由は、パソコンの画面から一度も顔を上げずに言った。その素っ気ない態度に、わたしは少し傷ついた。

「この間まで、一緒にご飯食べてたのにね」

わたしがそう呟くと、真由は初めてこちらを向いた。その目は冷たかった。

「三葉。わたしたちは今、同期で競い合ってるんだよ。新規開拓ってのは、誰かが獲物を仕留めたら、他の二人は獲物を失うってこと。感傷に浸ってる暇なんてないでしょ」

真由の言葉は、まるで氷のように冷たく、わたしの胸に突き刺さった。

「感傷なんて……別にそんなつもりじゃ……」

「葵も、わたしも、今、目の前のチャンスに必死なんだ。三葉だって、ぼんやりしてる場合じゃないんじゃない?」

真由はそう言い放つと、すぐにまたキーボードを叩き始めた。その背中からは、「あなたはライバルよ。これ以上、馴れ合わないで」という明確なメッセージが伝わってくるようだった。

真由の言葉に、わたしは初めて、「負けたくない」という感情を抱いた。このままでは、わたしだけが置いていかれてしまう。友達としての関係が変わってしまったなら、せめてライバルとしては対等でいたい。

わたしは、再び新規開拓のリストに向き合った。

「ABC社は断られたけど、まだ他にもあるはずだ……」

そう自分に言い聞かせながら、わたしは以前断られたABC社の担当者、佐藤さんの声が気になったことを思い出した。あの時、佐藤さんは「以前にもおたくの会社の社員の方からお電話いただいた」と言っていた。でも、真由も葵も、ABC社にアプローチしたことはないと言っていた。

「あれは、誰だったんだろう?」

その疑問が頭から離れず、わたしはこっそり部署の共有フォルダにある過去の営業日報を調べ始めた。

すると、一年前のファイルの中に、ABC社を訪問した記録を見つけた。担当者は、すでに退職している先輩社員の名前だった。日報には「先方からの強い要望により、当面の間、新規取引は見送る」とだけ書かれていた。

「先方からの要望で……?」

通常、新規取引を見送る場合、「当社の都合」と書かれることが多い。それをあえて「先方からの要望」と書くのは、何か後ろめたい事情があったからではないだろうか。

わたしは、葵がインテルノ・デザインの件で「不正ルート」という言葉を使っていたのを思い出した。

ABC社も輸入家具の商社だ。もし、この会社も何か問題を抱えていて、わたしたち商社との取引を拒否しているのだとしたら。

わたしは、友達としての心地よい関係性を失いかけた今、真由や葵に頼るのではなく、自分の力でこの疑問を突き止めたいと思った。この一歩が、わたしを真由や葵と同じ土俵に引き上げると信じて。

わたしは、辞めてしまった先輩の連絡先を、人事部に問い合わせるためのメールを静かに打ち始めた。わたしたち三人の日常に、冷たい風が吹き始めているのを、わたしは感じていた。

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