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對・朱雀戰(3ラウンドめ)

〈北風に煽られ煽られ我がある 涙次〉



(前回・前々回參照。)



【ⅰ】


「さて、これでラスト・ラウンドのやうだ。フル、頼んだぞ!」-「ラジャー!」

孟軍は朱雀(南を司る神獸)、對してカンテラ軍は「龍」(靑龍。東を司る)。空中戰である。朱雀はまづ火焔放射で來た。(ち、ブリザードの次は火か)-牧野、「龍」に冷水を吐くやう指示。龍は本來、水流の激しさを具象化した妖魔だ。朱雀の火焔は、「龍」の吐く水の激流を蒸發させ切るには至らなかつた。孟「朱雀ヨ、南風ダ!」-朱雀熱風を吐く。牧野(ぐわあ。あつちゝ。「龍」、巻き付け!)蛇形の「龍」の躰の長さが、この對戰に利した。ぎゆうぎゆう締め付ける「龍」。これには朱雀、すつかり「やられた」。カンテラ「孟さんよ、朱雀はギヴアップと云つてるぜ」



【ⅱ】


「グヌゝ、役ニ立タン奴メ。後デオ仕置キダカラナ」-カンテラ「その『後』があればいゝがな。フル、『龍』、良くやつた」。恐怖で統治する者より、まづは褒める事。その注文通り、カンテラは牧野と「龍」を勞つた。「大體お前さん、不勉強過ぎるよ」-「?」カンテラとしては、初戰が雪太郎相手で大分徳をした。カンテラの記憶の中には、* 間司霧子や** 伊達剣先と云つた、もつとずつとカンテラの手を煩はせる存在が、犇めき合つてゐる。孟は、カンテラについて知らな過ぎたのだ。まあ、それも皆、全體を俯瞰して見れば、「後の祭り」だつたのだが。



* 前々シリーズ第176話參照。

** 前シリーズ第43話參照。



【ⅲ】


「さあ、だうする、孟さんよ」-孟から見ると「最愛の妻」である、贋遷姫はじろさんに依り捕縛濟み。「マダマダ。俺本體ガ殘ツテイルヂヤナイカ!」カンテラ軍には、それも最早負け惜しみ。じろさん、すかさず、孟にカナディアン・バックブリーカーを仕掛けた。「グエ、ゲホゲホ」孟の咳きに應じて、だらう、空也上人像のやうに、小型の孟が彼の口から、何體も生まれて來た。



※※※※


〈公園はソフトボール部女子逹が占領してゐるベンチに坐れぬ 平手みき〉



【ⅳ】


そして、ミニチュア孟、實體化し、これでもれつきとした【魔】だ。だが、カンテラ、落ち着いて其奴らを剣の錆に-「しええええええいつ!!」。万策盡きた孟、がつくりとうなだれた。「マサカ、コノ俺様ガ負ケルナンテ...」-「割り切れない氣分なのはお前だけだ。俺逹一味に、負けはない。負けた時、殘るのは『死』だけだ」カンテラ、冷酷にさう告げた。



【ⅴ】


「本當なら斬らぬところだ。お前を斬ればタイムパラドクスが起きる。だが、中國人民と日本人民の交流に於いて、お前、邪魔過ぎる」。じろさんが、決めてゐた脊を放す。と、見事な連携プレイで、カンテラ、斬つた。「今日二度めだが- しええええええいつ!!」



※※※※


〈あと一年貯への盡くそれも冬 涙次〉



【ⅵ】


これでカンテラの長い一日が終はつた。素に返つて見れば、年末の花金ではないか。今日の祝盃は美味からう。本當は週末も年末もない、彼らの身ではある。然し、今日のところだけは、勘弁してやつて慾しい。これにて、對・孟悟仁戰、一卷の終はりとする。ぢやまた。



PS: その眞實。「これだけ働いて一錢にもならん。全く以てけしからん!」とカンテラ、お冠だつたのだ。何事も当事者の勞苦拔きには、語れないものである。因みに、贋遷姫はその場に取り殘され、晒しものとなつたと云ふ。擱筆。


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