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呪いの母は破滅を望む  作者: 切磋琢磨


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始まりの終わり

人が、人を襲っていた。


侵入した数十にも及ぶ魔獣が人々に襲いかかり、首元に牙を突き立てては血飛沫を上げる。

戦う術を持たない者がそれを退けるのは難しいだろう。

彼らはすぐに、力なくだらりと腕を垂らした。

ただ、異様なのはここからである。

命運尽きたかに思えた人々が、どういうわけか再び立ち上がった。

そして何が起こっているのか、今度は他の人を襲い始めるのである。


眼下でそのような光景が広がるのを見て騎士団長であるエステランは、ここは地獄かと思わずにはいられなかった。


この前代未聞のパンデミックーー後に【ゾルナの惨劇】と呼ばれるーーーを引き起こしたのは、1人の女だった。

メルトワール王国が30年前に実行した「ゾルナ族掃討作戦」によって滅ぼされた、ゾルナ族最後の生き残りである。

女の目的はただ一つ、一族を滅ぼした国家へ復讐すること。

その為だけに、ただひたすらに十数年も貴族社会に潜伏し続けた女は、独房で口々に喚いた。


「お前たちが全ての元凶だ」

「お前たちが悪い」

「一族の復讐を果たすのだ」


女の目には、呪いの炎が灯っていた。


ーーーーー


それは、今から30年前のこと。


人々が寝静まる深い夜、突如として集落に轟音が鳴り響いた。

隕石でも降り注いだかのような地鳴りに、ゴロゴロと建物が崩れる音。

一体何事かとゾルナ族の住人が慌てて家から飛び出ると、そこで目にしたのはあたり一面に広がる火の海。

夢を見ているのではない。周囲を囲う炎の熱がジリジリと肌を焼き、空気が冷え込む夜にも関わらずジットリとした汗の感触が、紛れもなく現実の出来事だと伝えていた。


一体何が起こったのか。

状況を理解できず困惑していると、集落の中に騎士がいるのをあるゾルナ人の男が見つけた。

本来、ここにあるはずのない騎士の姿が、なぜここにいるのか。

それは大きな違和感だった。

しかし、男が違和感に気づくには、目の前の光景があまりにも衝撃的すぎた。

男が騎士へと駆け寄る。

これは一体なんだ、何が起きているのか、と。

しかし、その男から言葉を口にすることはなかった。

次の瞬間、男の上半身がずりっとすべり、ぐちゃりと音を立てて地面へと落ちる。

騎士がその手にもつ両手剣が、男の体を二つに切り裂いていた。

騎士の鎧についた返り血が、てらてらと炎に照らされて鮮やかに色づく。


訳も分からないまま、誰もが一斉にその場から逃げ出した。

なぜ、あの男が騎士に殺されたのか、理由など知らない。

唯一分かるのは、その騎士は集落の人間にとって脅威だ、と言うことだけ。

今逃げなければ、自分も同じ運命を辿ることになる。

その恐怖だけが体を支配していた。


全身から冷や汗が止まらない。

もし、今も後ろから騎士が迫っていたら?

どんなに苦しくても、必死に足を動かした。

息を吐くたびに肺を刺すように痛く、心臓は締め付けられたように悲鳴をあげる。

血の気が引いてしまったように、体からの感覚を感じない。

しかし、それでも脇目も振らずに走る。


そしてどうにか集落の反対が見え始めた時、ゾルナ人の心に一筋の希望が見え始めた。

集落から抜けて、暗闇に紛れる事ができれば、どうにか逃げおおせるかもしれない。

しかし、それが絶望に変わるまでそう時間はかからなかった。

一縷の希望をかけて走り続けたゾルナ人が目にしたのは、隊列を組んで待ち受ける騎士と、その背後に聳え立つ高い壁。

既に包囲されていて、逃げ場など一つもない事を、その時初めて理解した。


それは、ただの一方的な虐殺であった。

女子供であろうが、老人であろうが動くものは全員殺された。

包囲を突破しようとするものも、魔術を受けて物を言わぬ肉塊に。


そして、夜が明ける頃には凄惨な光景が広がっていた。

あたり一面に並んだ、苦悶の表情を浮かべる死体。

その地に染み込む、赤黒く広がった血。

黒く消し炭になった家屋の数々。

騎士の手によって、ゾルナ族の集落は一晩にして滅ぼされた。


ーーーーー


一族を皆殺しにされた女の望みは、一族と同じようにメルトワール王国を滅亡させること。

その為に女は十数年という歳月をかけて計画したこのパンデミックは、ヴァルニアに甚大な被害を及ぼした。

魔獣100体に加えて、被害を拡大し続ける屍のような人間により、発生した死傷者数は優に1万人超え。

過去に類を見ない歴史上最悪の惨劇であり、事実メルトワール王国は壊滅的な被害を受けた。


しかし、王国は滅亡の危機を寸前のところで免れた。

一国の王子と、そして1人の美しい貴族令嬢による英雄的行動が、メルトワール王国を滅亡の危機から救ったのだ。

残念ながら女の目的が果たされることはなかった。

女は憎悪と嫌悪感を隠すことなく、貴族令嬢に罵詈雑言をぶつけた。


「裏切ったのかお前!」

「絆されやがってこの淫売が!」

「地獄へ堕ちろよ恥知らずが!!」


それを最後に女は処刑台へと拘束され、絞首刑に処されることで悲劇は幕を下ろした。

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