《Re:エピローグ 桜魂の継承者たちへ》
春の風が、また京都の街を包んでいた。
木造の町家の並ぶ道に、柔らかな陽光が差し込む。
かつて“桜魂”と呼ばれた物語の記憶が、静かに世界に溶け込んでいる。
桜木新は、茶屋の二階で一人、桜の木を見下ろしていた。
窓の外には、満開の桜。
その花びらの一枚一枚に、過去の影が微笑んでいるようだった。
「……今年も咲いたな。」
新は呟き、湯呑を手に取る。
香ばしいお茶の香りが、過ぎ去った季節をやさしく包む。
——桔梗。
——朋広。
——ひより。
彼らの名を、心の中でひとつひとつ呼ぶ。
それは祈りにも、感謝にも似ていた。
あの日、風に乗せて放った旋律は、もう誰のものでもない。
それは“この世界”そのものが奏でる、永遠の調べとなった。
ふと、新は古びた譜面帳を開く。
そこには、最後の一曲——《Re:Bloom》とだけ記されている。
ペンを取り、静かに書き加える。
『To the next soul.』
そして、笑った。
優しく、どこか寂しげに。
桜の花びらが一枚、風に乗って机の上に落ちる。
その瞬間、微かに光が揺れた。
——次の“継承者”が、どこかで目を覚ます。
新は立ち上がり、障子を開ける。
春の光が全身を包み込む。
その光の向こう、誰かの声が聞こえた。
「あなたの音、ちゃんと届きました。」
それは、未来からの声。
まだ見ぬ誰かの“始まり”の音。
桜木新はゆっくりと微笑み、振り返らずに歩き出した。
桜の魂は、途絶えない。
それは、誰かが誰かを想うたびに——再び咲く。
この世界が続く限り。
風が吹き、音が鳴り、光が宿る限り。
桜魂は、永遠に継承されていく。




