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《Re:第4章 第1話 桜の記憶、そして未来へ》

風が止んだあとの世界は、まるで時間そのものが静止しているようだった。

桜木新は、まだ光の余韻の中にいた。

目を閉じると、ひよりの声が確かに残っている。


——“次の春も、あなたの音を聴かせて。”


その言葉が、鼓動のように胸の奥で繰り返される。


校庭には、桜の花びらが積もっていた。

淡い光を宿したそれらは、まるで記憶そのものが形をとって降り積もったようだった。


「……桔梗さん、朋広さん、そして——ひより。」


新は小さく呟く。

“継承”という言葉が、これほど重く、優しい意味を持つものだとは思わなかった。


どこかで鳥が鳴き、空がほんのりと朱色を帯び始めた。

日が沈む前、光の粒が再び風に舞う。

そのひとつが新の手のひらに落ち、微かな音を立てた。


ピアノの音だ。


驚いて振り向くと、校舎の屋上の方から旋律が流れてきていた。

それはひよりが残した“記憶の曲”——《桜の調べ》。


新は駆け出した。

階段を上り、屋上の扉を開けると、そこには光の粒でできたピアノが置かれていた。

その前に、桜の形をした譜面が浮かんでいる。


『桜の記憶を奏でよ。未来のために。』


ひよりの文字だった。


新は微笑み、ピアノの前に座る。

指を置いた瞬間、風がまた吹く。

音がひとつ鳴るたびに、桜の花が開き、光が世界を包んでいく。


その旋律は、どこか懐かしくて、どこか新しい。

朋広が奏でた“始まり”の音。

桔梗が繋いだ“想い”の音。

ひよりが託した“未来”の音。


それらが、ひとつの楽章となって空へと昇っていく。


「——これが、俺たちの桜魂おうこんだ。」


彼は目を閉じた。

すべての記憶が優しく重なり、風の中に消えていく。


そして、最後の音が響いたとき。


桜の花びらが一斉に舞い上がり、世界が新しい春を迎えた。


空にはひよりの声が微かに残っていた。


——“ありがとう、新くん。”


風が彼の頬を撫でる。

その笑顔の先、遠くの空で桜がもう一度咲いた。


“終わり”ではなく、“継承”として。


桜木新はその光景を見届け、静かに目を閉じた。


次の春へ、記憶を繋ぐために。

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