《Re:第3章 第2話 桜の調律者》
桜木新の足元で、光が波紋のように広がった。
次の瞬間、彼は“もう一つの学園”に立っていた。
そこは、現実と似て非なる世界。
空は淡い琥珀色、校舎は桜の枝に包まれ、廊下には風が流れている。
時間そのものが呼吸しているような世界だった。
——ここが、桜魂の中枢。
——ひよりが言っていた「記憶の庭」か。
遠くでピアノの音がした。
その旋律は、どこか懐かしい。
彼の心臓がそのリズムに共鳴し、掌の紋章が淡く光った。
「……導いてくれ、ひよりさん。」
足音が桜の花びらを踏むたび、記憶の断片が浮かび上がる。
桜咲学園の過去、桐原桔梗の微笑、そして——
福田朋広という青年の影。
「俺の中に……この人たちの記憶が、流れ込んでるのか?」
その時、校舎の屋上から声がした。
「ようやく“調律者”が目を覚ましたか。」
振り向くと、そこには黒い学ランの青年が立っていた。
瞳の奥が桜色に光り、まるで新を映しているかのようだった。
「君は……誰だ?」
「俺は“もう一人の君”だよ。桜魂が選んだ、もう一つの鼓動。」
青年は静かに微笑み、指先で風を奏でる。
桜の花びらが渦を巻き、音が形を持ち始めた。
「この世界は、調律を失えば崩壊する。
ひよりも、朋広も、桔梗も——全ては“音”の連鎖だ。
君がその“主旋律”を受け継いだ。」
「俺が……主旋律……?」
青年は頷き、桜の光を背に言った。
「調律者として、選ばれた者は二度と元の世界には戻れない。
だが、君が奏でる旋律が世界を再び“咲かせる”。」
新は黙って拳を握る。
胸の奥で、ひよりの声が微かに響く。
——“新くん、どんな世界でも、あなたの音を信じて。”
その言葉が背中を押した。
「わかった。俺が奏でる。俺が、この世界を咲かせる。」
青年は微笑んだ。
「なら、始めよう。桜の調律を。」
空が鳴った。
光の五線譜が現れ、無数の桜の旋律が天へ昇っていく。
世界が震え、音が生まれる。
それは——新たな物語の“第一音”だった。




