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《Re:第2章 第2話 記憶の音が呼ぶ場所》

翌日の放課後。

ひよりは放送室の扉をそっと開いた。

埃の匂い、微かに残るチョークの粉。

そこには、使われなくなった古い録音機が静かに置かれていた。


――“桜の記憶”。


昨日手に入れた譜面を広げ、指先でなぞる。

五線譜の隙間に、見覚えのない小さな符号がいくつも刻まれていた。

暗号のようなそれは、まるで誰かのメッセージのようだった。


「これ、たぶん……あの夜の音だ。」


そう呟いて、録音機のスイッチを入れる。

カチリ。

磁気テープがゆっくりと回転を始めた。


すると、雑音の向こうから――

懐かしい旋律が流れ出した。


ピアノの音。

静かな雨のように降り注ぐ、あの音色。


ひよりは目を閉じた。

そこに、朋広の声が確かにあった。


『ひより……もしこの音を聞いたら、僕はまだ君の中にいる。

 桜は散っても、記憶は音に変わる。

 だから――奏でて。僕の代わりに。』


テープはそこで途切れた。

だが、ひよりの胸の中では旋律が続いていた。


震える手でピアノの前に座り、そっと鍵盤に触れる。

音が溶け、空気が揺らぐ。

まるで、時の向こうから誰かが指先を重ねてくるようだった。


「……朋広さん、いるんでしょう?」


沈黙。

だが、ひよりの頬を一筋の風が撫でた。

桜の香りが漂い、録音機の針がひとりでに動く。


その瞬間、五線譜の上に淡い光が走った。

符号が繋がり、まるで導くように一つの言葉を形づくる。


──“再会”。


ひよりは息を呑む。

それは、彼が最後に残した約束の言葉だった。


音が途切れ、放送室は静寂に包まれた。

けれどその静けさは、哀しみではなく、再び始まる鼓動のように温かかった。


「……待ってる。

 今度は、私の音であなたを呼ぶから。」


窓の外では、放課後の風が校庭を通り抜け、

遠くで誰かが吹くハーモニカの音が響いていた。


その音色は、確かに“再会”を告げていた。

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