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《Re:第1章 第12話 桜の向こうの約束》

放課後の音楽室。

窓の外では桜が淡く光を放ち、夜の帳に溶けていく。

桐生ひよりはピアノの前に座り、静かに鍵盤へ指を置いた。


一音――、二音――。

響きは柔らかく、けれどどこか哀しい。

それは、彼女がもう何度も夢の中で弾いた旋律だった。


「朋広……」

その名を口にすると、風が微かに吹いた。

譜面台の上のページが勝手にめくれる。

そこには続きの音符が、確かに存在していた。


――まるで、誰かが続きを託したかのように。


ひよりは涙を堪えながら弾き続けた。

その音は校舎を抜け、夜の桜並木を通り抜けていく。


やがて、空気が震えた。

見えない光の粒が舞い、音楽室が桜色の輝きに包まれる。

そこに――彼の姿が、ぼんやりと現れた。


「……やっと、君に届いた」


桜原朋広。

彼は穏やかな笑みを浮かべ、ひよりを見つめていた。


「この音は、君の中に眠っていた。

 僕の記憶と、君の願いが重なって……やっと一つになったんだ」


ひよりの指が止まる。

「もう、会えないと思ってた……。

 でも、あなたは……ずっとここにいたのね。」


朋広は頷いた。

「そう。桜が咲くたびに、君の音が僕を呼ぶ。

 それが“桜魂”――命を繋ぐ旋律だよ。」


ひよりの頬を涙が伝う。

「この音を……絶やさない。

 私が、次の誰かに届ける。」


朋広は微笑み、静かに消えていく。

光となり、風となり、桜の外へと還っていく。


「――ありがとう。君がいたから、僕はもう一度春を見ることができた。」


最後の音が、夜空に溶けた。

そして、ひよりはそっと目を閉じた。


桜の向こうで、誰かが微笑んでいる気がした。

それが未来の誰かであっても、過去の記憶であっても――構わない。


彼女の心に咲いた花は、もう二度と散ることはなかった。

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