表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/38

《Re:第1章 第10話 放課後の旋律、桜魂再奏》

夕暮れの音楽室。

窓の向こうでは、沈みゆく陽が桜の枝を金色に染めていた。

桐生ひよりはピアノの前に座り、古びた楽譜をそっと譜面台に置く。


その横で、藤堂蓮がヴァイオリンの弓をゆっくりと張り直していた。

沈黙が心地よく続く。

まるで、これから起こる“何か”を互いに察しているようだった。


「準備は、いい?」

ひよりが小さく尋ねる。


蓮は頷き、弓を構える。

「……合わせよう。最初の音で、全部わかる気がする」


ピアノの鍵盤に指が触れる。

一音目が鳴った瞬間、空気が変わった。


――音が、風を震わせる。

――風が、光を撫でる。

――光が、記憶を呼び覚ます。


ひよりの脳裏に、見知らぬ情景が流れ込む。

古い学園。春の光。桜の下で微笑む青年――**桜原朋広**。

その背中が、あまりにも優しくて、胸が痛くなる。


「……朋広さん……?」


手が止まりそうになる。

だが、蓮の音がそれを支えた。

ヴァイオリンの旋律が、まるで彼女を励ますように包み込む。


「弾け。見てろ、音が導く」


蓮の声が遠くで響く。

ひよりは再び指を動かす。

旋律が絡み合い、光の粒となって部屋を舞う。


その瞬間、天井の桜模様のステンドグラスが淡く輝いた。

音が、世界を超えた。


桜原の声が、確かに響いた。


――「ありがとう。次の君に、託した音だ。」


涙が頬を伝う。

ひよりは鍵盤に視線を落とし、静かに息を吸い込む。


「……届いた。

 この音が、誰かの記憶を繋いでいくのなら――私は、奏で続ける」


最後の和音が重なり、音楽室に静寂が戻る。

風がそっとカーテンを揺らした。


蓮が弓を下ろし、静かに呟く。

「……お前、泣いてるのか」


「ううん、これは……桜が咲く音」


夕陽の中で、ひよりの涙は光を反射していた。

その一滴が床に落ちた瞬間、

古い楽譜の端が淡く光り、風に乗って一枚の桜の花弁が舞い上がった。


――桜魂おうこんは、音として継がれていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ