20/38
《Re:第1章 第5話 記憶の輪郭》
午前の光が差し込む教室。
桐生ひよりは黒板の前に立ち、ぼんやりと文字を見つめていた。
“記憶は風に、心は桜に”
誰が書いたのか分からないその言葉が、彼女の胸を強く揺らす。
昨日の夜の夢。
そして、ノートに現れた“約束”の文字。
――これはただの幻じゃない。
誰かの想いが、確かに彼女の中で息づいている。
窓の外の桜がざわめき、花弁がひとひら舞い込む。
その花弁が机に落ちた瞬間、ひよりの視界が滲んだ。
放課後。
桜咲学園の裏庭。
ひよりは古桜の前に立ち、ゆっくりと目を閉じる。
風が吹く。
桜の音が聞こえる。
“君が僕を忘れても、桜が覚えているよ。”
その声は、確かに彼のものだった。
目を開けると、桜の根元に淡く光る影。
人の形をしているようで、すぐに霧のように消えた。
ひよりは震える手で指輪を握る。
その瞬間、頭の中にいくつもの景色が流れ込んできた。
見知らぬ学園、涙する少女、そして笑う青年。
――福田朋広。
桜の花弁が降り注ぐ中、ひよりは静かに呟いた。
「あなたの記憶が、私の中に……」
風が応えるように吹き抜けた。
桜が揺れ、世界が一瞬だけ光に包まれた。




