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《第4章 第3話 最後の春、永遠の風》

その夜、桜咲学園の屋上には誰もいなかった。

 だが、風だけが確かに吹いていた。

 それは桜色に染まり、どこか懐かしい香りを残している。


 水無瀬咲良は、ひとりで立っていた。

 眼下の桜並木は、満開の花を咲かせている。

 風に乗る花びらは、まるで彼女に語りかけるようだった。


 「……先輩。全部、届きましたよ。」


 そう呟くと、手の中の光がふっと揺れた。

 “桜の欠片”は、もはや小さな結晶ではなく、淡く脈動する生命のように鼓動していた。

 それは朋広の意志、そして桐原桔梗たちが繋いだ想いのすべてだった。


 風が強く吹いた。

 咲良の髪が宙に踊り、瞳に映る景色が一瞬だけ桜の海に変わる。

 その中に、朋広の背中が見えた気がした。


 ――行け。

 ――桜を、永遠に咲かせろ。


 その言葉が、彼女の胸の奥に響く。

 咲良は両手を広げて、夜空へと祈るように言った。


 「私はもう、迷わない。

  あなたの夢も、願いも、風にしてこの空に残す。」


 光が膨らみ、桜が夜空へ舞い上がる。

 無数の花びらが星々のように輝き、空に“桜の軌跡”を描いていく。


 それは――終わりではなく、始まりだった。


 地上では、誰も知らない小さな風が街を抜けていく。

 その風が触れた場所で、ふと桜の花がひとひら咲く。

 その中心に、咲良の微笑みが宿っていた。


 翌朝。

 咲良の姿は学園のどこにもなかった。

 ただ、古桜の下にひとつの桜色のペンダントが置かれていた。

 それは朋広の欠片と融合した“新しい桜魂”だった。


 ――春は、再び巡る。


 そして、その風の先で。

 桐生ひよりが、窓際でふと顔を上げた。

 「……いま、風が……」

 頬を撫でた桜の香りに、彼女は静かに微笑んだ。


 ――咲良の記憶は、確かに次の世代へと受け継がれた。


 春の光の中で、桜はまた咲き始める。

 永遠の風が、そのすべてを包み込みながら――。

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