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街ねこ司法書士、消えた土地の夢  作者: W732
第3章:古地図が語る秘密
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3-3. 地下水脈の攻防

 七星社の地下施設で山田の共犯者たちに遭遇した健太と橘弁護士は、怒りを露わにした。地下水路に響くミケの威嚇の声が、この静寂を打ち破り、緊張感が一気に高まった。健太は、橘弁護士の隣に立ち、彼らの動きを警戒した。ミケは健太の足元で、獲物を狙うかのように低く唸っている。

「なぜ君たちがここにいる!?」男たちの一人は、驚きと焦りの入り混じった顔で叫んだ。「この場所は、我々しか知るはずのない……!」

「残念でしたね」健太は、冷静さを保ちながら答えた。「あなたの悪事は、全て暴かれました。この地下施設も、あなたの企みも、全てね」

 男は、健太の言葉に激昂した。「何を言っている!我々は、この街の未来のために尽力しているのだ!古いものを一掃し、新しい街を築く。その邪魔をする者は、誰であろうと許さない!」

「未来のため?あなた方がやっているのは、犯罪だ!再開発を隠れ蓑にした、卑劣な詐欺行為だ!」橘弁護士が鋭い声で切り返した。

 男の隣にいた者たちが、ゆっくりと健太たちに近づいてきた。彼らの手には、工具のようなものが見える。数で言えば、相手の方が上だ。健太は、橘弁護士を庇うように、一歩前に出た。

「ミケ!」健太は、ミケに合図を送った。

 ミケは、健太の意図を察したかのように、「ニャアアア!」と一際大きな声で鳴くと、突然、男の一人の足元に向かって飛び出した。

「な、なんだ!?」男は、ミケの突然の行動に驚き、バランスを崩した。その隙に、ミケは、男の手元にあった、何か光る物体を素早く奪い取った。

「私の……!」男は叫んだ。

 ミケは、光る物体をくわえたまま、健太の足元へと戻ってきた。そして、健太の足元に、その物体をポトリと落とした。それは、まるで水晶のような透明な物体で、微かに青白い光を放っていた。

「これは……!?」健太は、その物体を拾い上げた。ひんやりとして、どこか神秘的な輝きを放っている。

 男は、ミケが奪い取った物体を見て、顔色を変えた。「貴様!それを返せ!」

 男は、健太に襲いかかろうとした。しかし、その瞬間、橘弁護士が素早く動いた。橘弁護士は、事前に警察から護身用に渡されていたスタンガンを取り出し、躊躇なく男の腕に押し当てた。

「ぐあああああ!!」男は、絶叫し、その場に崩れ落ちた。

「この件は、既に警察が動いている。無駄な抵抗はやめなさい」橘弁護士は、冷たい声で言い放った。

 男の部下たちは、橘弁護士の行動に怯み、一瞬動きが止まった。その隙に、健太は、ポケットから携帯電話を取り出し、田中刑事に連絡を入れた。

「田中刑事!NPO法人の残党たちが、七星社の地下施設にいます!すぐに応援をお願いします!」健太は、状況を簡潔に伝えた。

 田中刑事は、健太の言葉に驚きを隠せない様子だったが、すぐに「分かった!すぐに現場へ急行する!」と力強く答えてくれた。

 電話を切ると、健太は、手の中の青白い光を放つ水晶のような物体を改めて見つめた。これは、一体何なのだろうか?なぜ、彼らはこれを必死で奪い返そうとしたのか?

 ミケは、健太が持つ物体をじっと見つめ、何かを伝えようとしている。その視線は、水路の中にある、大きな金属製の物体に向けられている。

 健太は、ミケに促されるままに、水路の中に目を凝らした。水は、底が見えないほど深く、その中に、巨大な金属製の物体が沈められている。それは、まるで、巨大なポンプのような形をしている。

 そして、そのポンプの先端には、微かに、健太が持っている水晶のような物体と同じ、青白い光が揺らめいているのが見えた。

「これは……水脈を操作する装置なのか!?」健太は、思わず呟いた。

 ミケは、健太の推理が当たっていることを告げるかのように、静かに健太の顔を見つめていた。

 男は、橘弁護士のスタンガン攻撃から回復し、ふらふらと立ち上がった。 「貴様ら……!この『七星の輝き』を邪魔するなど、許さないぞ!」男は、怒りに満ちた声で叫んだ。

「七星の輝き……?それが、その物体の名前か?」健太は尋ねた。

 男は、健太が持つ「七星の輝き」を睨みつけた。 「そうだ!それは、七星社が、この地下水脈の力を操るために作り出した、唯一無二の宝具だ!これがあれば、この下町の地下水脈を意のままに操れる!そうすれば、この街の全てが、我々のものになるのだ!」

 男の言葉に、健太と橘弁護士は、驚きを隠せない。彼らが狙っていたのは、単なる盗品の隠匿場所ではなかった。この七星社の遺産、そして、この「七星の輝き」を使って、この下町の水利権、ひいては街そのものを支配しようとしていたのだ。

「そんなことはさせない!」健太は、きっぱりと言った。

 男は、再び部下たちに指示を出した。「捕らえろ!その宝具を奪い返せ!」

 男の部下たちが、健太たちに向かって一斉に襲いかかってきた。健太は、橘弁護士とともに、狭い通路を駆け出し、彼らから距離を取ろうとした。

 ミケは、健太の足元から、突然、水路へと飛び込んだ。そして、水路の中を、素早い動きで泳ぎ始めた。

「ミケ!?」健太は、思わず声を上げた。

 ミケは、水路の中を泳ぎながら、巨大なポンプのような装置へと向かっていく。そして、その装置の側面にある、何か小さなレバーのようなものを、前足でチョン、と触った。

 すると、ガガガガガ!という大きな音が響き渡り、ポンプのような装置が、突然、激しく振動し始めた。そして、水路の水面が、まるで沸騰するかのように、激しく波打ち始めた。

「な、なんだ!?」男は、驚きと恐怖で叫んだ。

 水路の水位が、みるみるうちに上昇していく。そして、水流が激しくなり、周囲に水しぶきを上げた。

「くそ!あの猫め!装置を操作しやがった!」男は、怒りに震えた。

 健太は、ミケの行動の意味を理解した。ミケは、水路の装置を起動させ、水流を操ることで、彼らを足止めしようとしているのだ。

 水流が激しくなったことで、男の部下たちは、足元を取られ、動きが鈍くなった。中には、水路に落ちそうになる者もいる。

「佐々木先生!今だ!」橘弁護士が叫んだ。

 健太は、橘弁護士とともに、水路の縁を走り、男とその部下たちからさらに距離を取ろうとした。

 男は、怒りの形相で健太を追いかける。 「貴様ら!この『七星の輝き』を奪っておきながら、ただで済むと思うな!」

 健太は、手の中の「七星の輝き」を強く握りしめた。この宝具が、この下町の地下水脈を操る鍵なのだ。

 その時、地下通路の奥から、複数のライトの光が見えてきた。そして、人の声が聞こえてくる。 「警察だ!動くな!」

 田中刑事と、複数の警察官たちが、地下通路の奥から姿を現したのだ。

「田中刑事!」健太は、安堵の声を上げた。

 男と部下たちは、警察の出現に顔色を変えた。 「くそ!警察か!」

 彼らは、逃走を試みた。しかし、警察官たちは、迅速な動きで彼らを包囲し、一人、また一人と身柄を確保していった。

「佐々木先生!無事ですか!?」田中刑事が、健太に駆け寄ってきた。

「はい、田中刑事!これが、『七星の輝き』です!」健太は、手の中の青白い光を放つ水晶を田中刑事に手渡した。

 田中刑事は、その物体を見て、驚きを隠せない様子だった。 「これは……一体……」

「七星社という秘密結社が、この地下水脈を操るために作り出した宝具だそうです。NPO法人の残党たちは、これを手に入れて、この街の水利権を支配しようとしていました」健太は説明した。

 健太は、ミケに目をやった。ミケは、水路から上がり、濡れた体をブルブルと震わせている。そして、健太の足元に擦り寄ってきた。

「ミケ、よくやったな!」健太は、ミケの頭を優しく撫でた。

 ミケは、「ニャア」と一声鳴くと、健太の足元でゴロゴロと喉を鳴らした。その瞳は、達成感と、そして、どこか誇らしげな光を宿しているようだった。

 その後、山田の共犯者たちも、全て逮捕された。彼らは、地面師詐欺だけでなく、盗品の隠匿、組織的な犯罪行為、そして、この「七星の輝き」を巡る秘密結社の遺産の略奪未遂など、複数の罪で起訴されることになった。

 この事件は、世間を大きく賑わせた。特に、下町の地下に隠されていた秘密結社の存在と、水脈を操る宝具「七星の輝き」の発見は、人々の大きな関心を集めた。しかし、警察は、詳細な情報を一部伏せたまま発表し、混乱を避けるように努めた。

 数日後、健太は事務所で、ミケと一緒に、この事件の顛末を振り返っていた。 「ミケ、まさか、この地下水脈の秘密が、これほど壮大なものだったとはな。お前がいなければ、永遠に闇の中に隠されたままだっただろう」

 ミケは、「ニャア」と一声鳴くと、健太の膝の上に飛び乗ってきた。そして、健太の顔をじっと見上げている。

 健太は、ミケの頭を優しく撫でた。

 ミケは、健太の言葉に答えるかのように、健太の腕の中で、満足そうに目を閉じた。地下迷宮の攻防は終わりを告げた。しかし、この下町には、まだ知られざる物語が隠されているのかもしれない。

 この事件は、健太とミケにとって、単なる地面師詐欺の解決では終わらなかった。それは、この下町に隠された、壮大な歴史と、未来への希望を巡る物語だった。そして、健太は、その物語の語り部として、この街の「司法書士」として、新たな一歩を踏み出したのだ。

 下町は、これからも変わりゆく。しかし、健太とミケが共にいる限り、この街の平穏と、その「生命」は、未来へと受け継がれていくに違いない。そして、彼らが紡ぐ物語は、この下町の新しい記憶として、永遠に語り継がれていくことだろう。


「街ねこ司法書士、消えた土地の夢」 完

【免責事項および作品に関するご案内】

 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、地名等はすべて架空のものです。実在の人物、団体、事件とは一切関係ありません。

 また、本作は物語を面白くするための演出として、現実の法律、司法書士制度、あるいはその他の専門分野における手続きや描写と異なる点が含まれる場合があります。 特に、司法書士の職域、権限、および物語内での行動には、現実の法令や倫理規定に沿わない表現が見受けられる可能性があります。

 これは、あくまでエンターテイメント作品としての表現上の都合によるものであり、現実の法制度や専門家の職務を正確に描写することを意図したものではありません。読者の皆様には、この点をご理解いただき、ご寛恕いただけますようお願い申し上げます。

 現実の法律問題や手続きについては、必ず専門家にご相談ください。

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